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光明と楔

いつわりの楽園

作者: 徘徊猫
掲載日:2023/05/21

 色褪せた世界に人々は憂う。

 停滞した世界は我々を蝕む。

 輝かしい時代は既になく、残されたのは希望と呼ばれた骸のみ。果たして、我々に意味はあったのか。

 抗い続けた歴史は風に舞い上がり、仰ぐ空は余りに高い、と。


 珈琲がを一杯、辛気臭い紙面の上に置く。首を軽く動かし、目前の仕事に向き直る。長く垂れた耳を弄りながら、一向に埋まらぬ新たな紙面。

 すべての物語はここから始まる。

 カリッ、小気味いい音を響かせて、キャンディーが女性の口元に運ばれた。女性は暫く沈黙したあと、目の前で拳を強く握る少女を見た。

 「今回は無理だった。それだけだよ。貴様が悩もうとも、結果は変わらない」

 「……っ、あと一歩間に合えば助けられた!」

 彼女たちを遮るように置かれたテーブルが叩かれた。垂れ下がった髪が目元を隠すが、涙が頬を伝う。テーブルに落とされた手は震えている。


 「ああ、今回はそうかもしれないな。だが、お前は一歩を埋めるために何を犠牲にするんだ? それはエゴだ、決して協会が定める救済じゃない」

 「じゃあ、じゃあっ、あの人たちを諦めれば良かったって言うのっ?! 最期まで身を捧げてこそ、聖女でしょ……」

 カリッ、女性は少女に構わず、一冊の本を開いた。その本は至る所に付箋が貼られており、既に冊子はボロボロだ。目的のページを見つけたのか、手を止めて、嗚咽を漏らす少女に言葉を向ける。


 「見失うな、お前が見てるのは妄想でしかない。我々の目指す楽園は理性によってのみ辿り着ける。都合のいい神などいない、人々を楽園に導くのは我々の役目だ。貴様が目指すのは現実味のない虚妄を垂れ流すカルトか?」

 「……っぅ、ぅぅぅぅっ」

 女性は溜め息を吐き、子どもに向けるには余りに冷たい目で少女を貫く。そして、重々しく口を開いた。


 「ならば、いっそのこと辞めてしまえ。下等な感情に蝕まれ、喉を乾かすならば。お前が人である限り、お前には無理だ」

 「そんなことないっ!! わたしはっ、わたしはやれるわ! そもそも一介の司教でしかない貴方がわたしに命令できるはずないでしょっ!!」

 はぁっ、と息を荒らげて主張する少女に一つの紙が渡される。少女はその書面を見て、絶句した。


 「謹慎命令だ、私ではなく総主様からの。総主様は貴様を気に入ってるからな、気を遣ったのだろう。暫くの間、私が貸与したお前の権限は凍結する。教会に留まることも許可しない」

