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第11話「決定的な失敗」

 地に落ちた評判を回復するため、ガイアスは無謀な賭けに出た。


 王国が長年手を焼いている高難易度のクエスト――「古龍ヴォルドラゴンの討伐」。成功すれば、失った名誉を取り戻し、莫大な報酬も手に入る。起死回生の一手だった。


「いいか、諸君!この依頼を成功させ、我々が今もなお最強であることを証明するのだ!」


 ガイアスは仲間たちを鼓舞するが、その顔には隠しきれない焦りが見えた。


 セラフィナは不安を覚えていた。レオンがいた頃なら、彼は何日もかけて古龍の生態を調べ上げ、万全の策を練ってくれたはずだ。だが、今のガイアスは、ただ聖剣の力に頼るだけ。あまりにも、準備が杜撰だった。


 そして、討伐当日。


 古龍ヴォルドラゴンが巣食う火山の頂上で、パーティは圧倒的な存在と対峙した。


 灼熱のブレスが岩を溶かし、巨大な尻尾の一撃が大地を揺るがす。


「ひるむな!突撃!」


 ガイアスは聖剣を構え、先陣を切って突っ込む。だが、古龍の鋼鉄のような鱗は、聖剣の刃をたやすく弾き返した。


「馬鹿な!聖剣が効かないだと!?」


「ガイアス様、あいつの首の下、鱗が逆立っている部分があります!そこが弱点かもしれません!」


 戦士が叫ぶが、それは罠だった。古龍は意図的にそこを狙わせ、カウンターのブレスを吐き出す。パーティは瞬く間に炎に焼かれ、陣形が崩れた。


 かつて、レオンが口を酸っぱくして言っていた言葉を、誰も思い出せなかった。


『いいか、ガイアス。ドラゴン種の中には、逆鱗を囮にして、本当の弱点を隠す個体がいる。ヴォルドラゴンの場合、伝承によれば、本当の急所は逆鱗の下じゃない。右翼の付け根に隠された『第二の心臓』だ。そこを破壊しない限り、無限に再生する』


 彼らはその事実を知らない。


 何度攻撃しても、傷が再生していく古龍を前に、パーティは絶望的な消耗戦を強いられた。


「セラフィナ!回復が追いつかん!」


「もう、魔力が……!」


 そして、悲劇は起きた。


 体勢を崩したガイアスをかばい、セラフィナが古龍の爪の一撃をまともに受けてしまったのだ。


「ぐっ……ぁ……!」


 聖女の純白の衣が、真っ赤に染まる。彼女は吹き飛ばされ、岩壁に叩きつけられて動かなくなった。


「セ、セラフィナァァァッ!」


 ガイアスの絶叫が響き渡る。


 パーティの生命線である聖女が戦闘不能になったことで、戦線は完全に崩壊した。


 彼らは命からがら撤退するのがやっとだった。


 討伐は、完全な失敗に終わった。


 セラフィナは一命を取り留めたものの、聖女の命ともいえる魔力回路に深刻なダメージを負い、重傷。


 パーティは半壊し、王国からは多額の賠償金を請求された。ギルドはついに、「神聖なる光刃」からSランクの称号を剥奪することを決定した。


 ギルドの薄暗い一室で、決定事項を告げられたガイアスは、ただ床を睨みつけることしかできなかった。


 なぜだ。なぜ、こうなった。


 俺は勇者だ。聖剣に選ばれた、特別な存在のはずだ。


 その時、彼の脳裏に、不意にあの男の顔が浮かんだ。いつも冷静に、的確な分析を口にしていた、あの男。


『右翼の付け根に隠された『第二の心臓』だ』


 なぜか、昔聞いたはずのその言葉が、今になって鮮明に蘇ってきた。


 ガイアスは、そこで初めて、自らが手放したものの本当の価値に(不本意ながら)気づき始めていた。


 だが、その気づきは、あまりにも遅すぎた。

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