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第59話 魔女様の町2

「ねえ、ねえ。ルルーチアお姉ちゃん、こっちに教会があるんだ。ボクのお友達が沢山いるんだよ」


 魔女様の甥っ子のホフスに手を引かれて、お兄ちゃんと横に並びながら街中を歩いて行く。魔女様の家に来て三日。昨日まで家の掃除や手伝いをしていたけど、魔女様からここ一週間は忙しいから、ホフスの面倒を見るようにって言い使っている。


「ルルーチア、こっちには大きな建物がいっぱいあるね」

「うん、あの尖がった屋根が教会かな」


 ホフスが歩いて行く先には、ひと際目立つ尖った形の三角屋根の建物がある。村にも教会はあったけど、もっと小さくて普通の家に教会のマークが書かれた木の板が取り付けてあるだけの建物だった。


 この町に着くまでの二週間の旅で、変わったことがある。それは神様へのお祈りをしなくなったこと。空にいる神様は自分達の為に何もしてくれないと分かったから。

 だから教会へ行ってもお祈りはしない。ホフスについて行くだけだ。


「フィフィロ君にルルーチアちゃんね。ヘルベスタさんから聞いているわ。夕方までここでみんなといましょうね」


 優しくシスターが声を掛けてくれたけど、お兄ちゃんは仮面をつけフードを目深に被ったまま「うん」と応えただけだった。

 お兄ちゃんはローブで体を隠し、手には毛皮の手袋、足はブーツを履いて白子だとバレないようにしている。


 ここには年下の子供ばかり二十人程が集められている。小さな子は魔法で遊んだり、お人形さんを持ってきている子もいるみたいで、ルルーチアぐらいの歳の子を中心にそれぞれ固まって遊んでいる。

 この教会にはこんな部屋があと二つほどあるそうだ。


「ルルーチアお姉ちゃん、こっちに来て魔法で遊ぼうよ」


 行っといでと、お兄ちゃんに言われてホフス達のいる輪の中に入る。ひとり残ったお兄ちゃんは、シスターさんの所に行って何か話をしているわ。


「本? ここには絵本ぐらいしかないわね。あなたその歳でもう字が読めるの? それなら他の子に読み聞かせをしてくれないかしら」


 一冊の本を持ってお兄ちゃんがこっちにやって来た。


「読み聞かせを頼まれてしまったよ。本当はこの地方の歴史書が見たかったんだけどね」


 絵本の他は教会の経典くらいしかないと言われたみたい。仕方ないとルルーチアの周りに集まっている子供達に、お兄ちゃんが絵本を読んでくれることになった。


「昔々、ある所に悪い魔王がいて、魔族と共にこの世界を破滅させようとしていました」


 お兄ちゃんは、怖い魔王と魔族の絵が描かれた絵をみんなに見せてお話の続きを読んでくれる。


「魔族は大陸の中央にある獣人の国を支配し、人々を苦しめて人や子供達までも食べてしまいました」


 きゃー怖い~、と言って目を伏せる小さな子供達を見ながらも話を進めていく。


「魔族を倒そうと獣人達は力を合わせて戦いました。しかし魔族の力は強く、それを率いる魔王は不死身のヴァンパイア。中々倒すことはできません」

「ねえ、ねえ。ヴァンパイアってなあに?」

「人の血を吸って生きるモンスターの事だよ」


 お兄ちゃんはガオ~と言って、近くの小さな子を怖がらせる。


 ――そういえばお母ちゃんも私達が小さな頃、よく絵本の読み聞かせをしてくれたよね。何だか懐かしいわ。


「そんな悪い事をする魔族に怒った神様が、獣人の部族の中から三人の勇者を選び出し武器と防具と魔法の杖を与えました。三人の勇者は手を取りあい苦難の旅をしながら魔王軍に挑みます」


「ほらこれが勇者様だよ」と言って絵本の絵をみんなに見せる。そこにはライオン族の剣士と大きな盾を持ったヒグマ族、それにオオカミ族だろうか、ローブを纏った女性の魔術師の絵が描かれていた。


「勇者達は神様からもらった武器を使って魔族をやっつけて、とうとう魔王城までやってきました。『おのれ勇者め! この魔王自ら相手してやる。さあ、かかってこい』。勇者と魔王との対決です」


 戦いの様子を身振り手振りで話していくお兄ちゃん。子供達は夢中になって聞き入っているわ。


「そして最後には魔王をやっつけて、封じ込める事に成功したのでした」

「あれ、なんで殺さずに封じ込めたの?」

「そうだね。不死身のモンスターだからね。殺すことはできなかったんだろうね。その後、勇者達はそれぞれの部族の元に帰って三つの国を作り、王様になって幸せに暮らしましたとさ。おしまい」


 わ~と声を上げて、子供達が拍手をする。いつの間にか他で遊んでいた子達もお兄ちゃんの周りに集まって来て、次の本も読んでとねだられているわ。


「あなたのお兄さん、本を読むのが上手ね。子供達をあやしてくれて助かるわ」


 と、シスターさんからも褒められた。

 ――まあ、私のお兄ちゃんですもの。

 ここに居る小さな子供達の世話をしながら、今日一日を過ごす。


「今日はありがとう、フィフィロ君。明日からは中央広場でお祭りが開かれるのよ。あなた達も見に行ったらどうかしら」


 明日から三日間のお祭りで、教会もバザーの催しをするそうね。他にも旅芸人や各地からの商人も来て、露店が並ぶ楽しいお祭りだと言っている。


「面白そうね。お兄ちゃん、明日お祭りに連れて行ってよ」

「それはいいけど、ホフスの世話も頼まれているからな……こんな小さい子を連れて行くとなると大変だな」

「フィフィロ兄ちゃん。ボクはお父さん達とお祭りを見に行くことになってるんだ。お祭りの間はお仕事もお休みだもの」


 そうなんだ。それならちょうどいいわ。


「それじゃ明日は、お兄ちゃんと二人でお祭りに行けるわね」

「そうだね。一応お師匠様に聞いてみて、いいって言ってくれたらルルーチアと一緒に行こうか」


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