表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

巡り合わせ

作者: TATSUYAKEM

        巡り合わせ


 改札口を出ると、いつも通りの駅前風景が広がっていた。人ごみの中、ふと視線を感じて足が止まる。ベンチに腰掛け、眠る男。見覚えのある顔だ。近づいてよく見ると、高校時代からの旧友、次郎だった。

 「次郎?」

 声をかけても反応がない。肩を揺すってみると、ようやく重い瞼を開いた。

 「お、哲也か。随分久しぶりだな。」

 そう言うと、次郎は苦笑いを浮かべた。

 「ご苦労さん。パチンコで少しやらかしてな、もう家には帰れん。」

 彼は、ポケットからボロボロになったタバコの箱を取り出した。

 「一本どうだ?」

 私はためらわずにタバコを受け取り、火をつけた。

二人で並んで座り、煙を吐き出す。

 「パチンコか・・・・」

 「そうよ、もうダメだ。借金も膨らんでさ」

 彼は、無力そうに肩を落とした。それでも、彼の目はどこか輝いていた。

 「でも、まあ、こんなもんか」

 次郎は、タバコの火を消しながら、ぼそりと呟いた。

 「昔は俺のほうが成績良かったよな」

 「ああ、そうだったな」

 私は頷いた。高校時代、次郎はいつもクラスでトップの成績を維持していた。一方、私はいつも彼の影を追いかけるような存在だった。

 「ギターだって、俺の方が上手かったよな」

 「まあ、そうだな」

 彼は、当時流行っていたフォークソングを弾き語りするのが得意だった。私は彼のギターの音色にいつも魅了されていた。

 「でもさ、俺はいつもどこか落ち着きがなかったんだよな。向こう見ずで、考えなしで」

 彼は苦笑いを浮かべた。

 「お前はいつも冷静だったけど、俺みたいにならないようにって、いつも思ってた。」

 私は。彼の言葉に複雑な気持ちになった。彼はかつての自分と今の自分を見比べているのだろうか?」

 「次郎、ちょっと考えさせてくれないか?」

 しばらく沈黙が続いた後、私は口を開いた。

 「施設とか、そういうところに入ってみるのはどうだ?」

 彼の顔色が一瞬変わった。

 「施設か・・・・」

 彼は、しばらく考え込んだ後、ゆっくりと頷いた。

 「そうだな、一度、話を聞いてみるか」

 私は、次郎の肩に手をかけたまま、しばらく考え込んだ。昔、高校生の頃、二人でちょっとした悪戯をしたことがあった。人気のないデパートで、勢いで万引きをしてしまったのだ。そのとき次郎は

 「これはダメだ。明日、一緒に返して謝ろう」と、真っすぐな目でそう言った。私は、彼のその誠実さに心を打たれた。

 「次郎、覚えてるかい?」

 私は、懐かしそうに語り始めた。「あのとき、デパートで・・・」

 次郎は、私の言葉を遮るように言った。「ああ、あれか。お前、そのあと、俺に全部渡してくれたよな」

 私は、苦笑いを浮かべた。「そうだったよな。お前が謝りに行こうっていうから、全部渡して、俺は何も言わずに家に帰ったんだ」

 「すまなかった、おかげで、俺はあの時、良い経験ができた。」

 次郎は、静かにそう言った。私は、次郎の瞳の中に、過去の自分と重なる何かを感じた。

 「あの時のお前と、今の俺は、何も変わっていないのかもしれない」

 私は、財布から数枚の札を取り出し、次郎に手渡した。

 「これ、受け取ってくれ」

 次郎は、一瞬戸惑った表情を見せたが、すぐに笑顔になった。

 「ありがとう、哲也」

 私は駅を出ると、深呼吸していつもの道を歩いた。家に入ると、妻がキッチンから「ただいま」と声を掛けてくる。いつもの穏やかな声が、どこか遠く感じられた。

 「ただいま」

 私は応えた後、リビングのソファに腰掛け、窓の外を眺める。今日の出来事を一つ一つ思い出しながら、次郎の顔、彼の笑みを何度も何度も想像した。

 「次郎に会ってきたんだ」

 私は、そう呟くように妻に告げた。妻は料理の手を止め、こちらを見てくる。

 「そうなの?元気だった?」

 妻の優しい笑顔に、私は心が安らぐ。でも同時に、何か言わなければいけない気がした。次郎の置かれている状況、そして自分が彼にしたこと。

 「ああ、元気だったよ、でも、色々大変そうでね」

 私は、言葉を選びながら話し始めた。次郎の話を、ありのままに妻に伝えた。

 「そうなんだ。大変だね」

 「人生って、本当に分からないものだね。運なんていうのもあるのかもしれない。」

 私は、ぼんやりと窓の外を見つめながらそう呟いた。

 「でも、哲也はいつも優しいから大丈夫よ」

 妻は、そう言って私の肩に手を置いた。

 私は、妻の温もりに包まれながら、複雑な気持ちになった。次郎との再会は、私の心に大きな波紋を広げた。そして、私は、自分の人生、そして周りの人たちとの関係について、改めて深く考えるようになった。

 夕食のテーブルにつくと、妻が笑顔で話しかけてくる。私は、彼女の笑顔に顔を向ける。どこか後ろめたいような、罪の意識のようなものが、私の心をよぎった。


     終わりです。読んでくれてありがとう!!!


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