エピローグ「賢者のスローライフ」
世界を救った英雄。
俺には、そんな大層な肩書きが与えられようとしていた。
王都に凱旋した俺を、王は自ら出迎え、最高の賛辞と共に、伯爵の爵位と広大な領地、そして望むだけの財産を与えようとした。
ガイアスやセラフィナも、多くの民衆と共に、俺に心からの謝罪と感謝を伝えてきた。
だが、俺は、その全てを丁重に、しかしきっぱりと断った。
「光栄なお話ですが、俺は爵位も財産も興味ありません。ただ、一つの願いがあります」
王が、固唾をのんで俺の言葉を待つ。
「俺はアティスで、俺の仲間たちと、静かに暮らしたいだけなので」
俺はそう言って、にこりと笑った。
あっけにとられる王や貴族たちを尻目に、俺は仲間たちと共に、生まれ変わった故郷、アティスへと帰っていった。
それから、数年後。
「辺境の楽園アティス」は、今や大陸でも有数の自由都市として、更なる発展を遂げていた。
俺は、市長のような役職に就いて、街の運営に携わっている。といっても、実務のほとんどは優秀なリリアがこなしてくれているのだが。
昼下がり。
俺は、街を見下ろす屋敷のテラスで、穏やかな午後のお茶を楽しんでいた。
テーブルの向かいには、成長して、街の運営を完璧にこなす頼もしい女性になったリリア。
隣では、相変わらず楽しそうに新しい魔道具の設計図を描いているシルヴィア。
そのまた隣では、屈強な冒険者たちから「姐さん」と慕われる伝説の鍛冶師となったフレアが、豪快にお茶菓子を頬張っている。
そして、俺の膝の上では。
すっかり丸々と肥え、もふもふ度を増した神獣ルナが、幸せそうに寝息を立てている。
「レオンさん、次はこの地域に学校を建てたいと思うのですが」
「レオン、見て見て!今度は空飛ぶ箒を作ってみようと思うの!」
「レオン!この新しいお菓子、めちゃくちゃ美味いぞ!あんたも食え!」
《……むにゃ……レオン……もっと撫でるのだ……》
騒がしくて、温かくて、愛おしい日常。
追放されたあの日、絶望の果てに夢見た光景が、今、ここにある。
俺は膝の上のルナのもふもふを心ゆくまで撫でながら、心からの笑みを浮かべた。
俺の望んだ理想のスローライフ。
これ以上の幸せは、世界のどこを探しても見つからないだろう。
俺の物語は、ここでひとまず、幸せな結末を迎える。




