第43話 白子の居る村3
家の外を見ると、馬に乗った兵士が四人と歩兵十五人程が家の前を取り囲んでいる。手に剣や槍を持ち、既に戦闘準備は整っているようだ。
「この家に白子が居ると通報を受けた。白子の子供とその家族の者は表に出て来い」
兵士は大声で叫ぶ。窓から様子を覗っていると兵士の後ろに村人が一人いると、ジェーンの父親が言う。
「あいつは、ジェーンを忌み嫌っていた奴だ。あいつが軍に通報しやがったな」
この家から五軒離れた家の住人だと言う。媚び諂うように馬に乗っている兵士に何か話している。
せっかくここまで回復したジェーンを兵士に引き渡すわけにはいかない。
「外の様子だと、戦闘は回避できそうにないね」
「リビティナ、アタイも戦うよ。ジェーンを守ってあげないと」
「レイン。気持ちは嬉しいけど、正面で戦うのは任せてくれるかな。君はいざという時、裏口からみんなを逃がすようにしてくれるかい」
これだけの兵士相手にDランクの冒険者じゃ足手まといになってしまう。窓を閉め、家から出ないようにとみんなに言ってから、リビティナとネイトスが表に出る。
「この家にいる子供は、今治療中でね。あんたらに引き渡せないんだけど」
「なんだ、お前達は。この村の者ではないな」
仮面をつけた二人を警戒しつつ、威嚇するように一斉に槍をこちらに向けてきた。
後ろにいた村人が隊長らしき人物に告げる。
「あいつらは、三日前にこの村に来た冒険者です」
「冒険者だと……。白子に接触した者は処分対象となる。抵抗せず大人しく捕まれ」
「伝染する病気ではないんだよ。処分とは殺すと言う事かな。それはやり過ぎだと思うんだけどね」
「黙れ!! 他の帝国臣民を守るためだ。この村の者は全員、処分する事が決まっている」
聞いていた通りだね。だとすると、この村を冒険者達が包囲して村人を逃がさないようにしているんだろうね。
「お、俺は白子がここに居ると知らせたんだ。俺達家族は助けてくれるんだろう」
「お前の家は何処にある?」
「あ、あそこだ。白子がいる家からは相当離れているぞ」
「そうか、同じ村の中だな。ならばお前も処分対象だ。連れていけ!」
部下に指示して、後ろの男がどこかに連れて行かれた。本当に村人全員を殺して焼き払うつもりのようだね。
「冒険者がなぜこの村に来たのか知らんが、お前達も不運だったな。家ごと焼き払え!」
その号令と共に家に向かって何本もの火矢が撃ち込まれた。リビティナが腕を半円形に回すと、水のカーテンが家全体をガードする。
「ま、魔術師か! 二射目を用意しろ」
「ネイトス、頼んだよ」
火矢を用意している兵士を狙いネイトスが矢を放つ。鋼鉄の胸当てを付けていた兵士が強弓に貫かれて次々に倒れていく。
「な、何だ! 鎧を貫通だと! う、後ろに下がれ」
慌てた兵士が家の前から散り散りに物陰に隠れる。
「それで隠れたつもりかい」
木の陰に隠れている兵士に向かって、リビティナが腕を水平に振り抜く。空気の唸る音がしたと思った次の瞬間、大木と共に兵士の体が真っ二つになって地面に転がった。
「一級魔術師がなぜこんなところに居るんだ! おい、お前の法衣は全属性の魔法耐性があるのだろう。前方に出て奴の魔術を防げ」
「あ、あの威力の魔術を防げるか分かりません!」
「構わん。二、三発防げれば良い。その間に左右の弓隊が奴を狙う。護衛は弓使いの一人だけだ。あれなら倒せる」
分かれた部下達に合図を送り、リビティナを狙おうとする。
「隊長、あの魔術師の姿が見当たりません!!」
「なんだと、さっきまであの家の前に居たではないか!」
その兵士達の上空から声がする。
「先に仕掛けてきた君達が悪いんだよ。ここで全滅してもらうよ」
そこには黒い翼を広げて空中に浮かぶ人影。
「ま、まさか人型の魔獣……あれは空想上の化け物のはずだ!!」
目を見開き、リビティナを見上げる兵士に氷の槍が降り注ぐ。その槍に貫かれる者、物陰から飛び出してネイトスの弓に倒れる者、その末路はいずれも同じである。
全ての兵士を倒したことを確認してリビティナが家に戻る。
「リビティナ~、大丈夫だった。怪我してない~」
「ああ、もう大丈夫だよ。扉や窓を開けてもいいよ」
外に倒れている兵士の数にみんなが驚いている。その中、エマルク医師が眉間にしわを寄せて、地面に転がる兵士の死体を睨むように見ながら呟く。
「これは厄介な事になったな」
元貴族のエマルク医師には今後の軍の動きが分かっているのだろう。リビティナも、このままで済むとは思っていない。この兵士が帰ってこなければ、次の兵士がこの村に送り込まれるだけだ。
「村人達と話をしよう。村長に言ってみんなを集めてくれんか」
エマルク医師は父親に言って村人を集会場に集めてもらう。今後、どうするかは村人達の決断に掛かっている。
36話。誤字(脱字)報告ありがとうございました。
少し遅れましたが、訂正いたしました。




