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第41話 白子の居る村1

 もうすぐ陽も落ち暗くなるけど、冒険者ギルドで紹介してもらった病院を訪ねる。

 そこに居るのは初老のクマ族の医師で、名をエマルク・バイジャンという元帝国貴族だそうだ。


「ギルマスの紹介? 王国から白子の事を聞きに来たじゃと」


 会うなり、その医師は喧嘩腰で話してくる。


「王国の者に話す事などないわい。もう病院も閉めるぞ、さっさと帰ってもらおうか」


 こりゃ話を聞くこともできなそうだ。何もできず病院を追い出されてしまった。


「元貴族のせいか王国を敵視してますな。リビティナ様、今日のところはこの町で宿を探しやしょう」

「そうだね。明日は朝からギルマスが言っていた村にでも行ってみようか」


 翌朝。宿屋で朝食を摂った後、町を出てネイトスを抱えて空を飛ぶ。北へと向かう小さな道を辿っていくと、その村はすぐに見つかった。

 ここは小さな村で十二軒の民家があり、六十人程の村人が住んでいると聞いている。


「すまないが、この村に白子の子供が居ると聞いたんだけど」


 道行く村人に聞いて歩いたけど、誰もが知らないと示し合わせたように同じ回答をしてくる。


「レインが言っていたように、焼き討ちを恐れて村全体で匿ってるようだな」

「少し空から様子を見てみるよ。ネイトスはここに居てくれるかい」


 空から村人の様子を見ると、一軒の家に何人かが入れ違いに入って行く。さっき道で尋ねた村人のようだけど、後ろを振り返るなど挙動不審だ。あの家に外部から人が来た事を知らせているんだろう。


「ネイトス、一緒に来てくれるかい」


 地上に降りて、白子が居るだろう家へ確信を持ちながら向かう。

 扉をノックすると、母親らしき女性が出てきた。


「すまない。少し話を聞きたいんだけどね。ここに白子の子供は居ないかい」

「そんな子は、ここにはいませんよ」

「ボク達は、白子の子供を治療しようと、アルメイヤ王国からここに来たんだよ。君達を危険な目に遭わすことは無いから安心してほしい」

「王国のお医者様?」


 少しは話を聞いてくれそうだけど、やはり白子の子供はいないと言い張る。子供を守ろうと必死なんだろう。レインの話だと白子の子は体が弱いと言っていた。手遅れになる前に早めに会っておきたい。

 信用してもらうためには、こうするしかないかな。リビティナが袖をまくり上げ、自分の白い腕を露わにする。


「この腕を見てくれるかい」

「あ、あなたも白子なんですか!」


 驚きの声を上げ、目を丸くしてリビティナを見つめ返す。


「本当にうちの子を助けてくれるんですか」

「ああ、心配しないで。まずはその子を診せてくれるかな」


 母親はやっと信用してくれて、白子の子供がいる場所へと案内してくれた。

 そこは家の地下室。酷い臭いのする部屋だった。ここは魔獣に襲われた時の緊急避難場所だ。トイレなども設置されているけど酷い環境だね。


 ベッドに寝かされていたのは七歳の女の子。蒸すような暑い部屋に毛布一枚で横になっている。白子と呼ばれているその子は確かに人間の姿をしていた。


「リビティナ様。これは眷属と同じ状態ですぜ」

「だけど、ずいぶんと衰弱しているね……。お母さん、この子が病気になって何日経つんだい」

「はい、大体三ヶ月ぐらいになります」


 その間、こんな劣悪な環境にいては病気になってしまうよ。女の子に声を掛けたけど、顔をこちらに向けるだけで起き上がる事もできないようだ。


「ネイトス。この子を上の部屋に移動させるよ」

「で、でも、そんな事したら見つかってしまいます」

「村全体で匿っているなら、大丈夫じゃないのかい?」

「ええ。でも村の中には、この子を毛嫌いする人もいて……」


 母親が言うには、娘の姿を村人に見せないためにこの部屋に閉じ込めていると言う。

 

「こんな事をしていたら、助かるものも助からないよ!!」


 そう強く言うと、母親ははっと顔を上げて「この子を助けて下さい」とリビティナに縋りつき懇願してきた。まずは、この子の体を洗っておこう。


「少しだけ息を止めておいてね」


 そう言って、そっと上半身を抱きかかえて口と鼻を押さえて全自動洗濯機の魔術をかける。リビティナと一緒に泡立つ水球に包まれた女の子は驚いて目を見開き、母親は水球の外でアタフタしている。

 洗い終えた女の子を抱えたまま、母親の案内で地下室を出て、子供を寝かせる部屋へと階段を上る。光魔法で体全体を治療しようと、ベッドに横たわる女の子を光で包み込む。

 そこへ父親が村人の話を聞いたのか、慌てた様子で家に帰ってきた。


「おい、この村に余所者が入って来たと……誰だ、お前は!」


 リビティナはそれを無視し、光魔法での治療を続けた。


「あ、あなた。この人達は王国から来てくれたお医者様なの。この子を助けてくれるって」

「だが、余所者に……」


 父親は、娘の体全体を包み込む光魔法を見て、唖然として黙ってしまう。


「少し話をしようか」


 リビティナは光魔法での治療を終えて、両親に案内されて食堂のテーブルに座る。未だに半信半疑の両親と向き合ってじっくりと話をする。


「娘を治療してくれたようだが、俺達には金が無い。一体何が目的でここに来たんだ」

「ボク達は人間……君達が白子と呼ぶ人の事を調べている」

「あなた達を頼ればジェーンの病気は治るのでしょうか」

「あの子が治って獣人に戻る事は無いよ。でも今後、生きていくための手助けはしてあげられる」

「白子の子供がここに居る事を、外部に漏らされては困るんだ」

「それも承知しているよ。そんな事は気にしなくてもいい。娘さんのために最善の事を考えてくれるかな」

「他のお医者様には、後三ヶ月しか持たないって言われたんです。あの子を……ジェーンを助けてください」


 医者に診せて、先の無い命だと宣告されたようだ。さじを投げられた娘さんを両親だけで看病しているみたいだね。でもリビティナなら助けてあげる事も可能だろう。


「少し特殊な治療をするけど、それでもいいかな」


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