第40話 帝国の冒険者ギルド
翌日、レインが拠点にしていると言う町に到着した。
「そんなに大きな町じゃないんだけどね、それなりにお店はあるんだよ」
城壁は低いけど魔獣から町は守られているし、宿屋も食事処もちゃんとあるようだね。
「冒険者ギルドに行きたいんだけど」
「あそこに見えるレンガ造りの建物だよ。アタイは仲間の家族の所に行ってくるよ。ここまでありがとね」
そう言って笑顔で手を振りながら、反対方向の街並みへと足早に消えていった。
冒険者ギルドは赤レンガの二階建ての建物。中は受付窓口に獲物の受け取りカウンター、その前にテーブルがいくつか並んでいて、他の町にある冒険者ギルドと同じ造りだ。ただ飲み屋は併設されていなくて、こぢんまりとした感じだね。
「この国で起きた、白子に関する過去の記録を知りたいんだけど」
「有料になりますが、よろしいですか」
冒険者ギルドで発注された依頼については記録されていて、どこのギルドでも知る事ができる。但し機密事項もあり、それなりのランク者でないと開示できない情報もあるそうだ。
ネイトスの冒険者カードを提示して、調べてもらう事にした。
「調べ終わるまで、半日ほど掛かります。夕方前にここに来ていただけますか」
その間はこの町の観光でもしてみようかな。街の建物は低く平屋か二階建てが多いね。飲み屋と雑貨屋が多く洒落たカフェのようなお店は無いようだ。
「でも、物価は安いようですな。この革靴なんて王国の半額程で売ってますぜ」
あまりお店で買い物はしないから、物価の事はよく分からないな。それでも食事処で食べたクルミ入りのパンケーキはすごく美味しかった。こんな遠くまで来たかいがあったというものだよ。
色々なお店をネイトスと楽しく回った後、冒険者ギルドに行ったけど、調べるのにもう少し時間がかかると言われた。仕方ないから依頼を張り出している掲示板でも見て時間を潰す。
「レインの言っていたように、帝国の報酬は少ないようだな」
ネイトスによると依頼の数や内容は同じような物だけど、報酬が三、四割は低いらしい。中には半額ぐらいの依頼まであるそうだ。
帝国と言うのは、基本的に閉ざされた国だ。他国の干渉を受けず自給自足を目指す。そのため自国に全てのエネルギーや資源を抱え込む必要がある。足りなければ他国を侵略してでも手に入れる。他国と貿易もしているけど、協調した関係にはない。
侵略が成功している間はいいけど、止められれば国内生産だけで賄わないといけなくなる。国民や貴族が豊かな生活を求めれば、際限なく侵略を続けることになる。でも、そんな事は無理に決まっている。
今の帝国は、技術変革に乗り遅れ、武力侵略もままならず自国通貨の価値も低迷している。国民の生活は大変なようだね。
「ネイトス様、調査が終わりました。こちらへどうぞ」
受付嬢に呼ばれて会議室のような部屋へと案内された。そこにいたのは王国では珍しいヘラジカ族の大柄の男で、板状の角が頭の後ろに向かって生えていた。カウンターで見た職員と違って、折り目正しい紫色の服を着ている。上役の人か?
案内されるまま事務椅子に座り、対面のその男がリビティナの方を気にしながら二つ折りの書類をテーブルに置いた。
「白子に関する調査依頼という事だが、国の機密事項もある。そちらの方は?」
「俺の連れで、信用のおける方だ」
「身分証など見せてもらってもいいかな」
リビティナは冒険者カードと一緒に、鞄から辺境伯からもらっていた羊皮紙の書類を取り出して見せる。
その男は、リビティナの出した冒険者カードに目を落としながら感心したように言う。
「ほぉ~。Eランクで永年無料のカードとは……特殊技能の持ち主かね。それにこちらは王国貴族が出した身分保証書か。ならば一緒に聞いていただいても良かろう」
開示された資料には、いつどのような依頼があったか記載されていた。依頼者は全て軍からのもので、村や町の民家の包囲と言うのがその内容だった。六、七年に一度は依頼があるようだね。
軍からの依頼自体に白子と言う文字は無く、独自調査で白子関連と記録されているみたいだ。
「自己紹介が遅れたな。俺はこの冒険者ギルドのマスターをしているベラントスだ。今回の情報は他言無用で頼むぞ。国家間の紛争の種になるかもしれないからな」
「白子のいる村を焼き払っていると聞いたが」
「どうも、そのようだな。町で見つかった場合は、家族は投獄されて、接触者は隔離のため一ヶ月間監禁される」
家族が殺されているのか不明だけど、その後の消息は掴めないそうだ。
「冒険者ギルドはたとえ国からの依頼であっても、非合法な依頼は受けない。自国民の村人を殺すなどに加担はせんが、これらの依頼は村の包囲だけだ」
村で直接手を下すのは国の兵士。ギルドとして怪しく思っても国からの依頼を拒否することは無いという。
帝国の事だから、非道な事も平気でして隠ぺいするんだろうね。冒険者ギルドは国とは別の組織だ。だからこんな情報も開示してくれる。
「近々、村の包囲が行なわれる可能性がある。内々にだが二十人程の冒険者を用意できないかと、軍から打診があった」
「その村の場所は分かるかい」
「どうも、この近くの村のようだ」
村の場所を詳しく聞くと、ギルマスが質問してきた。
「あんたらは王国の軍か、貴族の依頼でここに来たのか?」
「ギルマス。こちらも他言無用でお願いしたいんだけどね」
そう言ってリビティナが手袋を外して白い腕を見せた。ベラントスは驚きのあまり立ち上がり、ガタンと椅子を倒して後ろに飛び退いた。
「おい、おい。レディに対してそのような態度は失礼じゃないのかい」
「うっぉ、す、すまない。初めて白子と言うのを見たもんでな。感染はしないんだろうな」
「大丈夫だよ。そんな病気じゃないよ」
隣りで落ち着いて座っているネイトスの様子を見て安心したのか、ベラントスが椅子に座り直した。
「ボクは森でモンスターに噛まれてこんな姿になったんだ。そんなモンスターの事を君は知らないかな」
「そんなモンスターが居れば、今頃大騒ぎになっているだろう。俺は聞いた事はないな」
ギルドマスターでも知らないか。やはり他のヴァンパイアが居る可能性は無いようだね。
「君は白子の治療のために、この町に来たのかね?」
「白子の治療? そんな事ができるのかい」
「研究をしている変わった医者がこの町にいる。白子の事について詳しく聞きたいなら、その者の所に行くといい」
ほう、そんな医者がいるとは。これはいい情報が聞けたよ。




