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第52話 森の魔女の家2

 お兄ちゃんが森の魔女様の家に行ってから五日が過ぎた。一人部屋の中からボーと外を眺めていたルルーチアに父親が声を掛けてきた。


「ルルーチア。父ちゃんはこれから魔女様の家にフィフィロの食料を届けに行くんだ。ルルーチアも一緒に行くか」

「うん、行く! 私も一緒に行く!」


 ルルーチアは椅子から飛んで降りて、急いでお父ちゃんの後について行く。お兄ちゃんに会えると思うだけでしっぽがぴょんぴょんと跳ねちゃうよ。

 お父ちゃんが荷馬車を用意して、お肉や野菜などを積み込んでいく。その空いた所に座って、馬車に揺られながら村の外に出た。


 村の外……いいえ、家の外に出たのも久しぶり。最近は牛小屋にも行っていなかった。頬に当たる風が気持ちいいや。お兄ちゃんに会えると思うだけで、こんなにも清々しい気持ちになれるなんて。


 森の魔女様の家は村を出て少し先にある森の手前、大きな二階建ての三角屋根の家だった。ここで魔術や魔獣の研究をしている偉い魔術師様だってお母ちゃんが言ってた。

 それなら村の中に住めばいいのに、なんでこんな所に住んでるんだろう。


「フィフィロ、元気にしてたか」

「父ちゃん!」

「お兄ちゃん、お兄ちゃん。会いたかったよ~」

「ルルーチアまで来てくれたんだ」


 魔女様とお兄ちゃんがテーブルに向かい合って座っていて、何か話をしてたみたいだったけど、お兄ちゃんに飛んで抱きついた。


「森の魔女様。一週間分の食料とフィフィロの着替えを持ってきました」

「ご苦労だったね。奥で少し話をしようか。フィフィロはここで妹さんと遊んでな」

「はい、お師匠様」


 お兄ちゃんはここでも服を着ていたけど、白い腕は外に出していてフードも被っていないから顔が良く見える。しっぽをフルフルさせてお兄ちゃんに抱きつき、久しぶりの感触を確かめる。


「元気にしてたかい、ルルーチア」

「うん、うん。でも、お兄ちゃんがいなくて寂しかった」

「そうか、ごめんね。そうだオレ、魔法が使えるようになったんだよ。ほら」


 そう言って指先に水滴を作って見せてくれた。


「すごい、すごい。お兄ちゃんの魔法だ」


 今まで魔法が一つも使えないって、ずっと悩んでいたのに。


「ルルーチアも魔法を使ってごらんよ」

「うん、お兄ちゃん。私の水玉とくっつけてみようよ」


 魔法で指先に小さな水球を作って二つを合わせたり、飛ばしたりする。普通の兄妹はこんな風にして魔法で遊ぶものだけど、今までお兄ちゃんとは魔法で遊べなかった。これでルルーチアの夢が一つ叶った。


 話が終わったのか、お父ちゃんが奥の部屋から出てきた。


「さあ、フィフィロ荷物を運び込むのを手伝ってくれ」

「はい」


 食料品や服を部屋に運び込むお手伝いを一緒にしていると、お父ちゃんが外に出て帰り支度をしている。


「私、お兄ちゃんと一緒がいい」


 久しぶりに会えたお兄ちゃんとまだ離れたくないと、お兄ちゃんにしがみついた。


「ルルーチア、お前はそう言うと思ったよ。魔女様に今日は泊まってもいいと許可をもらった。明日までここに居なさい」

「お父ちゃん、いいの! ありがとう」


 つい嬉しくて、部屋の中を跳ね回ってしまった。


「でもな、フィフィロの勉強や仕事の邪魔をしちゃいけないぞ」

「うん、私、いい子にしてる」

「よし、それじゃあ、二人ともこっちへ来な。魔法の勉強を再開するよ」


 お兄ちゃんと手を繋いで食堂にあるテーブルに二人並んで座る。向かい側には森の魔女様が座って魔法の事を教えてくれるみたい。


「今日は魔素と魔法の事について教えよう。基本的な事だからちゃんと覚えるんだよ」


 魔女様は黒い石の板をテーブルに置いて、白いチョークで絵を書きながら説明してくれる。人の絵を書いて、その周りに丸い粒を書いていく。


「この世界のいたる所に魔法の基になる魔素が沢山漂っている。空気中だけじゃなくて水中や土の中もだ。これを体に取り込んで魔力で各属性を発現させる。これが魔法だ」


 お兄ちゃんは、うん、うん、と頷きながら真剣に聞いてる。


「じゃあ、発現した魔法はその後どうなる?」

「はい、はい。消えて無くなるよ」


 手を上げて答えた。今まで自分の魔法を見てきたからすぐに分かったけど、お兄ちゃんはあまり魔法を使ったことが無いから、すぐに答えられず首をひねっていた。


「そうだね。でも本当は消えるんじゃなくて魔素に戻るんだ。魔法で作った水滴をこの器に入れて良く見てみな」


 ふたりで魔法の水滴を小鉢に入れて、それが消えるまでをよく観察する。水がどんどん小さな粒になって上から順番に黒い粒が空中に浮かぶように消えていく。


「これはどんな魔法でも一緒だ」


 魔女様が指から小さな魔法の石を出して小鉢に入れる。しばらくすると小さく分解されて黒い粒になって消えていった。


「だから、のどが渇いたからと言って魔法で作った水を飲んでも、体に魔素が戻ってくるだけで渇きが収まる訳じゃない」


 魔力を使った分だけ体力が落ちて、何の効果もないと言っている。確かにそうだよね。


「その魔力を生み出すのが胸の中にある魔結晶と体の中の魔力回路だ。それと同時に魔結晶は魔素を貯めてくれる。その魔素の量によって使える魔法の大きさが決まってくる」

「オレの魔結晶はすごく大きいって聞きました。大きな魔法が使えるってことですか」

「多分、使えるだろうね。でもね、あんたの魔結晶は魔素を溢れさせるんだ。普通なら一定量が貯まれば、それ以上は増えたり逆流したりしないはずなんだけどね」


 それがお兄ちゃんの病気の原因らしいけど、なぜそうなるのか魔女様でも分からないらしい。


「魔結晶は赤ちゃんの頃から体と共に成長し大きくなって体になじんでいく。フィフィロのはまだ成長段階で完成していないのかもしれないね」

「今まで魔力を使ってこなかったから?」

「それは分からないね。その研究もしたくて、あんたを預かったと言うのもあるんだよ」


 それでお兄ちゃんはこの家に居るのね。この魔女様がお兄ちゃんの病気を治してくれたらいいのに。


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