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カムバック・いつかのあの頃

アラームが鳴る。

まどろむ意識を徐々に目覚めさせる。

俺のスマホのアラームはこんな音だっただろうか。

そうだ、これは確か昔のスマホで使っていたやつだ。

というか明日は休日なのになんで俺はアラームをかけたんだろう。

昨日は確か、家に帰る途中で・・・・

「っ!!!」

あの感覚は鮮やかに、確かな死の現実を俺の思考(あたま)に焼き付けていた。

それと同時にあの暗闇を、その中で交わしたあの"神様"との言葉を一つ一つ思考(あたま)の中で改めて嚙み締めなおした。

そして飛び起きた先の光景はひどく見覚えのあるものだった。

掛けられた制服、帰宅して放り投げられたのだろう鞄、好きで集めていた漫画を詰めた本棚には、小学生の時に獲った作文コンクールのトロフィーが埃をかぶったまま置かれている。

忘れるわけもない、俺の実家、俺の部屋だ。

(『ここで終わりたいかい?』)

あの"神様"とのことを覚えているということはこれは夢ではないのか。

鳴りやまぬアラームを止め、時間を確認する。

【2026年4月13日AM7:00】俺が高校に入学して間もないころだ。

そうだ。この日から、その先10年俺を蝕む記憶が生まれてしまったのだ。

だが俺は戻ってきたんだ。

これがどれだけの幸運なのか、どれほど数奇なめぐりあわせなのか。

自分には知る由もないことだが、せいぜい最大限利用させてもらおうじゃないか。

そんな意思を心に固め、いざ目下一番の問題はなにかと考えようとしたところ

「双~、朝ごはんあるから起きろよ~。」

突然呼ばれたものだから、変に身構えてしまったが

これはとてつもなく聞き覚えがある。

俺はアラームが鳴ってからもうだうだとベットから起き上がろうとしなかった。

そうすると今のように呼ばれていた。

この部屋だけでも見てるだけでひどくおかしな気分になるというのに。

「うん、今行くよ。」

これを無視すると部屋に突撃されてそれはそれで嫌でもあるし

何より自分の目でもう一度会いたいと持ったから、俺は部屋を出る。

階段を下りて台所へ続く廊下を歩く。

そういえば、冬に毎回冷たそうに裸足で廊下を歩く俺を見て「スリッパ履けばいいのに」と言われ

これくらいなんともないと思わせたかったのか何なのか、頑なに裸足にこだわっていたという非常にどうでもいい話を思い出しつつ、台所の扉を開けた。

「あれ?今日はちゃんと起きるんだね。」

先に朝ごはんを食べていた父がそう声をかけてきた。

「まあたまには?なんか腹減ってるし。」

この時間軸的には昨日会っているはずだが、実際の俺の経験的には3年ぶりの再会だ。

よくもこんなにもスムーズに話せるもんだと自分でも驚いている。

俺の父は祖父と祖母の開いた理髪店を継ぎ、理容師として働いている。

母が仕事の関係上朝が遅いこともあって、朝食は父がすべて用意してくれている。

「今日目玉焼きないの?」

「そうなんだよ。昨日卵切らしてるの忘れて買ってなかったんだよね。悪い、明日作るわ。」

父は決して器用な人ではなく、やや天然を感じる性質だが、意外にも料理は嫌いではないようで

某動くのお城の映画を見た翌日には、分厚いベーコンと見事に半熟の目玉焼きが乗ったトーストを作ってくれたりもした。

「とりあえずパンだけ食ったら家出るよ。」

「入学して1週間だよな、たしか?どう?新しく一緒に行く友達とかできた?」

早えよ。と、当時の俺も思っただろうし今の俺も思った。

実際そのうちそういった関係の友達はできるのだが、少し先の話だ。

「しばらくはアイツと一緒だよ。通う方向も一緒だし。」

「ユイト君か。まあクラスも一緒になったしそりゃそうだよな。」

「・・・ん。そんなとこ。ご馳走様、着替えてくるわ。」

火我ユイト そう彼だ。

彼との関係、彼との記憶、それらが俺の選択によって大きな後悔を生むことになったものの一つだ。

ユイトとは小学生からの友人、何度もお互いの家に遊びに行った。いろんな場所に出かけた。ばかげたこともやって一緒に怒られた。沢山の時間を共に過ごしたまさに親友だ。そんな彼との関係が後の自分の人生を薄暗く後ろ向きにした要因になるなんてことは、当時の俺からすれば全くもってありえないことだったろう。

だからこそ、今日からだ。これは俺のためでもあるが、なにより彼への、俺からの贖罪だ。

何としてでも俺は間違えない。あの時の、惰弱な選択と逃げた自分に打ち勝つために。

ピンポーン

ちょうど制服に着替え終わり、いざ出陣と息巻いていたところに家のチャイムが鳴った。

「はいはーい。・・・あれ、ユイト君じゃん。おはよう。どうしたの?」

「双のお父さん!どうも、おはようございます!双を呼びに来たんすよ。」

父とユイト会話が聞こえる。

そういえばこのくらいの時期に俺を起こすのもかねて呼びに来てくれって頼んだような。

「悪い、今行くー!」

急いで鞄を拾い上げ足早に階段を駆け下りた。

「おーい、昨日の昨日だぜ?呼びに来いって言ったのお前だろ?」

玄関先で待っていたユイトからおしかりを受けてしまった。

「すまんって。呼んだら来ただろ?」

「そういう問題かぁ~?ままままま、初回に免じて許す。」

過去なのだからそれはそうだが、やっぱり面白いやつである。

朝っぱらからここまでのテンション感をしているのはユイトぐらいのもんだ。

「おい双、お前頼んだんなら明日から早く起きなきゃだめだぞ?いいか?」

母はまだいいが父を怒らすとそれは怖いのでちゃんと起きよう。

「流石の俺も起きるから。じゃ、行ってきます。」

「双のお父さん、自分も行ってきまーす!」

「はーい。二人とも気をつけろよー。」

そういって父は俺たちを送り出してくれた。

少し前までは、ごちゃごちゃと建物が押し並び、喧騒と人波に揉まれる朝だった。

だが今は懐かしの家からかつての道を、かつての友と歩いている。

俺は後ろ向きだ。常に過去を見ていた。だからこそこの瞬間がとてつもなくうれしい。

隣にいるユイトを見て、それをより強く強く実感する。

「ん?なんだよ。」

「ああ、なんだもないなんでもない。」

ややじっと見すぎたようだ。

「まーだ寝ぼけてんのか。よしじゃあ、やーさしい俺が目覚めの一撃をくれてやろう。」

「いやいらんいらん!しかもお前の肩パン痛いんだよ。なんかこう、筋肉の間を狙ってくるというか。」

小学生の頃からこいつはことあるごとに俺に肩パンをお見舞いしようとしてくる。

多分俺のリアクションが面白いんだろう。まあ、満更でもなくリアクションをやや決め込んでいる俺がいえたもんでもないが。

「遠慮するなって。ご厚意はありがたく受け取っとくもんだぜぇ?」

「ニヤニヤしすぎてしゃべり方がキメぇ。つーか後引く痛みだから余計受け取りたくねーって。」

「よし行くぞー。3,2,1」

「話聞けよー!」

取るに足らない、でも心地よくて、心からワクワクするようなそんなやり取り。

絶対に壊さない。選択の時は近い。

今日、俺は最初の分岐点に立っているのだから。

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