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透明な毒を抱く手は、赤に染まる  作者: 夜風 紅葉
序章:「馬鹿の極み」
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第2話:受講料無料!ヤンキー講座

(待ってくれていた方がいるかどうかはさておき)投稿、遅くなりすみませんでした!

「協力しようか_____?」


 その声を受け、ラザはふんふんと首を縦に振る。


「よぉし、ヤンキーの極意を教えてやろう!」


(先生ちょろすぎ)


 先生は、ラザに技(?)を伝授するのを楽しんでいるようにも見えた。ルオとしては、本当にこれ以上ラザを変人にしてほしくない。


「クルドレア、ガレストルのガムテープとってやれ。こいつ、今日から俺の弟子だから」


 こんなにすぐ弟子を取っていいのだろうか。ルオがそう問うと、先生はにっこり笑ってこたえてくれた。


「ガレストルに、それだけの才能があるということだな」


 確かにラザは運動神経が悪いわけではない。悪いわけではない、が。意味なく他人を挑発して負けて落ちこぼれていくラザの姿がルオの目に浮かぶのだ。ともかくルオはラザに噛みつかれないようにそ~っとガムテを取る。同級生をガムテープでぐるぐる巻きにするのは勿論いい気がしない。しかしラザはこうでもしないと静かになってくれない。だからルオは仕方がなくガムテープでラザを巻く。

 普段ならガムテープを取ったた瞬間に暴れだすラザだが、今日は妙におとなしい。正座をし、真剣な目をしている。


(あの超変人のラザをおとなしくさせるなんて!)


 先生がヤンキーどころか、もっとやばいものにみえてきたルオだった。


「ヤンキーの極意っつーのはな、自分を『最強』と思わないことだ」


 いつも「最強最強」と叫びまくっている自称・ヤンキーが目をそらす。そして自称・ヤンキーは


「なぜですか?」


 と訊く。


「おう。世の中には『油断は真の敵なり』という言葉があるんだが、意味は分かるよな?」


 先生は「『わからない』なんて言わせねーぞ」というような力のこもった眼差しでラザを見据えたが、ラザは意に介さず飄々と言ってのける。


「まっさかぁ、わかるわけないじゃないっすか先生!」


「この前の小テストに出てたんだけどな?」


 先生はジトリ、というような目を向ける。


「……はぁ。クルドレア、教えてやってくれ」


 説明するのが面倒になった先生はルオに丸投げした。この先生、なぜ教師としてやっていけるのかが疑問である。


(学校側の人手、足りないんだな)


 というのがルオの見解だ。それはともかく、ルオはスラスラと意味を述べてみせた。


「はい。失敗する原因は油断が非常に多いことから、なによりも怖い、本当の敵である、という意味ですよね」


「だそうだ。俺は油断して負けていったやつを何人も見ているからなぁ」


 先生は遠い昔を懐かしむような、そんな口調で言った。


(やっぱりヤンキーだったんだね……?)


 先生の言動の一つ一つがルオの疑念を確固たるものにしていく。もはやルオは確信していた。先生が元ヤンだと。普段から「荒っぽい先生だなぁ」とルオは思っていたのだった。


「隠れているほうが賢いんだぜ。『ヤンキー』ってだけで狙われることもあるからな」


(狙われるって……お巡りさんに?)


 先生の言葉に対し、ルオはところどころに突っ込みたくなった。これは恐らく反抗期云々ではない。


「なるほどなるほど。心に刻み、身に着けます!」


 ルオはラザの素直な態度に感心しかけたが、ラザは腕にペンでガッシガッシと書き込んだ《身に着けた》。


「先生、さすがに心臓に刻む勇気はないので、これで勘弁してください!」


「お、おう……いや、俺は別に強制してないからな?」


 まあ、普通の授業ではラザは寝てばかりなので、少しは成長したと言っていい……のかもしれない。


「そんで、話を戻すと、『最強じゃない』と思えばもっと強くなろうとするだろう?そうやって強くなろうと努力していると、無意識で本物の最強ヤンキーになれるかもしれないんだ」


「へぇ。でも、モチベあげたいときってどうするんすか?」


「菓子でも食っとけ」


 雑なアドバイスである。しかしラザは腕に「菓子」とデカデカと書き込む。


「あとは弱みを握らせないこと。弱みを握られたことが弱みになる。脅されて手も足も出ねぇ状況になったら困るだろ。なによりダセェ!!」


「え~、でも、どうやってごまかせばいいんですか?俺、弱みなんて数えきれないんだけど」


 ルオの頭の中で「ラザの弱み」が再生される。テストで0点を取ったくせに「俺、最強!頭いいもん!」と叫んでいたこと。毛虫を見て「いやぁぁぁーーーー!!!!!」と叫んだこと。いずれにせよラザが叫んでいる記憶ばかりだ。ああ、あと、キャベツが嫌いすぎて泣きじゃくっていたこともあったような。


