第49話 ルルーチア2
――翌朝。
窓からは明るい日差しが差し込んでいる。ルルーチアは一緒に寝ていたお父ちゃんに起こされて、お兄ちゃんの部屋に入った。一晩中看病していたお母ちゃんが嬉しそうにお兄ちゃんと話をしてる。
「フィフィロ。良かった、良かったわね。もう熱もないみたいだし顔色も良くなっているわ」
「お前は強い子だ。よく頑張ったな」
お父ちゃんもお兄ちゃんの頭をなでて褒めている。傍に行くと、昨日に比べたら顔色は良くなっていた。この白い顔色が良いと言っていいかは分からないけど、お父ちゃんもお母ちゃんも元の顔色に戻ったと喜んでいるから、それでいいんだろう。
「フィフィロ。お腹は空いていないかい。魔術師様に教えてもらった、薬草入りの穀物のご飯を作ってあげるよ」
「うん、ありがとう」
昨日はあれほど苦しがっていたのが嘘のように、ご飯と聞いた途端お兄ちゃんのお腹が鳴った。
二日もするとお兄ちゃんはベッドから起き上がる事ができるようになった。
今日からは、またお兄ちゃんと一緒にベッドで寝る事ができる。久しぶりに胸に抱きついて感触を確かめる。勝手にしっぽが左右に振れて仕方ないや。
「オレも元気になったから、明日はルルーチアと一緒にお外に出て遊ぼうか」
「えっ、いいの。お外は久しぶりだね。楽しみ」
「ごめんね。オレのせいで……お兄ちゃん失格だね」
「そんな事ないよ。お兄ちゃんが元気になって、私の傍に居てくれるだけでいいよ」
しっぽをお兄ちゃんの腰に回して、一緒に眠る。
翌朝。お兄ちゃんと外に出かけようとしていたら、お母ちゃんと何か言い争っている。
「ダメだよ、フィフィロ。村に出ちゃ駄目なんだよ」
「どうして。今までみたいに外で遊びたいよ」
お母ちゃんは困った顔で、毛皮の無いお兄ちゃんが怪我をしないようにと、全身を覆う服を用意して着せる。
「こんなフードまで被らないといけないの」
「村の人に見られないようにしなさい。それを被っていれば、庭の牛小屋までなら外に出てもいいよ」
それなら牛小屋の掃除でもしてくるよと、お兄ちゃんは部屋を出た。
「ごめんね、ルルーチア。外に遊びに行けなくなっちゃった。一人で遊んで来てよ」
「私もお兄ちゃんと一緒に牛小屋に行く」
「ルルーチアにはまだ牛小屋の掃除は無理だよ」
「お兄ちゃんのお仕事を見てるだけ。それならいいでしょう」
お兄ちゃんは少し困ったような顔をしていたけど、手を繋いで牛小屋まで連れて行ってくれた。
「それじゃ、この椅子に座っていてくれるかい」
小屋の中は危険な物もあるから、中には入らないようにとお兄ちゃんは言って、くわを持って慣れた手つきで牛小屋の掃除をしていく。服を着てお仕事をしているお兄ちゃんは何だか大人びていて、すごくカッコよく見えた。
「あれ、ルルーチアちゃんじゃない。久しぶりね。ねえ、一緒に丘の方に遊びに行かない?」
お隣さんのいつも一緒に遊んでくれるユイルのお姉さんが、庭の柵から声を掛けてきた。丘の中腹にある家から弟のメハラも、ここまで一緒に来てくれたみたい。
「私、お兄ちゃんのお仕事見てるの。また今度ね」
「お兄ちゃんって……フィフィロは病気になったんじゃないの? 小屋の中にいるのはフィフィロ?」
「やあ、ユイルかい。もう病気は治ったから、小屋の掃除をしてるんだ」
汗をかいてフードを取ったままのお兄ちゃんが、ユイルのお姉さんに近づいて行った。
「キャー! あなたは一体誰なの! そんな白い顔で……」
「フィフィロだよ。ユイル」
「そんなはずないでしょ。毛も生えてないし、鼻だってなんでそんなに低いのよ」
「お姉ちゃん。この人フィフィロ兄ちゃんじゃないの? 声、同じだよ」
「そうだよ。オレはフィフィロだよ。メハラなら分かってくれるよね」
「弟に近寄らないでよ、この真っ白オバケ!!」
ユイルは弟を庇うようにして、自分の家へと走って逃げて行った。お兄ちゃんはそれを唖然として見送るしかなかった。いつも一緒に遊んでくれた優しいユイルのお姉さんが、あんなことを言うなんて。
そうか、それでお母ちゃんは外に出ないようにって言ったんだ。
「お兄ちゃん、お兄ちゃん……」
「ああ、オレは大丈夫だよ。それよりもごめんな。ユイルと一緒に遊びに行けなくなっちゃったな」
「私は、お兄ちゃんがいてくれたらそれでいいの」
そう言うと、お兄ちゃんは頭を優しく撫でてくれた。でもその瞳はすごく悲しそうだった。
それ以来、お兄ちゃんは村の人達と関わりを持たなくなった。村の人もお兄ちゃんが牛小屋の掃除に出ているのを、遠巻きに見ながら何か囁き合っている。そんなフィフィロの傍にはルルーチアがついていて、一人遊びをしている事が多くなった。
そんな生活がひと月続いた頃、またお兄ちゃんは病気で倒れてしまった。
お読みいただき、ありがとうございます。
しばらくは、フィフィロとルルーチア兄妹の話となります。
リビティナやネイトスは次回出演までお休みという事で、
辛抱してください。




