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第53話 森の魔女の家3

「さて、今日の勉強はこのぐらいにしておくかね。フィフィロはそろそろ夕食の準備をしな」

「私も手伝う」

「そうかい。じゃあ妹さんはかまどには近づかず、テーブルの用意をしてくれるかい」


 そう言って、魔女様は奥の部屋へと向かった。



「そうだ、お兄ちゃん。そろそろ神様にお祈りしないと。この家、南ってどっち」


 方角を教えてもらって、お兄ちゃんと並んで天にいる神様にお祈りする。床にひざまずき、胸の前で手を組んで三回のお辞儀。


 天の神様、きょうの一日お守りくださり感謝いたします。

 願わくば 絶望に希望を、暗黒に光をなしたまえ。

 我ら神の子として、喜びと感謝と神への讃美と共に祈ります。

 我が神、ウエノス神よ。どうかお導きを。


「もう日の入りなのに、魔女様はお祈りしないのかな」

「お師匠様は忙しんだ。それに神様なんていないって言ってたし……」


 へぇ~、朝晩にお祈りしない人もいるんだ。そんな人、初めて聞いた。


「さあ、晩ご飯の準備をしよう」

「うん、お兄ちゃん」


 お兄ちゃんが料理を作って、ルルーチアがお皿などを並べていく。



「いただきます」

「妹さんの名前は、ルルーチアちゃんだっけ」

「はい、そうです」

「ここじゃ、いつも薬草入りの穀物を食べている。少し苦いけどちゃんと食べられるかい」

「うん、大丈夫」

「今日は君達のお父さんが持ってきた、柔らかいパンもある。スープに浸して食べるだけでもいいさね」


 やっぱり薬草入りのご飯はうんっげっ、て味で少し残しちゃった。お兄ちゃんはここで料理もして、こんな苦いご飯も毎日食べてるんだ。なんだかすごいな~。


「後片付けはアタシがやっとくから、あんたらは二階でもう休みな」

「はい、お師匠様。さあ、ルルーチア一緒に行こう」


 手を引いて二階にあるお兄ちゃんの部屋に連れて行ってくれる。そこはベッドが一つと机と椅子がある狭い部屋で、奥の方には何だが分からない道具が沢山置かれていた。


「そこの荷物は触っちゃだめだからね。ルルーチアはこっちのベッドの中に入っていて」


 お兄ちゃんが服を脱いでベッドに入ってきて、いつものように顔を舐め合った。やっぱりお兄ちゃんと一緒にいるのが一番いいや。


「お兄ちゃん。ここに居て楽しい?」

「毎日魔法の勉強で大変だけど、これで村の人から魔法が使えないってバカにされなくなると思うんだ。でもこの家にいる間はルルーチアと一緒にいてやれなくて、ごめんな」

「ううん、いいよ。それなら今日みたいに私がここに来るようにするよ」


 毎日来れる訳じゃないけど、それなら寂しくないよ。いつものようにしっぽをお兄ちゃんの腰に巻き付ける。


「ルルーチアはあったかくて気持ちいいや」


 こうやってお兄ちゃんと眠るのは、久しぶりのような気がする。明日も一緒に居られると思うだけで楽しくなってくるよ。

 いつの間にか眠っていて、朝、お兄ちゃんに起こされた。


「お兄ちゃん、ここ何処?」

「何言ってるの、森の魔女様の家だよ。昨日ここに来ただろう」

「あっ、そうだった。今日はお兄ちゃんとずっと一緒だね」


 そう言って、一階にある水場で顔を洗ってから一緒に朝のお祈りをする。


「朝ご飯ができたよ。こっちに来て座りな」

「は~い」


 魔女様に呼ばれて食堂のテーブルに座る。昨日と同じようなご飯だったけど、ルルーチアの前には白いスープとパンが置いてあった。


「乳を入れて少し甘くしてある。妹さんはそっちの方が食べやすいだろう」

「うん、ありがとう」


 甘いスープにパンを浸して食べる。お兄ちゃんと楽しくおしゃべりしながら食事をしていると「ほら、お口にスープが付いているよ」と、ほっぺに付いたスープをふき取ってくれた。うん、うん。お兄ちゃんありがとうね。



「さあ、今日は魔術について勉強するよ。妹さんには少し難しいかもしれないけど聞くだけ聞いておきな」

「うん、分かった」

「昨日も言ったように魔素に魔力を干渉させれば、魔法が発現する。体内に少し魔素を貯めるだけで生活魔法程度は誰にでもできる。魔法を使うのを魔法使いと言うなら、この大陸に住む全員が魔法使いと言う事になるね」


 大陸中の人が魔法使い? やっぱりお兄ちゃんのように魔法が使えない人はいないんだ。


「だが魔術師は、魔結晶に貯められた魔素を使って、より大きな魔法を発現させてその形を自在に変える事ができる」


 自分にはできないけど、村の魔術師さんに見せてもらった魔術も色んな形になっていたのを思い出した。


「二属性以上を使える者は、魔術を組み合わせて使う。例えば風魔術のすぐ後ろに火魔術を置いて飛ばす。これによってスピードが上がって破壊力も増す」

「そんな事ができるんですか」


 驚いたようにお兄ちゃんが聞き返す。


「魔術はその属性や形、強さで分類されていてね。さっきのは、風3-1+火2-1という魔術式になる。魔術式は魔術学校で習う事さ。今は覚えなくてもいいよ」


 なんだか難しくて全く理解できなかったけど、お兄ちゃんはこんな難しい事を毎日勉強してるんだ。


「魔術式の組み合わせは無限だ。それをその場に応じて使い分けるのが一流の魔術師というものさ」

「オレもそんな魔術師になれますか」

「フィフィロは前に巨大な水球を発現させている。その素質は十分にあるが、魔術は技術だ。数々のことを学び習得するための鍛錬が必要になる。先は長いだろうね」


 その後、魔女様に実際の魔術を見せてもらった。木の間を縫って飛んで行く魔術や、大きな音のする魔術もあった。そしてイノシシを魔術で倒すところも見せてもらった。森の魔女様はやっぱりすごい魔術師様だったんだ。


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