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透明な毒を抱く手は、赤に染まる  作者: 夜風 紅葉
序章:「馬鹿の極み」
7/8

第4話:ああ、哀愁の黒天使竜

 あれから数か月。相変わらずルオはラザに振り回され、廊下に立たされる(ただしラザと一緒)こともあった。

 卒業。本来ならめでたい行事だが、生徒たちは頭を抱えていた。

 曰く。「中学校に行ったら今度こそ勉強がやばい」

 曰く。「学校の友達と別れたくない」

 曰く。「卒業文集なんて無理」

 最後のが一番の理由だ。卒業文集のために文を作成せねばならず、これをしないと卒業証書をもらえない。留年なぞしてしまったら親にどのような反応をとられるかと思うと、生徒たちは恐ろしくてサボることができないのだった。

 そんな時、ルオは先生方の本音を知る。

 生徒たちのプリントを先生が置いて行ってしまったので職員室に届けようとした時だ。


「あ~もう、無理ですよこんなん!生徒が何人いると思ってるんです!?全員分の文集に目を通し、コメントを書き、修正を入れるなんて無理に決まってるでしょ!?」


 ヤンキー先生の廊下でも聞こえる声が職員室から聞こえる。


(え……?いや確かにめんどいし大変だろうけど……いやいやいや)


 果たしてこのまま職員室に入っていいのだろうか。大量のプリントを抱えながらルオは廊下で立ち尽くした。


「あ、あの~、えっと。先生……プリント……を、ですね……」


 扉を挟んで歯切れ悪く言うルオだった。


 そんなこんなで皆無事に文章を書き終え、卒業式を迎える。

 先生は卒業式の準備や研修があるそうで、生徒よりも大変らしい。

 ***

 ルオは最後の通学路を歩いていた。今までに何往復もした通学路。ラザと喧嘩しながらだったこともあるし、ラザが夏風邪の時は一人で帰ったこともあった。

 道の草ですらに思い出のある通学路。

 次に通るときは通学路ではなくなっていることがなんとも悲しく、ゆっくりと歩いた。


「先生、おはようございます。お世話になりました」


「おぉ~、クルドレアか。早いな~。えらいえらい。感心感心。俺なんか寝坊してさっき来たよ?」


 変わらずマイペースなヤンキー先生。


「先生、(ラザ)の中二病どう思います?」


「あ~、日常生活では騒がないようになったな」


 しかし寝ているとき、すなわち授業中には騒ぐ。

 二人が話していると、噂をすればなんとやら、ラザが来た。


「いやぁ、卒業ですねぇ」


「卒業だなぁ」


 しみじみとそんな会話をしていた、のだが。


「あ、クルドレア君、ガレストル君、おはようございます。______で、あんたはなんでサボってんの?さっきから先生方が最終確認でバタバタしてるよね?ねぇ?手伝おう、って気はないの?」


 とほかの教員にせっつかれヤンキー先生は「じゃあ、またあとでな」と消えていった。


 厳粛な音楽が鳴り響く中、卒業式は厳かに進んだ_____わけがない。


「ん~、くかぁ~、ぐがぁ~、ぐ~、す~……」


 隣でいびきをかくラザにルオは内心ひやひやしていた。

 出席番号順に呼ばれ、証書を受け取る。その前に、起こさなくては。しかしラザ・ガレストルという男は寝起きが悪い。至難の業である。


「ルオ・クル____」


「あ~、んぁ~……今こそ、黒天使(ダークエンジェル)(ドラゴン)を……討伐……すべし!」


「ごほっ、げほっっっっ!?!?!?」


 ルオの名前が呼ばれかけたその時、ちょうどラザの寝言がかぶった。

 会場から咳が聞こえる。それは風邪ではなく、驚き故の咳だった。しかし例外が一人。ルオだ。何とか咳をしてラザの寝言を誤魔化そうと思ったのだが、大体の人が聞いてしまった。


(なんでよりによって僕の名前が呼ばれたときにぃぃぃっっっ!)


