『Hallo,World』
この作品は、『ヴォーパルバニーと要塞おじさん(著:ベニサンゴ)』の二次創作です。
上記作品から引用される設定・表現を多量に含みます。
著作権、その他の作品に付帯する権利は原作著作者であるベニサンゴ氏の求めがあった場合、権利を譲渡若しくは放棄し、場合により作品を削除します。
『FrontierPlanetの世界へようこそ』
『現在あなたが搭乗している開拓司令船アマテラスは、辺境惑星イザナミの静止軌道上に停泊しています』
『これから簡単なオリエンテーションを行った後、地上降下ポッドにて地上前衛拠点スサノオ-001へ移動して頂きます』
『それでは、まず最初にあなたのパーソナルデータを入力してください』
真っ白な金属で満たされた部屋をホログラフィック コンソールが照らしているのがガラス越しに見える。
見回せば、精巧な機械人形のようなものがガラス管に浮かんでいる。きっと私もこれらと同じようになっているんだろう。
立ち並ぶガラス管の先、大きな窓から宙が見える。暗い宇宙に星が輝いているのが見える。
そして、とても大きな青い星。地球のようにも見えるけど、見慣れない。
『FrontierPlanetの世界へようこそ』
再びのアナウンス。
「FrontierPlanet」未開拓の惑星への招待。
数十年前に流行ったという異世界転生.....ではなくて。
流行りで言えば、さらにもう少し前。でも最近まで絶えることなく、夢追い人がいた世界。
そう、電脳世界への冒険。仮想現実の世界。
民人の手に届くようになって、僅かに数年。凄まじい期待感を背負って世に放たれた作品
VRMMORPG《FrontierPlanetOnline》通称《FPO》
遥かな宇宙の新天地、惑星イザナミを開拓せんととして送り込まれる『調査開拓用機械人形』となって世界を広げていく。
世界でも有数の大企業が鳴り物入りで発表した、他の追随を許さないとまで噂されたる最新作だ。
私も楽しみ過ぎて滅多に取れない有給を捩じ込んでまで今日この日を迎えた。……反動で明日からまともに遊べないかもしれないから、目一杯楽しもうと非仮想の現実から眼を逸らして、目前の半透明なディスプレイに眼を落とす。
「名前は———ラクト、でいいかな」
オンラインゲームは好きで色々とやってきたんだけど、毎回違う名前にしている。
その世界で生きるキャラクターだって感じられるからっていうのはあるけど、なんとなく。
ただ、共通しているところはある。
私の大好物の氷菓たちから、ちょっとずつ名前を貰ってるんだ。
カップアイス、モナカに大福にかき氷、全部好きだけど、今回はラクトアイスから貰うことにした。
「あとは、機体のタイプと初期パッケージだね。」
FPOには4種類の機体、他のゲームでの種族が用意されていて、それぞれに差異がある。
身体的特徴も、性能的特徴もあるんだけど、私が選ぶのはもう決まっていた。
タイプ:フェアリー 小柄で貧弱だけど、機術と呼ばれる特殊技能に適正を持つ機体だ。
そして、初期パッケージは勿論『メイジパック』を選択。
機術、メイジという文字を見ればどんなこと構成か分かる人も多いと思う。
私が目指すのは、いわゆる魔法使い。それも氷属性に特化したもの。
食べるのも見るのも好きなんだよね、と独り言ちつつ入力を終える。
『全てのパーソナルデータの記入を確認しました。ようこそラクト。
あなたのイザナミ計画惑星調査開拓団参加を歓迎します』
『地上降下ポッドの準備は三分後に完了します。ポッドに搭乗し、
固定ベルトを装着してください』
アナウンスの間に分身たる機体はパーソナルデータに合わせて変容していき、終了とともにガラス管が開いた。
降下ポッドはフェアリーの機体から見ればとても大きく見えるカプセルだった。ゴーレムでも余裕を持って乗れるように設計されているみたいだった。
促されるまま乗り込み、中にあったシートに腰掛け、ベルトを締める。
『地上降下ポッドの準備完了まで、しばらくお待ちください』
サービス開始の時間まで、あと僅か。
新しい世界への旅立ちに浮ついた心を自認しながら、その時を待つ。
『地上降下ポッド射出まであと十秒。――あと五秒。――ラクト、あなたの健闘を祈ります』
アマテラスの抑揚の無い機械音声の後、降下が始まる。
いや、射出と呼ぶに相応しい勢いをもって宇宙空間へ投げ出された。
惑星イザナミの大気圏を抜けて、広大な星に向けて落ちていく。
あっという間に地表の様子が見えるまでに近づいていく。
眼前に広がる光景に圧倒される。現実と見間違う程に鮮明で、綺麗すぎて現実離れしているようにすら感じてしまう。
降下地点と思われる一際大きな大陸の沿岸、高台に巨大な街の様相が見え始める。
地上前衛拠点。私達開拓機械人形——開拓団員の補給や整備を担う始まりの拠点。
艦橋から同時に射出された大量のポッドと共に降りていく。いくつか逸れてくポッドが見える。特別なスタート地点もあるのかな、と逸れた視線と思考を前方に戻す。
もう数分もしないうちに地表に辿り着き、新しい世界が始まるんだという興奮が口を衝いて出る。
『ハロー、ワールド』と。
原作様第一話に沿って、ラクトの旅の始まりを妄想し書き下してみました。
数多の設定相違や解釈違いを含んでいると思います。ガラス管内の描写とか、ラクトのリアルの話とか、氷への拘りの理由だとか。良い案が浮かんだら修正します。
次話の投稿は数年後くらいの気持ちでいてください♡