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第26話 眷属1

「こ、ここはどこだ……」

「やっと起きたのかい」


 昨日、リビティナのベッドで寝てもらっていたネイトスが目を覚ました。既に朝日は昇り、この部屋も明るくなり始めた。

 初めて眷属になりたいとここに来た者の寝顔をもう少し見ていたかったけど、それも終わりだね。


「ここはボクの洞窟の中だよ。君はガリアとシャトリエに担がれてここまで運ばれて来たんだ。覚えているかい」

「す、するとあなたは、ヴァンパイアのリビティナ様でしょうか」

「ボクの名前を知っているとはね。一体どこで聞いたんだい」


 ――ボクはそんな有名人じゃないはずなんだけどね。


「俺のばあ様から聞いている。テイムの町で命を救われたと言っていた」


 テイムの町? ああ、金具を買いにいった町で知り合った、あのヒョウ族姉弟の……そのお孫さんか。


「それで、君はボクの眷属になりたいと言っていたそうだね」

「俺は小さな頃からばあ様や大叔父様から、あなたのことを聞いて憧れていたんだ。是非眷属にしてくれないか」


 なるほどね。それにしてもあれから六十五年以上も経ってしまっていたんだね。


「俺のネイトスと言う名前も、夜の神の子供から取ったと言っていた。夜の神、ヴァンパイアの子供になってほしいとの願いからだそうだ」

「ネイトス……君がどのように聞いているか知らないけど、眷属になったからと言って不老不死になったり、ボクの力が与えられるわけじゃないんだよ」


 今まで少しの血を分け与えた人はいるけど、眷属にした人はいない。

 眷属にしたからと言って、血の影響で背中に翼が生えたり、素手で魔獣を倒せるようにはならないだろう。そんなものを期待されて眷属になると言われても困ってしまう。


「そんな力は要らないさ。俺は只々あんたに憧れていたんだ。そして不要かも知れんが、あんたの役に立ちたい……ばあ様の受けた恩を返したいんだ」

「眷属になると、町で普通の生活は送れないと思うよ。ボクのように山に籠もって暮らさないといけなくなるんだよ」

「それでいい。俺はあんたといつまでも一緒に居たいんだ」


 え~! なんだよそれ。

 まるで告白されているようで赤面してしまうじゃないか。今もネイトスは情熱のこもった眼差しでこちらを見つめているよ。

 こんなことは前世でも無かったはずだよね。こんなにも心臓がドキドキしているもの。

 なんにせよネイトスが眷属になりたいと言う意思は本物のようだね。


「まずは、こっちに来てくれるかい。君を連れてきてくれた仲間もいる。朝食でも摂りながら今後の話をしようか」


 少し照れ隠しをしながら、食堂に来るように言う。ベッドから立ち上がってもらったけど、昨日の治療で上着を切り裂いたから上半身は裸のままだ。

 獣人だから全身毛皮に覆われているけど、逞しい筋肉と白いお腹の毛が妙にセクシーで目のやり場に困ってしまう。

 確かクローゼットに男物の服があったはずだ。とりあえず上着を取り出してネイトスに着てもらって、食堂に案内する。


「おはよう、ネイトス。背中の傷はもう大丈夫なのか」

「ああ、もう痛くはないな。それに足の怪我も治っているようだ。これもリビティナ様のお陰かな」

「君達は森の魔獣に襲われたと言ったね。おかしいな、魔獣達にはこの道を通る人を襲わないように言ってるんだけどね」

「そんな事ができるのか。どうりで山道に入った途端、魔獣が襲ってこなくなった訳だ」

「そうね。後ろを警戒しながら、ここまで登って来たけど、一度も魔獣の姿を見る事は無かったわ。運が良かっただけだと思っていたけど……」


 あの子達は、ちゃんと言いつけを守ってくれているんだね。偉いよ。


「この森には魔獣の王が居ると聞いた。リビティナ様はその王の知り合いか何かなのか」

「初代の王はボクの息子みたいなものだからね。ほらあそこのソファーに掛けている熊の魔獣の毛皮、あれが初代の王、バァルーの毛皮だよ」


 バァルーが亡くなるときの遺言で亡骸を毛皮にしてある。いつまでもリビティナと一緒に居たいと言う願いからだ。


「こ、これが初代王の……そういえば王の胸には十字の傷があったと聞くが、これがその傷なのか」


 ネイトスはソファーまで行って、バァルーの毛皮を興味深げに見て感嘆の声を上げる。リビティナはテーブルの席に着いて、食事中の二人に話をする。


「さて、ネイトスは眷属としてここに残ってもらうとして、後の二人は森の端まで送り届けるようにしよう。それでいいかな」

「そうしていただけると助かりますわ。もうこの森の魔獣に追われるのは懲り懲りですもの」

「オレの大盾も、鎧もボロボロだ。これ以上は戦えんからな」

「それなら、水牛魔獣の背中に乗っていくといいよ。あの子なら二人を乗せても速く走れるからね」


 一人ぐらいなら、抱えて飛んで行く事もできるけど、二人となるとね~。


「えぇっ! 魔獣の背中に乗って帰るんですか!」

「大丈夫だよ。ちゃんと言う事を聞く大人しい子だからさ」


 その言葉を聞いても不安いっぱいという顔をしているけど、それが一番安全で速いからね。


「じゃあ、準備が出来次第、山を下りようか。ボクが山道の下まで一緒に付いて行くよ。ネイトスはどうする。疲れているのならここで休んでいてもらって構わないよ」

「いや俺も一緒に見送るよ。ここまで共に苦労してきた仲間だしな」


 それならと、四人一緒に山道を降りて行く。麓でリビティナが指笛を吹くと一頭の大きな水牛の魔獣が現れた。長く茶色い毛と、大きな黒い角を振りかざしてリビティナの元に来て頬ずりしてくる。

 ガリア達二人は、その大きさに目を見張り一歩退くけど、そんなに怖がらなくても大丈夫だよ。


「ヴァンパイア様、本当に大丈夫なんですわよね」

「安心してくれ。しっかりとたてがみに掴まって振り落とされないようにしてくれればいいからさ」


 振り落とされると言う言葉に不安を覚えたのか、二人は中々背中に乗ろうとしない。こんなモフモフに包まって気持ちよく走れるのに、何を躊躇しているんだろうね。

 仕方ない。二人と一緒に水牛魔獣の背にまたがって、近くを軽く走って慣れてもらう。


「それじゃ、ネイトス。オレ達はここでお別れだ」

「もう会うことは無いかも知れませんが、眷属としての暮らし頑張ってくださいね」

「ああ、お前達も気を付けて帰れよ」


 さあ、これで本当にお別れだ。手を振って笑顔で見送る。二人は乗るので精一杯のようで手を振る余裕はないみたいだね。恐怖に顔が引きつっているけど精一杯の笑顔で、こちらに振り向いて別れを告げる。


「さあ洞窟へ帰ろうか、ネイトス。これからあの洞窟が君とボクの家になるんだよ」

「そうだな。これから長い付き合いになるだろうけど、よろしく頼むよ、リビティナ様」


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