 矢継ぎ早に放たれる女性の言葉を、少女は理解が追いつかなかった。ただ奪われていく感覚だけが痛みを伴って自覚させられる。


 「ああ、貴様の部屋のものは全て移しておいた。精々触れてくるといい、メルキア。俗世は貴様を返えさぬやもしれんがな」


 ✴


 ゆらゆらと、不安定な足取りでメルキアは、渡されたメモを頼りに一軒のアパートまで来た。まるで社名のように『スクラップ・クランチ』と看板がぶら下げられている。

 その看板を確認し、少し不安を感じながらも、メモを握り締めて、アパートに足を踏み入れた。


 ひとまず部屋の鍵を貰おうと、管理人の部屋に向かうことにした。木製の、どこか古めかしく感じる通路を抜け、部屋の前でノックする。

 「すみません……、ここに引っ越してきたメルキアと言います」

 がちゃ、と音を立てて扉が開いた。しかし、身構えていたメルキアの視線には管理人どころか、人一人見当たらない。


 「おいっ、こっちだ!」

 足元に視線を向けると、うさぎのような長い耳を持った生き物が腕を組んでいた。

 「オレの名はジオフェン、ここの管理を任されている。もし生活面で困ったことがあるなら言うといい!」

 ジオと名乗るうさぎは強気な目をしながら、ずいっと鍵を手渡してきた。少し困惑しながらも、メルキアは事実の鍵を受け取った。

 「取り敢えず、食事の用意は済ませてある。時間があれば、下まで降りて夕食でもとるといい」

 「……あっ、ええ、そうさせてもらうわ」

 喉元でうずうずする衝動を抑えて、ジオに感謝し、メルキアは新たな自室に向かった。


 ✴


 自室にたどり着いた途端、私は用意されていたベットに沈み込む。

 「疲れた……」

 孤児院から離れて、時間はそれほど経っていないはずなのに、帰りという気持ちが強く心を揺さぶる。


 でも、あの頃には二度ともう戻ることはできない。してはならない。もし戻ってしまったら、あの時の決意が揺らいでしまうから。

 「でも、虚しい」

 ベットの上で天井を見詰めたのはいつからだろうか。目を閉じれば、懐かしい記憶が襲ってくる。あの子との約束も、楽しかった日々も。


 ──一瞬のうちに全ての記憶は炎に呑まれた。依頼を出してくれたあの人も、どこか悟りながらも日々の生活を守ろうとした人も、不安に思いながらも私を見上げた子どもたちも。

 彼らの日常は呆気なく崩れた。人々は争い、奪い、殺し、そして──

 「うっ、うぇぇぇぇっ」


 私は耐えきれず、奥から込み上げてるくる嫌悪感を吐き出した。


 ✴


 ふらふらとした足取りで、食事が用意されているという食堂に向かう。きっと喉を通らないだろうが、とにかく気を紛らわしたかった。

 「おっ、来たのか! お前の分を持ってくるから待ってろ!」

 部屋の端っこでぴょこぴょこ動く耳に目を奪われながら、近くにあった適当な席に力なく寄りかかった。


 「じゃじゃん! 特製ビーフシチューだ! 少し飲めば元気になる。今日はさっさっと食って、寝るといい」

 私の前に皿を置いて立ち去ろうとするジオを呼び止め、私の隣に招く。

 「……もしかして、気を使わせたりした?」

 思えば、朝から体調は悪かったのかもしれない。それ以上に頭がいっぱいいっぱいで、気付かなかったのだろう。

 「んー? 別にオレは今日はビーフシチューかな、と思っただけだ。他の奴らはろくに食事も取らない奴らばっかだし、お前も食べたいものがあったらどんどん言えよ! 正直、レパートリーがなくて、飽きてきたんだ」

 ジオフェンが作ったのか……という気持ちを堪えて、火の通った人参を口に入れた。わりと美味しい。


 「そういえば、ここはアパートに改装された建物なの? 看板がぶら下がっていたから気になって……」

 スプーンに掬われたスープから視線を移して、ジオフェンに聞いてみた。

 「いや、あれはオレたちが運営する『部活名』だよ。学生紙を発行してる。そりゃ、メジャー紙の星間新聞には劣るが、ここらでは一番基盤を築けてるはず……お前は知らなかったみたいだけど」

 大きく目が開かれたのが分かる。少し拗ねた様子のジオフェンをまじまじと見つめながら、予想外の事態にゆっくりと頭を働かせる。


 「ごめん、……普段は世界情勢とか確かめるくらいだから、学生紙を知らなかった」

 「うっ、気にするな! 正直、新聞自体あまり読まれないし、別のとこでも購読者がいるだけで嬉しいんだ……まあ、趣味全開の地方紙よりトピックの魅力的な国際紙の方がずっと需要があるのは分かってるんだ」

