第1話「理不尽な追放」
【登場人物紹介】
◆レオン(主人公)
Sランクパーティ「神聖なる光刃」に所属していた青年。スキル【解析眼】が「ただの鑑定の劣化版」と見なされ、追放される。穏やかな性格だが、芯は強く、物事の本質を見抜く力を持つ。その能力の真価に目覚め、辺境の地で新たな人生を歩み始める。
◆ガイアス(勇者)
Sランクパーティのリーダー。聖剣に選ばれたエリートだが、傲慢で人の意見を聞かない。自分の力こそが絶対だと信じている。レオンを追放したことで、自身の凋落を招くことになる。
◆セラフィナ(聖女)
パーティのヒーラー。レオンの追放に内心反対していたが、ガイアスの威圧に逆らえなかった。心優しいが気弱な一面も。後に自らの過ちと向き合うことになる。
◆リリア(村娘→街の看板娘)
レオンが流れ着いた辺境の村の村長の娘。素朴で心優しく、レオンの最初の理解者となる。彼の活躍を傍で支え、やがて街の運営に不可欠な存在へと成長する。ハーレム要員1。
◆ルナ(神獣)
レオンに助けられる伝説の神獣「月光狐」。もふもふの体毛を持ち、普段は子狐の姿だが、戦闘時には強力な幻術と光の魔法を操る。レオンに絶対の信頼を寄せる相棒。
◆シルヴィア(エルフの魔道具技師)
森の奥で暮らす訳ありのエルフ。革新的すぎる発想が受け入れられず、一族から半ば追放された天才。レオンに才能を見出され、彼に心酔する。ハーレム要員2。
◆フレア(獣人族の鍛冶師)
伝説の鉱石を扱える鍛冶師を探す中で出会う、快活な狼の獣人族の少女。情に厚く、腕は確か。レオンの的確な助言で伝説の鍛冶師へと覚醒する。ハーレム要員3。
「いい加減にしろ、レオン!貴様のその根拠もない戯言にはうんざりだ!」
高難易度ダンジョン「深淵の迷宮」の最深部手前。Sランクパーティ「神聖なる光刃」のリーダーである勇者ガイアスの怒声が、湿った空気を震わせた。
俺、レオンはただ、いつも通りに進言しただけだった。
「待ってくれ、ガイアス。この先の通路、右の壁から三番目の石だけ、空気の流れが僅かに違う。恐らく、踏み込み式の広範囲麻痺毒の噴出罠だ。左側を通るべきだ」
俺は冷静に言葉を続ける。
「それと、奥に待ち構えているミノタウロス・ロード。あれは通常種と違って、右足の腱が古傷で弱点になっている。そこを狙えば……」
俺の言葉を遮り、ガイアスが手に持った聖剣の柄で、近くの壁を殴りつける。ガァン、と鈍い音が響き、パーティのヒーラーである聖女セラフィナの肩が小さく震えた。
「黙れ!俺の聖剣が、俺の勇者としての勘が、正面から突破しろと告げている!貴様のその【解析眼】とかいうゴミスキルは、ただの鑑定の劣化版だろうが!いちいち口を挟むな!パーティの士気が下がる!」
またか。もう何度目になるか分からない光景だ。
俺のスキル【解析眼】は、ただ対象の名称を読み取るだけの「鑑定」とは違う。対象の構造、成り立ち、弱点、そして僅かな未来の状態までを視ることができる。
このダンジョンでここまで無傷で来られたのも、俺が罠の構造を看破し、敵の弱点を正確に指摘してきたからだ。だが、ガイアスはそれを決して認めなかった。
俺の進言で危機を回避すれば、それは「俺の勘が冴えていた」おかげ。俺の指摘通りに敵を倒せば、「俺の聖剣の一撃が強力だった」から。全ての功績は、勇者ガイアスのものに書き換えられた。
「しかし、ガイアス様……レオンさんの言うことには、いつも助けられています。一度、耳を傾けてみては……」
おずおずと口を挟んだのは、聖女セラフィナだった。彼女だけは、俺の貢献を薄々感じ取ってくれていた。
だが、そのか細い声は、ガイアスの次の言葉でかき消される。
「セラフィナ!お前までこいつの戯言を信じるのか!いいか、このパーティに必要なのは、俺の聖剣と、お前の回復魔法だけだ!こいつのような、ただ見ているだけの寄生虫ではない!」
ガイアスは忌々しげに俺を睨みつけ、そして決然と言い放った。
「レオン。貴様は今日限りでパーティを追放だ」
空気が、凍った。
俺は一瞬、何を言われたのか理解できなかった。追放?この俺が?
「……な、何を言っているんだ、ガイアス。俺がいなければ、この先の罠はどうする?ボスの攻略だって……」
「うるさい!貴様がいなくなれば、俺の力が十全に発揮される!足手まといが消えて清々するわ!」
ガイアスはそう吐き捨てると、俺の背負っていたバッグから、予備のポーションや食料を乱暴に抜き取った。
「これはパーティの共有物だ。貴様に渡すものなどない。報酬もだ。今までの分は、貴様を養ってやった手間賃だと思え」
最低限の着の身着のまま、なけなしの金貨数枚を投げつけられる。それは、このダンジョン攻略の成功報酬の百分の一にも満たない額だった。
俺は、ただ立ち尽くすことしかできなかった。
長年、パーティのために尽くしてきた。危険な偵察も、徹夜での情報分析も、全ては仲間と共にダンジョンを攻略するためだった。その結果が、これか。
「……レオンさん……」
セラフィナが悲痛な顔で俺を見ている。だが、彼女は何も言えない。傲慢な勇者の威圧に逆らう勇気は、心優しい彼女にはなかった。
俺は、そんな彼女に力なく微笑みかけるしかなかった。
「……気にするな、セラフィナ。……達者でな」
それが、俺が「神聖なる光刃」の一員として発した最後の言葉だった。
ガイアスに背中を押され、迷宮の入り口へと追いやられる。閉ざされていく石の扉の向こうから、ガイアスの勝ち誇ったような声が聞こえた。
「さあ、諸君!寄生虫は消えた!真の勇者の力を見せてやろう!」
その言葉を最後に、扉は完全に閉ざされた。
ダンジョンの入り口に一人残された俺の心には、理不尽な仕打ちへの怒りよりも、深い、深い絶望だけが渦巻いていた。




