第14話「後悔と贖罪」
四天王ゴルザが、倒れた騎士団長にとどめを刺そうと、その巨大な斧を振り上げた、その時だった。
「やめなさい!」
か細く、しかし凛とした声が響いた。
声の主は、聖女セラフィナだった。彼女は満身創痍の体を引きずり、ゴルザの前に立ちはだかったのだ。
「ほう?まだ抵抗する者がいたか。聖女、か。良い贄だ」
ゴルザは、セラフィナを虫けらのように見下ろした。
セラフィナは震えていた。恐ろしかった。だが、彼女はここで逃げるわけにはいかなかった。これは、自分の罪を償うための、たった一つの機会かもしれない。
「ガイアス様……」
彼女は、瓦礫の中でうめく勇者を見た。かつての自信に満ちた姿はどこにもない。ただの、敗北者だ。
そして、その原因を作ったのは、自分にもある。
あの日、レオンさんの追放を止められなかった、自分の弱さが。
その瞬間、瓦礫の中から、ガイアスのかすれた声が聞こえた。
「……やめろ……セラフィナ……」
彼は、ふらつきながらも立ち上がろうとしていた。その目には、涙が浮かんでいた。
「俺のせいだ……俺が……俺が、弱いから……」
そして、ついに彼は、心の奥底で押し殺していた後悔を、絶叫として吐き出した。
「俺がッ……俺がレオンを追放さえしなければッ!!」
その魂の叫びは、戦場の喧騒を切り裂いて響き渡った。
仲間たちが、兵士たちが、そして王都の民たちが、息をのんで勇者の告白を聞いていた。
レオン。
一部の者は、かつて「神聖なる光刃」に所属していた、地味な青年の名を思い出した。
「あいつがいれば……あいつなら、こんな化け物の弱点だって、一目で見抜いたはずなんだ……!俺は……俺は、嫉妬していた……!俺の力じゃない、あいつの力で勝利していることに……!だから、追放したんだ……!」
プライドも、見栄も、何もかも捨てた、無様で、惨めな告白。
セラフィナもまた、涙を流しながら、天を仰いだ。
「レオンさん……ごめんなさい……!私には、あなたを引き留める勇気がなかった……!お願い……誰か、助けて……!」
勇者の後悔。聖女の贖罪。
彼らの無力さと、悲痛な叫びが、絶望に沈む王都に響き渡る。
それは、読者である皆様が待ち望んだ、最高のカタルシス。
自分たちの過ちの代償を、彼らは今、骨の髄まで味わっていた。
ゴルザは、その人間たちの滑稽なドラマを、鼻で笑った。
「レオンだと?今更、存在しない誰かの名を呼んで助けを乞うか。哀れな奴らめ。まとめて、地獄へ送ってやる!」
ゴルザが、セラフィナとガイアスを同時に葬り去ろうと、巨大な斧を天高く振り上げた。
誰もが、終わりを覚悟した。
その、瞬間だった。
空から降り注いだ一本の光の矢が、ゴルザの斧を弾き飛ばしたのだ。




