1-27 レベルアップと異常な数値
その後何度もゴブリンと対峙した。しかしいくら恐怖を抑え込もうとも、それで僕の戦闘能力が爆発的に上がる訳でもなんでもない。
ただそれでも、挑んではリセアさんに助けてもらい、挑んでは助けてもらいを繰り返していくことで、徐々にゴブリンの思考や攻撃のクセといえばいいのか、そういうものがわかるようになってきた。
その影響だろうか、7度目の戦闘で僕はついにゴブリンの攻撃を避け、こちらの剣で切りつけることができた。
……よし!
だがその喜びも束の間、その痛みによってか、ゴブリンは適当に剣を振り回し始めた。それを予見できなかった僕は、その剣で切り付けられそうになり──しかしすんでのところで間に入ったリセアさんがそれを受け止め、そのまま一撃でゴブリンを屠ってしまった。
「……はぁ……はぁ」
緊張やら疲れやらで、肩で息をする僕。そんな僕へ、リセアさんは小さく笑みを向けてくれる。
「惜しかったな」
「はい、あと少しでした。でも──」
体感ではあるが、おそらく開始からおよそ2時間以上経過してしまっている。それなのにも関わらず、現状一つの成果もあげられていない。
「……すみません、お忙しいのに」
「いんだよ、気にすんな。さっきも言ったけど、ソースケのレベルアップはあたしのためにもなるんだから」
そう言った後、一拍置いてリセアさんはさらに言葉を続けた。
「それに……これはある意味恩返しの機会でもあるからな」
「……恩返し?」
「そ。過去に囚われていたあたしを救い出してくれたことへのな」
「そんな大層なことは──」
「してくれたぞ。ソースケにとってはたった1時間の些細なことなのかもしれねぇが、少なくともあたしはあんたのマッサージで救われた」
一拍置き、再度口を開く。
「そのお返しになんかできねぇかと考えたけど、あいにくあたしには戦うことしかできなくてな。だからソースケから付き添いを頼まれて、正直助かった。これで役に立てるってな」
「リセアさん……」
「だからどんなに時間がかかろうとなんも気にすんな。最後まで面倒見てやるからよ」
言ってニッと笑うリセアさん。
……その仄暗いものなど1つもない笑顔に思わず見惚れてしまったのは、ここだけの内緒である。
◇
いったいあれからどのくらいの時間が経過したのだろうか。辺りが少しだけ薄暗くなってきたことを考えれば、もうあと1時間かそこらで陽が沈むころか。
とにかくそれだけの時間を費やし、リセアさんのサポートをたくさん受け、僕は計3体のゴブリンを倒すことに成功した。
そして3体目を討伐した瞬間、僕の全身を何やら暖かいものが包み込むような感覚と共に、これまでの疲れなど吹き飛ぶほどに力が湧き上がってきた。
「……リセアさん、多分」
「確認してみな」
「はい!」
言葉の後、僕はステータスと念じた。瞬間、いつものように浮かび上がるホログラム。
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ソースケ 28歳 Lv. 2
体力 7
魔力 28
攻撃 4
防御 5
【スキル】
『エステ Ⅰ』
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「おお! レベルが上がってます! 上がってますよリセアさん!」
「やったな!」
「はい! あ、見ます?」
「いや、ダメだろ。そんな簡単に見せちゃ」
「リセアさんのおかげでレベルアップしましたし、何よりも信頼してますから!」
「……そ、そうか? じゃあ──」
言葉と共にリセアさんが僕のステータスを覗く。そして上からスーッと視線を動かしていくのだが……どういう訳か、その内の一点を見つめたまま硬直してしまった。
「リ、リセアさん?」
……『言語理解』は見えないようにしているから、そんなおかしな所はないはずだけど。
心の内でそう考えていると、リセアさんがステータスボードをじっと見つめたままこちらに問うてきた。
「ソースケ。あんたレベル1の時のステータスは?」
「えっと、確か上から5、4、2、3だった──」
「4……4? 今は28? つまりプラス24? 合わせて……30?」
リセアさんは呆然と呟くようにそう声を上げた後、ステータスボードへ向けていた視線をグリンッと急にこちらへと向けると、ガッチリと僕の両肩に手を置いてくる。そして鬼気迫るような凄まじい表情で口を開いた。
「ソースケ」
「は、はい」
「今後気軽にステータスを見せるのはやめとけ」
「それはどういう……」
「これ見ろ」
言葉と共に、彼女はステータスをこちらへと見せてくる。
「えっ、僕は」
「いいから」
「じゃ、じゃあ……」
僕は目前のリセアさんのステータスボードへと目を通す。
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リセア 27歳 Lv. 42
体力 336
魔力 167
攻撃 334
防御 85
【スキル】
『大剣術 Ⅵ』
『火魔法 Ⅲ』
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「どうだ?」
「いや、リセアさんが強すぎるってことしか──」
ここで僕はふとあることに気がついた。
……ん? レベル42で、このステータスの差?
たとえば僕のステータスはレベルが1上がるだけで合計30数値が上昇した。だがもしこのレベルアップで伸びるステータス値が人によって違うのだとしたら。いや、リセアさんのステータスを見る限り、確実に30よりも少ないはずだ。
そしてその上で、リセアさんは体力と攻撃が大きく伸びつつも、魔力と防御も安定して伸びている。
対して僕のステータスはどうか。
魔力が24伸びているのに対し、他は2だけ。
ではもしもレベルとステータスの伸びが比例しているのだとしたら、僕がレベル42の時のステータスは──
「リセアさん。もしかして僕の魔力の伸びって、異常ですか?」
思わずそう問いかけると、リセアさんはそれはもう力強く頷いた。
……どうやら僕の手にしたチートはスキルだけではなかったようだ。