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第24話 深層の魔獣4

 崖に激突した怪鳥はしばらくフラフラと飛んでいたが、森に墜落したようだ。他の魔獣たちが集まってくるだろう。道が見えた北の方向を指し示して移動してもらう。


 怪鳥スパルナの落下した辺りを気にしつつ、離れた岩陰に隠れて応急処置をする。幸い骨折はしていないが足を捻挫したようだ。だがこれなら、添え木を括り付ければ歩く事はできる。


「ここから真北に行った場所に道のようなものを見つけた。上に登らずに真っ直ぐに進もう」

「あなた、こんな怪我をしてまだ進もうと言うのですか」

「やっとここまで来れたんだ、この先を見ないでどうするんだ!!」


 半日歩けば行けそうな距離だった。運良くこんな奥地までやってくる事ができたんだ。このようなチャンスは滅多にない。見間違いかも知れないが、希望が少しでもあるならそれを確かめに行かないと。


「もし俺が足手まといだと言うなら、俺を置いて村に帰ってくれ。もうお前達二人なら村に帰りつくことはできるだろう。俺は一人でもあの場所を確かめに行く」


 そう言って立ち上がろうとするネイトスに、ガリアが肩を貸しシャトリエが支えてくれた。


「ここから村に戻るのも、お前に付き合ってヴァンパイアに会いに行くのも危険度は同じようなもんだろう」

「そうね。私もそのヴァンパイアの少女に会いたくなりましたわ」


 そんな二人と共に、ネイトスは怪我の痛みをこらえて、道なき道を北へと進んで行く。自分の感覚だけを頼りに、崖から見たあの場所を目指す。


「おい、ネイトス。あれは道じゃないのか」


 ガリアに肩を貸してもらい歩いて来た先に、山の斜面に沿った道が見えた。つづら折りに折れ曲がりながらも上に向かう山道。所々に木の柵が設置されている、人が作った人工の道だ。


「や、やっと見つけたぞ……」


 急ぎその道へ向かおうとした瞬間、


「危ない!!」


 ガリアに押され地面に転がる。押されたのではない! 虎の魔獣が木の陰から襲ってきた。間一髪でガリアが大盾で防ぎ、ネイトスとシャトリエが突き飛ばされたのだ。

 隣ではシャトリエが脇腹を押さえ(うずくま)り、息ができず喘いでいる。頭にかぶっていた帽子も吹き飛び、髪留めしていた長い金髪が解け丸まった背中に広がっている。

 ガリアは盾の先端を地面に突き立てて大盾を構えて、虎の魔獣と向き合う。


「オレの後ろに隠れて体制を立て直せ! シャトリエ、魔法攻撃はできるか!」

「……ッグ。えぇ、大丈夫……」


 息を整えつつシャトリエは杖を構え直す。ネイトスは地面に腹ばいになりながらも周囲の様子を探る。


「今のところ、あの魔獣一匹だ。攻撃を集中させれば勝てるぞ」


 連携するような魔獣の姿はない。この虎魔獣は若い個体なのか、それほど大きくもない。早いうちに倒せればこちらに勝機はある。足を怪我したネイトスはまともに剣で戦う事はできないが、投擲(とうてき)武器はいくつか持ってきている。


「奴は岩魔法を使ってくる。ガリア、大盾で防げるか」

「岩なら何とか防げる。移動する事は難しいか?」

「すまん。魔法を防いで引きつけてくれ。接近したところを一気に片付ける!」


 この足では移動もままならない。シャトリエも苦しそうに脇腹を押さえている。このまま魔獣を正面に置いて、接近戦に持ち込まないと動き回る相手に攻撃を当てられない。


「俺が足元に爆裂弾を投げ込む。シャトリエは飛び上がったところを魔法攻撃で仕留めてくれ」

「分かったわ」


 すかさず虎の魔獣は岩魔法を使って攻撃してきた。ガリアは大盾を斜めに構えて、それを受け流すようにして防ぐ。左右に飛び跳ねながらネイトスの居る後方や側面を狙って来るが、ガリアが上手く対応してくれる。さすが、小隊長格だけのことはあるな。


「奴が突っ込んでくるぞ」


 魔法攻撃が当たらず、焦れた魔獣が爪と牙を武器に突っ込んできた。


「今だ、シャトリエ!!」


 投げた爆裂弾がさく裂し、斜め上に飛び跳ねた魔獣目掛け火の玉が何発も放たれる。目の前一帯が炎に包まれる中、側面から虎の魔獣が突っ込んできた。


 後衛のシャトリエを狙ってきやがった。全身が炎で焼かれ、煙で目も見えない中、気配だけで襲い掛かってくる。


「セェイアッ!」


 ネイトスは片膝を地面に突いたまま、手にした剣を下から斜め上に切り上げる。虎魔獣の胸辺りを捕らえたが、前足が伸びてきてネイトスの背中を切り裂き、吹っ飛ばされて坂を転がり落ちた。


 転がりながらも、坂の上で血を流した魔獣が退散していくのが見えた。何とか二人を守れたようだな。


「おい、ネイトス。大丈夫か!」


 坂を降りてきたガリアとシャトリエに抱き起こされる。シャトリエがネイトスの背後に目をやり思わぬ事を言った。


「ねえ、ここは道じゃなくて? そこに木の柵があるわよ」


 ネイトスが長年探し続けていた、人工の山道がそこにあった。


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