「そうかぁ。じゃあ、まず一つ目。克服しろ。でも黒歴史なんて克服しようがないだろ?そもそも作らないように努力しろ。二つ目。お前みたいな鋼のメンタルがあるならば、いっそ自分から言って弱みじゃないアピールしろ。ただそれだとお前の目指す『完璧最強ヤンキー』にはなれないなぁ。三つ目。逃げろ。逃げられるなら逃げるに限る。しかしこの場合は周りに『あいつ逃げた』と思わせないこと。以上を踏まえて言うと、ヤンキーは頭がよくちゃいけねぇんだ」


 ここまで一気にしゃべると先生はフゥ、と息をついた。ラザの腕はもう真っ黒だ。それこそなにかの呪文のよう。


「あ、一通り説明しちまった後だけど、ヤンキーはホイホイ気軽になっていいもんじゃないんだからな?」


「はーい、覚悟を持ってなりますね」


 本当にラザは大丈夫なのだろうか、と思うと同時にルオはヤンキーの奥深さに身震いをした。なりたいとは思っていない。


「ん?なんかうるせぇな」


 もともとざわざわしていた教室(先生が本来いるべき場所)だが、さらにざわざわが大きくなる。その内容は______。


「先生おっせぇな」


「サボってんじゃね?


「うわまじ?やっばー!でも一限目がつぶれてんのは普通にうれしい」


「頑張れラザ&ルオ!」


「いや問題起こしてんのはどうせラザでしょ」


 等々。なるほど、先生のヤンキー講座で一限目がつぶれかけているらしい。先生は戸をガラッと開け、うるさい生徒たちに向かって叫ぶ。


「おぉいみんな!一限目と二限目は自習だ!」


(そんなにいっぱいヤンキー講座するんだ……)


 心の底から自習がしたいと思うルオだった。教室からは歓声が聞こえる。生徒たちが喜ぶものだから、先生は気づいた。


(コイツら《生徒たち》、自習しないんじゃね?)


 と。


「あ~、いや、やった分は前に提出しろよ!5ページ超えてねぇと補習だかんな!」


 途端に巻き起こるブーイング。やはりサボるつもりだったらしい。先生はそんな生徒たちの声を遮るようにドアを閉めた。


「さて、ガレストル。あー、中二病だと冷静に周りを観察できないだろ?これはヤンキーになるんだったら実は致命的で……」


 そこまで言うと先生はハッと口をつぐんだ。


「二人ともおとなしくして、反省したフリをしてくれ!」


 押し殺したような声で先生が言い、ラザとルオはわけもわからないままシュン、と反省したフリをした。そのとき、ルオの耳はカツカツカツ……という音をとらえた。


(誰か来る……!?)


「いいか、社会で遅刻は許してもらえないんだぞ?時間厳守なんだぞ?」


 先生が説教を始めた直後、廊下の角から教頭が姿を現す。先生の頬に汗が伝う。

 コツコツコツ、カツカツカツ……。

 教頭はルオやラザを一瞥し、通り過ぎて行った。ついでに言うと、教頭はかなり目つきが悪い。


「ふぅ……」


 三人同時に息をついたが、その中でも特に安堵しているのは先生であった。


「先生は何故あんなに早く気がついたのですか?」


 いくらなんでも気が付くのが早すぎる、とルオは思った。まるで野生動物だ。


「香水だな。俺は耳と鼻、目、性格、顔のいい男だからな!」


 がっはっは、と笑う先生だが、ルオは「最後の二つは自分で言うことではない」と冷めた目をしていた。だいたい人が来たのに気づくとき、関係ないだろう。


「へぇぇぇ、さすが先生ですね!」


 ラザはなにも思わなかったらしい。純粋な目をキラキラとさせている。そろそろ付き合いきれなくなったルオは教室に戻ろうと思い、


「先生、僕、自習してきますね」


 と声をかけた。しかし、


「おいおい、クルドレア。こっからがいいんだぜぇ?聞いとけよ」


 引き止められてしまう。自習するのを止める先生がいてたまるか、とルオは思った。


「いえ……僕、別にヤンキーになろうとしてませんし」


「そういわずにぃ~」


 食い下がる先生を振り切り、ルオは無事教室に帰還。しかし次の瞬間、好奇の目をしたクラスメイトに質問攻めにあった。

 ***

 家に帰ってルオはベッドに倒れこみながら、結局ヤンキー講座がどうなったのか気になってきた。一限目二限目どころか、先生はほぼ丸一日、ラザにつきっきりだった。

みなさんは絶対にラザの真似をしないでくださいね。作者は責任を負いかねますので。「油断は真の敵なり」は「油断大敵」とほぼ同じ意味ですね。

それから、評価ボタン(?)を押してくれた方、ありがとうございます!

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― 新着の感想 ―
やばい人がいると楽しいですよね。私も読んでて楽しいです。
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