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第66話 旅路3

 魔族と聞くと、やはり恐怖の感情が表に出てくるようだね。


「お兄ちゃん……魔族って、あの絵本に出てくる魔族のこと? でもリビティナさん達、角もないし黒いシッポも生えてないよ」

「そうだね。ネイトスさんはオレと同じ白子だし。……リビティナさんは昔から生き続けているって本当ですか」

「伝説にある魔王とは少し違うけどね。それでも七十五年は生きているよ。ネイトスは八年ほど前に、ボクの眷属になってくれた人なんだ」


 ――そう、あれからもう八年も経ってしまったね。


「リビティナ様は魔王と呼ばれちゃいるが、心優しい方だ。でなきゃ、こんな遠くまで白子の子供を助けに来やしないさ。それに俺達眷属も魔族と呼ばれているが、ほれこの通り普通の人間だ。まあ、姿は白子と同じなんだがな」

「驚かせてしまったようだけど、君達に危害を加えるつもりは無いよ。今まで通り接してくれるとありがたい」


 そう言って、ネイトスには食事の用意を続けてもらうようにする。馬車の中にいるナームには薬草入りのスープを、他の者には新鮮なイノシシ肉のステーキを作ってもらった。


「ほれ、エルフィ。スープだ」

「ありがとう。おかしいわね、あたしが聞いた魔王や魔族はもっと恐ろしいものだって……」

「それは誰から聞いたんだ?」

「まだ幼い頃にね、亡くなった先代の長老様からよ。二百年以上前の話だけどその時代に長老様は生きていたから。……リビティナは七十五歳だって言ってたわよね」


 伝説で伝わっている魔王と魔族。この大陸で大きな戦いをしたから、今でも恐れられている。


「昔の魔王とボクは別人さ。この世にヴァンパイアは一人だからね」

「そうなのね。確かに聞いた魔王は男だって話だし……」

「そんな男とこの可憐な美少女を間違えてもらっては困るよ」

「あら、自分の事を美少女って……あなた変わっているわね」


 そんな事ないさ。この体はどこから見ても美少女に間違いないんだからね。スタイルも抜群さと、腰に片手を当てて自慢げにセクシーポーズでアピールしたけど、エルフィに爆笑されてしまったよ。


「さっきネイトスさんは人間だと言っていましたよね。オレ達白子とどう違うんですか」

「基本的には同じようなもんだな。俺も元はヒョウ族の獣人だしな」

「ええっ! 眷属になると白子になっちゃうの!」


 ルルーチアが目を真ん丸にして、驚いたと言った表情でネイトスに聞き返した。


「俺はリビティナ様に眷属になりたいと願って、血を分けてもらったんだ。その時にお前達白子と同じように身体が変化した」

「どの国の人でも、ボクの眷属になれば人間の姿になるんだよ。それが自然発生した人達を白子と呼んでいるだけなのさ」


 そう、このネイトス以外にも眷属となった者は沢山いる。リザードマンや鬼人族の者であっても……そういう人達が眷属の里に居る。


「誰でも……私の妖精族も眷属になると羽が抜け落ちて、このクリーム色の肌もあなたと同じになると言う事?」

「まだ妖精族の人が眷属になった例は無いんだけどね。多分そうなるだろうね」

「血を分けるって言っていたけど、リビティナが噛みついて血を吸うと眷属になっちゃうのよね……。ちょっと待ってよ。あなたナームに血を分けたんじゃないの! あっ、いやあれはキスしただけか……」

「ナーム君には血を与えているけど、それは治療のためさ。それにね、その人が眷属になる事を望まない限り、眷属化は起こらないんだよ」


 これは今まで何度も試している。望まない者に血をいくら与えても眷属、人間化は起こらない。眷属になる事を了承した者だけが白子と同じように一晩高熱を発して人間に変化する。


「あ、あの。眷属になると、魔王の言う事だけを聞くって絵本に書いてありましたけど……」

「ルルーチアちゃん。俺はリビティナ様に忠誠を誓ってお傍にいるが、それは自分の意思でしている事なんだ。別に操られている訳じゃない」

「魔王の眷属……だからあなたは魔族と言う事よね。でも元々はアルメイヤ王国の住民なんでしょう。なんで眷属なんかになったのよ」


 まあ、事情は人それぞれあるんだけどね。色んな思いを持った上で眷属になる事を決断した人達。その願いをリビティナは叶えている。


「ネイトスさんは眷属になって八年も生きているんですよね。お兄ちゃんは白子になって一年しか生きられないって言われたんですけど……」

「白子と、眷属になった人間とは体質的に変わらないんだよ。ボクの血を分けているから白子よりも多少丈夫だけどね」

「そうだな、眷属になると魔法も使えなくなるし、獣人だった頃に比べて筋力も落ちる。基本的には脆弱で、何もしなければ一年で死んでしまうだろうな」

「眷属になった人達はボクと一緒に里で暮らしてもらっている。そこで人間としての生き方を教えて、長年健康に過ごせているんだよ」


 人間の体はか弱い。普通の獣人がしているように、生肉を食べたり池の水をそのまま飲んだりしていたら、すぐに体調を崩し病気になる。特に空気中にある魔素が体を蝕んでいく。ほんの一部だけど、眷属になって黒死病で三年も経たずに亡くなる人もいる。


「それじゃお兄ちゃんも、この先長く生きていられるんですか!」

「一緒に眷属の里で暮らせば大丈夫だよ。そのためボク達はいろんな国から白子になった子供を引き取っているんだ」

「それじゃナームも、その里に行けば元気になるのね」

「ああ、そうだね……」


 エルフィを安心させるためにそう言ったけど、あそこまで衰弱していては助かるかどうかは五分五分だ。リビティナの血を与えたとはいえ限界はある。


「まずはナーム君の生まれ故郷に行って御両親に返す。その後、了解が取れれば眷属の里に行くことになる。その途中でエルフィの妖精族の国へ寄るつもりだ」

「あたしの事は後回しでいいわよ。国へは手紙を送ればいいから。先にナームを眷属達が住む里に送ってあげてくれるかしら」


 エルフィは余程、ナームの事が気になるようだね。見世物小屋でずっと傍にいたからだろうけど優しい子だ。


「それなら、早く里に着けるから助かるよ。フィフィロ君もボク達の里に来てくれるかな。別に眷属になる必要はないからね」

「はい、分かりました。他に行く所もありませんし」

「お兄ちゃんが長生きできるなら、その里に行きます。もちろん私も」

「仲のいい二人を離ればなれにはしないよ。じゃあ、明日からも一緒に旅をしようか」


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