 この状況で前に進み出るのには、正直、かなり勇気がないとできない。

 ルオは助けを求めてあたりを見回す。

 エレーノはこぶしを握り締め、狂暴に目を光らせている。これはラザは帰った後、拳骨を一発は我慢せねばなるまい。

 ルオの母、ルナは顔を真っ赤にしてプルプルとしている。おおかた、笑いをこらえているのだろう。

 ヤンキー先生は天を仰いでいるし、教頭はわかりやすく青筋を立てている。


(僕、どうすればいいんだろう……。名前読んだのに出てこない、って怒られるかな……。いや、でも呼びかけてただけだし……)


 ルオの思考がグルグルとまわる。いわゆる、「パニクる」というやつだ。

 そんなルオに、助け舟。教頭がもう一度呼びなおしてくれた。


「ごほん。___ルオ・クルドレア」


 ギシギシと音を立てそうな足を動かし、卒業証書を受け取る。そのまま自分の席へ逃げ帰る。

 それから何人か名前を呼ばれ、ついに。


「____ラザ・ガレストル」


(あああああ!まだ起きないのか!こいつは!)


「ラザ・ガレストル」


(頼むから起きてくれ!)


「ラザ・ガレストル!」


 起きない。迷惑極まりない。


「ラザ……起きないと…………キャベツ、食わせるよ」


 最終手段。耳元での「脅し」だ。


(頼む、起きてくれ……起きてくれ……)


「えっ!?きゃきゃきゃ、キャベツッ!?!?え、やだ!食べない!無理!」


 これは……逆効果だ。でもラザは起きる。特大の爆弾発言かまして。


「ラザ・ガレストル!!!!」


「え、なに、呼ばれてたの?もっと早く言ってよ~」


 小声でぶつくさ言いながら証書を受け取りに行く。


(お前が起きないのが悪いだろ!!起こしてやってんだから!変な寝言言いやがって!)


 ぶつくさ言いたいのはルオである。


「皆さんが選ぶ道は、どれも希望にあふれ、光に満ちています。自信をもって、人生を楽しんでください。それでは、起立。校歌斉唱」


 先生方は、きっとゆるやかでなめらかな、美しいメロディーを期待しただろう。しかしきっと無理だ。


「明日のー!空はー!どんな色だろうー!そのために私たちはー!進んでー行くー!!」


 元気いっぱいに歌うラザ。その歌声はこの場に響く音楽の調和を乱し、破壊していく。簡単に言うと音痴だ。それなのに大声。聞き手が耳をふさぎたくなるレベルである。


「えー、以上を持ちまして、卒業式を閉会とさせていただきます。各自卒業証書は鞄にしまうこと」


 ぐしゃり!

 隣から嫌な音が聞こえルオが目を向けるとラザが雑に鞄に突っ込んでいた。「何」をかは言わずもがな。


「ちょ、お前馬鹿!普通のプリントならまだしも___いや、よくない。けどそんな厚紙を剛力でわざわざ曲げずとも____!」


「え~、だいじょーぶだいじょーぶ」


 ラザがルオの忠告をまともに聞くはずがない。


(あ~あ、途中までしんみりしてたのに。この学校とお別れなのか、ってしんみりしていたのに!なんならラザとこの学校で会うのは最後か、なんて悲しくすら思ったのに!)


 しんみりしたのは式の音楽の影響だと、ルオは思うことにした。


「ま、俺ら中学も一緒だしな!頑張ろうな!」


「……うん」


(ああ、いい笑顔で腹が立つ。ああ、この笑顔と一緒にいられるのが、嬉しい。多分。)


 と、ルオは思った。






これにて序章終了です!次は第一章!中学校生活!


余裕があればルオとラザの卒業文集書こうかな~、とかヤンキー先生のやんちゃ時代書こうかな~、とか思っています。

(あ~あと、「悪路二刀大角大魔王ノ魔法核実験」も書きたいな~。時間ほしい……)

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