因果律の烙印者
考えてもみてほしい。
朝起きた途端にダンプが部屋に突っ込んできて
雲ひとつない快晴の散歩中にピンポイントで自分だけに雷が直撃し
ランチ中のチャーシューメンが何者かの意志により、ところてんに変えられるなどという事象が都合の良く毎日おきるだろうか?
この私、浅間十兵衛齢40にもなる男の日常には
それらがまるで予め定められていたかのように発生するのである。
不幸といえばそれなのだが、生まれて今日まで当たり前のように『ヤツら』と過ごしてきたので
全く不本意ではあるが、自分で自分を納得する他ないだろう。
毎朝のルーティーンのように『ヤツら』をやりこなす毎日。
血を分けた家族にでさえ、お前と一緒にいると我が身が保たんと実家を追い出され
このようなアンラッキーの権化とも言える私の周りには、友人と呼べる人間などいるハズもない。
もちろん、この齢にもなって結婚などできるわけもなく
未だに独り身を悠々とではあるが満喫中である。
10代の頃に実家をあとにしてからというもの
なるべく人様の迷惑にならぬようにと、数々の街を転々としてきた。
越後と呼ばれていたこの城下町に身を落ち着かせてから
すでに15年以上は経っただろうか。
現在はといえば、近所の悪童たちを相手に書道を教えながら生計を立てており
それこそ人並みに収入を得られるようにまではなった。
ある程度懐に余裕が出てきたため、自然が生い茂るこの大地に住宅メーカーから平屋を購入し
それを根城にして、未だに独り身を悠々とそれなりに満喫している。
これまでの激動の半生を振り返り、隠居という齢にはまだまだ早いのだが
これからの余生について思いを馳せてみる。
「いやいやア、この地で骨を埋めるのも悪く良いねエ……」
周りを広大な湖に囲まれた平屋の縁側で
昼前からだらしなくゴロンと横になりながらパイナップル昆布茶をズズっとすする。
「今日はまあ、随分と遅いじゃないの、エエ?奴さんよオ」
遥か天を見上げてぼやく。
本日初の事象、航空機のようなシルエットが重力に引かれているかのように
ものすごい勢いでこちらに落ちてくる。
これまた狙ったかのような私めがけてピンポイントで。
「かれこれさア、40年生きてきた中でも飛行物は初だねエ、こりゃエグいよオ?」
折角横になっていた身を嫌々ながらもヒョイっと起こし、いつものように手慣れた手つきで衝撃に備える。
自分の手前ギリギリの湖めがけて、ソレはアタマから見事にダイブ。
勢いよく飛び散る水飛沫で半分寝ていたアタマが完全に醒める。
自家用ジェットほどであろうサイズのソレに駆け寄り安否を伺う。
「おおーイ、奴さん、調子はどうだア?」
少し大きめに声を張って呼びかけてみた。
湖の水面からブクブクと泡が立つ。
ザバァっと人の頭のようなモノが勢いよく飛び出してきた。
「いやーまいったね!やっぱオートマチックはダメだわー!」
青く長い髪をかき上げながらガハハハ!と豪快な笑いを飛ばす女性。
見たところ齢20代前半であろうか?
この彼女との出会いが、これからの私の運命を
そしてこの銀河の因果律を大きく流転させることになろうとは
この時の自分には到底、思いもしなかった。