第16話「賢者の進軍」
アティスの城門が開かれ、俺たち一行は迫りくる魔王軍の前に姿を現した。
敵の軍勢はおよそ千。対する俺たちは、たったの四人と一匹。
敵の将軍らしきオークが、俺たちの姿を見て、腹を抱えて笑った。
「ブヒヒヒ!たったこれだけで出てくるとは、自殺志願者か!女どもを捕らえ、男は殺せ!」
号令と共に、魔物の群れが地響きを立てて突撃してくる。
だが、俺たちは誰一人、表情を変えなかった。
「シルヴィア、頼む」
「お任せを!くらえ!広域殲滅結界!」
シルヴィアが、地面に設置していた巨大な魔道具を起動させる。それは、俺の【解析眼】による精密なエネルギー計算と、彼女の天才的な発想が融合した、対軍隊用の決戦兵器だった。
魔道具から放たれた閃光が、魔王軍の前衛部隊を覆う。次の瞬間、閃光に触れたゴブリンやオークたちが、悲鳴を上げる間もなく塵となって消滅した。
一瞬にして、敵の三分の一が戦場から消え去った。
「な、なんだぁ!?今のは!?」
敵将のオークが、信じられないといった顔で叫ぶ。
「さて、次はこっちの番だぜ!」
フレアが、獣のような俊敏さで敵陣へと切り込んだ。彼女が振るう星屑鋼の戦斧は、オークの分厚い鎧を紙のように切り裂き、その巨体を軽々と吹き飛ばす。彼女が通った後には、敵兵の骸の道ができていた。彼女が装備している防具も、もちろんフレア自身の作品だ。魔物の攻撃など、傷一つ付かない。
「リリアは後方の指揮を。ルナ、幻術で敵を混乱させてくれ」
「はい!」「承知した!」
二人が短く応え、即座に行動に移る。リリアの的確な指示で、街の自警団が弓矢による支援攻撃を開始する。
ルナは、その身から淡い光を放った。すると、敵兵たちは仲間同士で斬り合いを始めたり、あらぬ方向へ走り出したりと、完全に統率を失った。神獣の操る幻術は、下級の魔物には抗う術がないのだ。
敵陣は、もはや阿鼻叫喚の地獄絵図と化していた。
俺は、混乱する敵兵の中を、ゆっくりと歩いて進む。
俺に向かってくる敵もいたが、【解析眼】の前では、全ての攻撃はスローモーションに見えた。
剣の軌道、槍の突き、魔法の弾道。その全てが、俺には事前に視えている。
「その剣、0.5秒後に俺の右肩を狙う。だが、踏み込みが甘い」
ひらり、と身をかわし、すれ違いざまに剣の柄で相手の首筋を打ち、気絶させる。
「その魔法は、着弾地点の誤差が半径1メートル。脅威じゃない」
歩みを止めずに、俺の横を火球が通り過ぎていく。
それはもはや、戦闘ではなかった。
遊び、と言ってもいい。
俺たちは、ほとんど汗もかかずに、瞬く間に千の魔王軍を蹂躙し、無力化していった。
敵将のオークは、その光景をただ、腰を抜かして見ていることしかできなかった。
「ひ……ひぃぃ……!な、なんなんだ、こいつらは……!」
俺はオークの前に立ち、静かに剣を向けた。
「俺たちの楽園に手を出そうとしたこと、後悔させてやる」
その日、アティス近郊で魔王軍の一部隊が謎の全滅を遂げたという報は、まだ誰にも知られていない。
だが、俺たちの力は、かつての勇者パーティ「神聖なる光刃」などを、遥かに凌駕している。
その事実だけは、確かだった。
俺たちの次の目的地は、四天王に蹂躙されているという、王都だ。