 余計に踏み抜いてしまった地雷を見て、別の話題に変えようとする。


 「そういえば、ジオフェンはいくつなの?」

 「あー、たぶん十四だよ」

 へー、と口から無意識に漏れながら、口元にスプーンを運んだところで止まった。


 「へっ? 年上?」

 「お前が言うならそうなんじゃないのか? でも、敬語とか使う必要ないぞ。何なら、オレのことはジオとでも呼べばいい」

 何故か、もうこれ以上ジオに関する話題を振ると藪蛇な気がしたので、関係ない話題に移すことにした。

 「えっと、ジオは何を勉強してるの?」

 「勉強っても、ある程度適当に選んでるだけだ。まあ、強いて言うなら生物学だとか、初期状態の世界についての研究? だな、成果は全くないが」

 ……どうしようか、全く興味のなかった学問だから、なんの話題も見いだせない。


 「一応、教会史だったら分かるけど……」

 一般教養は厳しく教えられてきたが、そんな大昔のことを調べる人は少ない。そもそも、その名残りを見つけることが最も難題である。

 「それには興味がねぇな……っと、そういえば聞くのを忘れてたんだが、家賃の支払いは来月からでいいか?」

 「えっ?」

 「……え?」


 ✴


 「よく考えれば分かるはずなのに、ははっ、笑える……」

 あまりの醜態に涙が出てくる。教会は働かぬものに慈悲を与えるほど甘くない。今になって、聖女という立場が私を緩ませていたのか分かる。

 気を取られていた、教会に戻るには見合った“成果”を示さなければいけないのに。傍から見れば、実に滑稽なものだっただろう。もはや、手詰まりに近い。

 ──虚しい、私のちっぽけな願いなど、社会において塵芥に過ぎないのだから。








 いったい、どれほど時間が立ったのだろう。自室に差し込んできた光は、夜が明けたことを知らせる。


 私はそれを一瞥して、毛布に埋もれた。



 ✴


 ドンドン、部屋から出ない彼女に向けて、ジオは外から扉を叩く。

 「おい、いるんだろ! ご飯はいつでも用意してるから、食いたきゃ来いよ!」

 暫く待っても返事のない様子に、ジオは溜め息を吐いて下に戻ろうとした。ちらっ、ちらっと振り返るが、なんの音沙汰もない。

 「……ちっ、ああもう入るぞ!」

 ジオはマスターキーを取り出して、メルキアの部屋に押し入った。



 ✴



 「すー、すー」

 「寝てんのかよっ?!」

 乱れた髪に、目の下に出来た隈、メルキアは年相応の寝顔のまま、大事そうに小さな髪留めを握りしめていた。

 「ん……なに?」

 ゴシゴシと目を擦り、彼女は小さく首を傾げた。

 「いや、昨日はいきなり血相を変えて部屋に戻ったから、変なこと考えてんじゃねぇかと誤解しちまったんだが……その、部屋に入ったことは謝るよ」

 暫くの間、ぼーっとしているかと思うと、彼女は柔らかく微笑んだ。

 「あははっ、そんなわけないよ。聖女見習いを舐めないでくれる? まあ、少しは落ち込んだけど、結局やることは変わらないの。それより、励ましに来てくれたの? ありがとう!」

 そう言ったのも束の間、彼女はジオをぎゅぅっと抱きしめた。何なら、ジオの耳を梳くように撫で回す。

 「えへへ、やっぱり柔らかい」

 「こらっ、離せぇっ! 執拗に触るなぁぁっ?!?!」

 がっちりと胴体をホールドされ、抵抗できなくなったジオは、少女に撫で回されるのであった。



 ✴



 「……何か言うことは?」

 「許可なく撫で回して、ごめん」

 ご立腹のジオは正気に戻ったメルキアに正座をさせて、やっと機嫌を直した。


 「はぁ……何でみんなオレを撫でようとするだ? せっかく服をハードボイルドにしたのに」

 ジオはそう言って、深めにキャスケット帽を被った。しかし、その長耳が全て収まることなく、溢れ出た部分はぴょこぴょこしている。

 「たぶん、小さな子が大人ぶってるのと同じ印象があるからじゃない?」

 「……はぁ、この話題はなし。それより、今日は提案しに来たんだよ! かなり脱線しちまったがな、誰かさんのせいで!」

 「つい、昔のことを思い出して……」

 孤児院にいる弟たちのことが頭にちらつき、メルキアは口が綻ぶのを感じた。


 「まあ、元気になったのなら良かったよ。オレが提案したいのは、お前も一緒に新聞を作らないか、ということだ」

 「メリットは?」

 間髪入れずに質問したメルキアに、こほんっとジオが咳払いをする。

 「お前がネタを売り込むでも、オレたちの取材に協力するでも、記事にするでも何でもいい。……代わりに、オレはお前に衣食住の保証と賃金をやる。歩合制だから、成果を上げれば上げるほど賃金もあげてやる。で、これはあくまでもオレがお前にやる一時的な報酬だ。それで……」

