第60話 魔女様の町3
晩ご飯の時、お兄ちゃんが魔女様に明日のお祭りに行ってもいいか聞いた。
「お祭り? そういや明日からだったね。ルルーチアを連れて見に行ってくるといいよ。少しお小遣いも渡しておこうかね」
魔女様は、快く許してくれてお小遣いまでくれた。これでお兄ちゃんと色んなお店を回る事ができる。
「場所は分かるかい、ここから遠くはないけど迷子になるんじゃないよ」
「はい、お師匠様。ありがとうございます」
その話を聞いていたおばあさんが、少し顔を曇らせる。
「フィフィロや、中央広場のお祭りはいいけど、西の城門近くに行っちゃだめだよ」
「どうしてだい、母さん。西門に何かあるのかい」
「いやね、門の外なんだけど魔族が来ているって噂があってね。兵隊さんもいるから大丈夫だろうけど、万が一の事があるかもしれないからね」
魔族!! そんなのが本当に居るんだ。絵本の中の話じゃないんだ。
「あのね、ルルーチア。大昔に魔族と獣人との戦いがあったのは、本当の事なんだよ。ねえ、お師匠様」
「そうだね。大戦で負けたとはいえその生き残りが、この大陸を点々と旅しているって聞いたけど。その魔族がこの町に来ているとはね……」
魔女様も不安げな様子で話をする。魔族ってそんなに怖い人達なの。
「お兄ちゃんは魔族を見たことあるの?」
「オレは無いよ。お師匠様はどうですか」
「いや、アタシも見た事はないね。今でも強大な力を持っているって噂だけどね。フィフィロ、城門に近づかないように注意しておくれ。何かあったらすぐに家に帰ってくるんだよ」
ここは東の城門に近く、西門は中央広場からも遠い。お祭りは中央広場が中心だから、あまり遠くまで行かないようにと注意された。
翌日は気持ちのいい朝だった。空も良く晴れていて雨の心配もない。朝からホフスは早くお祭りに行こうとお父さんにおねだりしている。食器を片付けてから、ルルーチアもフィフィロと一緒に中央広場へと出かけていく。そこで目にしたお祭りは、村のお祭りとは段違いだった。
「ねえ、お兄ちゃん。あっちに芸人が何かしてるわよ。早く、見に行きましょうよ」
「すごいね。三人が肩に乗ってジャグリングしているよ。魔法でも使っているのかな」
そう思えるほど、素晴らしい芸だった。露店も数多く建ち並んでいて、珍しい果物やお菓子が売られている。何を買おうか迷ってしまう。
「お兄ちゃん、お兄ちゃん。これ、甘い蜜で固めた果物だって」
棒の先に赤い果物が刺さっていて、その周りを蜜で固めて飴のようにして売られていた。見たこともないお菓子だった。これは美味しそうだと、買ってお兄ちゃんと一緒に食べる。
「甘くておいしいや。こんなのが食べられるなんて、この町に来て良かったね。ルルーチア」
お兄ちゃんの明るい声で、自分も元気をもらえた気がする。村での事は忘れられないけど、お兄ちゃんとここで生きていかないといけないなら、楽しく過ごせるようにしたい。ルルーチアも笑顔を返して、お祭りを二人で楽しむ。
「ルルーチア、あそこで教会のシスター達が何かをしているよ。行ってみよう」
台の上に小物を置いて、売っているわ。そういえば昨日、バザーをするって言ってたけど、これがバザーというものなのかな。
「あら、ルルーチアちゃん、いらっしゃい」
「みんなでこれを売っているんですか」
「そうよ。家庭で要らなくなった物や、私達が作った小物をここで売って、教会の役に立てるのよ」
そのお金で子供達の食事などに充てているみたいね。それならとお兄ちゃんと一緒にお手伝いをし、荷物運びなどをする。
お兄ちゃんは台の上の売り物を、値段ごとに分けて並べ直している。作物を売る手伝いをしていたお兄ちゃんは、こういう商売の事も少しは分かるみたい。値段を書いた板も大きくして見やすくした。
「まあ、こうやって並べ替えるだけで見やすくなるのね。ありがとう、フィフィロ君」
商売とは無縁のシスターさんだから、こういうことは分からないのね。その後、売り上げがあがったとシスターさんに喜ばれた。
「お兄ちゃん、あっちに大きなテントがあるわよ。行ってみましょうよ」
バザーの手伝いを終えて、またお兄ちゃんとお祭りを見て回る。テントの前には人だかりができていて、何かの見世物をしているようだった。
「何だ、これは!!」
テント前の看板には、真っ白な子供が後ろ手に縛られて、口から炎を吐いている絵が描かれている。珍しい魔獣だとか、羽の生えた人と一緒に白子の子供が見世物になっていた。
「ルルーチア! ここから離れるぞ」
「ごめんなさい。こんな見世物小屋だって知らなくて……」
「ルルーチアが悪い訳じゃないさ。あんなことをする大人が悪いんだ」
そして、それを見に入ろうとする人達もだ! お兄ちゃんがいつになく、すごく怒っている。もしかするとお兄ちゃんも運が悪ければ、こんな場所で働かされていたかも知れないと思うと怖くなってきた。
村では、バカにされたり、気味悪がられたりしてたけど、それでお金儲けしようなんて事を考える人はいなかった。この町は裕福で、珍しい物なら病気の子供であっても、見世物にして働かせて娯楽にしてしまうのね。
華やかでいい町だと思っていたけど、そんな事ばかりじゃない一面をルルーチアは見せつけられた。




