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第48話 ルルーチア1

 今日、真っ白な体になっているお兄ちゃんを見て驚いた。お父ちゃんはこれが白子という病気でもう落ち着いているって言っていたし、お母ちゃんも移る病気じゃ無いから安心していいと言われた。

 でもお兄ちゃんは昨日から高熱を出して、ずっと眠ったままで少し心配だ。


 夕方、お母ちゃんが奥の食堂から、お兄ちゃんの大好きな生肉をお皿に乗せて部屋の中に入っていった。半分開いた扉から中を覗くと、起き上がったお兄ちゃんをベッドに座らせて優しく体を毛布で包み込んでいる。


「母ちゃん! オレの体おかしいよ。こんなつるつるで真っ白な体……」

「そんな事より、さあ、ご飯にしましょう」


 ベッド横のテーブルにお肉を置いて食べさせているけど、お兄ちゃんは上手く噛み切れず、なんだか食べにくそうにしている。 白子になって口の形も変わったからなのかな。


「母ちゃん。なんだか美味しくないし食べ辛いよ」

「そうなのかい。いつものイノシシの肉なんだけどね。今度は鹿肉を細かく切ってみようかね」


 食事が終わって、お兄ちゃんにしっかり寝るようにと言って、お母ちゃんが部屋から出てきた。


「ねえ、お兄ちゃん……。お部屋に入ってもいい?」


 扉の陰から尋ねる。


「あっ、ルルーチア。オレの体が変なんだよ」

「うん。知ってるよ。お兄ちゃんは白子になったって言ってた」

「白子?」


 毛布に包まれたお兄ちゃんの横に座って、今朝お父ちゃんとお母ちゃんが言っていたことを話す。


「これが病気なの? 体のどこを触っても毛が無くてツルツルなんだ。ほらオチンチンもそのまま見えているんだよ」

「でも、頭の上の毛は残っているよ」


 あっ、本当だ、と言って両手で焦げ茶色の頭の毛を確かめている。


「……でもルルーチアは、オレの体を見て気持ち悪くないかい」

「お兄ちゃんは、お兄ちゃんだよ」


 お兄ちゃんを包んでいた毛布は腰まで落ちていて、上半身の白い体が露わになっているけど、気持ち悪いなんて思えない。

 いつもしているように、お兄ちゃんに体を寄せて顔をペロリと舐めた。するとお兄ちゃんもルルーチアの顔を舐めてくれる。


「ごめんね。この口だと前みたいにうまく毛づくろいができないや」


 さっきまでの不安な表情と違って、にっこりと微笑んでくれる。顔の形は変わってしまっても、その優しい瞳は前と同じだよ。


「ねえ、お兄ちゃん。一緒に眠ってもいい?」

「ああ、こっちにおいで」


 病気の間は離れ離れになっていたから寂しかったんだ。毛布の中に入って一緒にベッドに横になる。


「ルルーチアの柔らかい毛が気持ちいいよ」

「お兄ちゃんもすごく温ったかいよ。白子になったからかな」


 そう言って横で寝ているお兄ちゃんの顔を下から覗き込む。


「そうかも知れないね」


 ルルーチアを抱き寄せておでこを舐めてくれる。それが気持ち良くってしっぽをフリフリしてしまう。


「そういえば、オレのしっぽが無くなっちゃったんだ」

「そうなの? それじゃ、私のしっぽを腰に回してあげるね。これなら寒くはないでしょう」

「うん、ありがとう。ルルーチア」


 お兄ちゃんのすぐ横でくっ付いたまま眠る。この場所が一番安心できるよ。

 でも、その翌日。お兄ちゃんはまた病気になってしまった。


 お兄ちゃんはお腹が痛いと何度もトイレに行ったり、食べた物を吐いたりしている。その内、お兄ちゃんは気が遠くなっていってベッドから起き上がる事ができなくなってしまった。


「おい、フィフィロ、しっかりしろ。一体どうしちまったんだ、唇までこんな土気色になるなんて」

「フィフィロ、フィフィロ。しっかりしておくれ。あなた、早く魔術師様を呼んできてちょうだい」


 お父ちゃんとお母ちゃんが慌てた様子で、走り回りルルーチアには気を掛ける様子もない。お兄ちゃんの事は心配だけど、まだ九歳の幼いルルーチアには何もできる事は無かった。


 魔術師様が来てくれて、水を飲ませたりお祈りをしてくれたけど、お兄ちゃんのお腹が痛いのは治らなかった。ベッドの上でもがき苦しむ兄の姿を、その日一日中ルルーチアは見る事になる。


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