 「──お前のパトロンになってやるから、お前はうちの広告塔になれ……ってこと?」

 私が継いだ言葉に、むすっとした表情でジオは答える。

 「お前がいま必要にしてるのは、例え司教でもひっくり返せない評判だ。『もし世界が味方になるならば、人が敵うはずもなし』ったく、辛気臭い言葉だが、使いようってことだな」

 「……でも、いいの? 負ければ、きっとここは潰される」

 ハッ、とジオは鼻で笑った。


 「どうせ、ここは自由人の溜まり場だ。解散したところで、似たようなものが作られる。それに、オレは賭けてみたいんだよ、お前の崇高さと気高さに」

 ……少女は言葉を噛み締めるように目を閉じ、決心した。


 「なら、決して恥は欠かせないわ。偽教、ラキアの聖女の名に賭けてね!」



 ✴



 カリッ、夜風に髪を靡かせながら、女司祭は手元の資料に目を通す。

 それは──次代の聖女候補のプロフィールだ。


 がちゃ、と音が聞こえて、女司祭はそちらに目を移した。

 「やっと見つけたぞ……フローディア」

 ドアにもたれかかって、ジオフェンは荒くなった息を落ち着ける。


 「……あの子のことか?」

 「それ以外に何がある! いくらなんでも酷いと思うぞ。そりゃ……聖女なんてものが良いとは思わないが、少しのことくらい許してやれよ」

 フローディアは少し考える素振りを見せたあと、口から飴を取り出した。

 「私情じゃないさ。私にも全てを捧げる覚悟はあるが、聖女になろうとは思わんよ」

 ぱちっ、とフローディアは首にかけたロケットを開く。それはとある孤児院を写した写真。


 「最短距離が良いとは限らない。少なくとも、あの子は見識を広げる時間が必要だった

 「それにしては強引な手口だな!」

 あまりの配慮のなさに腹を立てるジオ。しかし、フローディアは構わず写真を見つめていた。

 「……聖女の名前は未だに公表されていない。これが全てさ」

 「……! まさか、あの子の人生を引っ掻き回そうって腹じゃないよな……」

 想像した理不尽さに、ジオは怒りをドアにぶつけた。


 「違う、今の上層部は比較的マシだ。総主様が抑えてるからな。いつだって、私達の前に立ちはだかるのは『民衆』だよ。迷える信徒には光が必要だ。その光は全てに応えなければならない。間違ってはならない。……厄介だよ、期待されるのは」

 いつの間にか、フローディアは飴を舐めていた。歯で飴を削る音が、ボリボリという音に変わる。


 「せめて、あの子が真の聖女となるまでは……心の赴くままに生きてほしい」

 風に揺れて晒された腕が、月光に当たって鈍く光る。


 「人の為にある楽園は、人によって作られる」

 経典の一節を口ずさみ、既に消えた神に祈る。

※協会ではなく、教会です。色々間違えてます。


 どうも、初めましての方は初めまして

 初めてじゃない方は……お久しぶりです


 実質失踪してた気がする作者です

 なかなか納得できる作品がかけなくて……えへっ


 ……結局、ややこしい設定が足を引っ張るんですよ

 なので、決めてないところが歪み始めて……ね?


 もはや、物語大筋と関係ない神話のほうがスラスラと思いつく。(違う、そうじゃない!)


 知識が足りない、アイデアが足りない、柔軟はできないの三拍子ですから。この話を生み出すのにも3週間……比率は準備が8割だった


 もう、短編しかないじゃない! と、頭が○ミったところで、こんな感じでやりました


 設定盛り込むのたのしー、要素盛り込むの楽しー

 ノリと勢いだから、急転直下で進みます


 まあ、更新は……期待しないでください

 なぜなら、短編でやった意味がないからね!


 設定がゆるゆるだし、既存のキャラはほぼ出したし、実はこれが学園モノだとは気づきにくいしで……


 まあ、面白いと思えればいいのさ!


 長々と、作者の捲し立てに付き合っていただきありがとうございました! 他の作品は迷走してますが、興味を持っていただけると……

 更新の期待は絶望的だとだけ知っていただければ


 では、さらば!

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