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第21話 深層の魔獣1

「暇なら近場でウサギか鹿でも狩ってくれ。今晩のおかずにでもしよう」


 携帯用の乾し肉や穀物は持って来ているが、狩った獲物の肉を焼いた方が美味いだろう。かまどの準備をしていると、二人はすぐに鹿を仕留めて帰ってきた。



「早かったな」

「この程度なら簡単な事ですわよ。それよりあなたが一人で、魔獣に襲われていないか心配になっていたくらいです」

「そうかい、心配かけてすまんな。早速料理をしよう、と言っても塩と香辛料を振って焼くだけだがな」


 調味料も最低限の物しか持ってきていない。乾燥した野菜と狩って来た鹿肉のスープとステーキがあれば、食事としては充分だろう。


「あんたらの口に合うか分からんが、この森で野営をする際はこんな食事しかできん。まあ、我慢してくれ」


 二人は貴族の関係者だろうからな。日頃はもっと美味いもんを食っているんだろう。


「ネイトスさん。もっと人数を増やして、荷物を多く持ってこれませんの」

「増やしたとしても、あと一人が限界だな。そんなに荷物は持ってこれんよ」

「オレ達がギルドに調査依頼をした時も、護衛は二人だと言われた。もっと多くの護衛を雇うつもりだったんだが、護衛できる冒険者があの村にはいないのか」

「Bランクの奴は他にもいるさ。だが深層へ行くなら四人までが限界だ。五人になると全滅する」

「全滅!!」


 驚くのも無理はないだろう。危険な森であれば人数を増やして挑むのが本来だ。五人以上のパーティーは駄目などと人数制限される森はここだけだろう。


「あの村はこの森に入るためにだけに存在している。村が創設されて三十年、これまでの経験から四人までの少人数で行くのがベストだと判明している」

「なぜ、そんな事に……」

「明日、深層に行けば分かるだろう。あそこは他とは違う、魔獣の王が支配する魔獣だけの森だ」

「魔獣の王だと……。本当にそんな魔獣が居るのか?」


 ガリアが驚き、ネイトスに疑問を投げかけた。魔獣が人の国のように王を据えて、この森に存在するなど普通では考えられない事だからな。


「熊の魔獣が他の魔獣を従えて森を歩いているのが、今までに何度か目撃されている。そのせいかこの森の中型以上の魔獣は連携して攻撃してくる」

「そんな馬鹿な! 中型魔獣は単独で行動するものだろう」

「そうですわね。小型の魔獣なら、群れで攻撃してくる事もあるでしょうけど……」

「普通の森であればな」


 狼程度のものを中型と呼んでいる。普通の狼は群れで狩りをするが、魔法を使う力の強い魔獣の狼は、単独で狩りをすると言うのが一般常識だ。


「違う種類の魔獣同士でも連携してくる。この森では常識が通用しない。だから身を潜められる少人数で行くことになる」


 大人数になれば発見される危険が増える。五人以上だと必ず全滅すると言う訳ではないが、大人数で森に入っても帰ってこれるのは三、四人程度だと言う事だ。

 ネイトスは十五歳で成人してすぐにこの村に来た。滞在して十年になるが、これまでに何人もの仲間を失ってきている。この森の過酷さは身に染みて知っている。


 交代で夜警をして、翌朝、朝食を済ませ早々に深層の森へと入っていく。


「昨日も言ったが、ここからは物音を立てないように注意してくれ。もし魔獣に出くわしても逃げる事を優先する」

「分かった」


 昼間でも暗く、樹木が密集している深層の森。物陰や木の上に魔獣がいない事を確認しながら進んで行く。


「出発して一時間ほどですけど、確かにこの森は様子が違いますわね。静かすぎますわ」


 この深層には魔獣以外の獣はいない。その分、数は少なく鉢合わせになる可能性も小さいが、音は遠くまで響く。今も遠くで魔法が撃たれている音がするが、それは魔獣同士が争っている音だ。


「止まれ……あの奥、鹿の魔獣だ」

「大きいですわね」

「あの程度なら、狩れるんじゃないのか」

「やめておけ。あの鹿を倒しきる前に、他の魔獣に俺達が襲われるだけだ」


 倒そうと戦闘すれば、その音を聞きつけて他の魔獣が集まってくる。一撃で倒す事ができない限り、下手に手を出すとこちらが危なくなる。


 そう思っていると、木の上から鹿の魔獣に対して岩魔法を撃った魔獣がいる。豹の魔獣だ! その岩を避けながら鹿がこちらに向かってきた。


「まずいぞ!! あの鹿に全力で攻撃を仕掛けろ!」


 ネイトスが腰に携えていた剣を素早く抜き、言い放つ。その言葉に戸惑いながらもガリアが大盾を構え、その後ろからシャトリエが風魔法で鹿の肩を切り裂き、ネイトスの振るった剣が足を捕らえた。

 それでも鹿はネイトス達の頭上を飛び越えて、逃げていく。


「こっちだ、急げ!! 身を隠すぞ」

「一体どうしたんだ! 攻撃しろだとか隠れろだとか。言っていることが無茶苦茶だぞ」

「いいからここで、じっと隠れているんだ!」


 向かってきた鹿とすれ違いに、三人が大きな木の陰に滑り込むようにして身を隠す。傷を負い速度の落ちた鹿に向かって氷の矢が降り注ぎ、断末魔と共に鹿が倒れた。

 その鹿に近づいて来たのは、黒くて大きな狼の魔獣、ダイアウルフか。それとさっき、岩の魔法を使ったサーベルパンサーが木の上から降りて来て鹿に近づく。

 三人の目の前で、また魔獣同士の戦闘になるかと思いきや、倒した鹿の肉を二頭の魔獣が分け合い、それぞれが去って行った。


「一体どうなってますの?」

「あの鹿は事前に俺達の事を感づいていたんだ。攻撃を受けて俺達を囮にして逃げようとしやがった」


 魔獣は一番弱い獲物を襲う。鹿と俺達では一番弱いのは俺達だ。居場所がバレれば襲われるのは俺達になる。その前に鹿に手傷を負わせて、肉食の魔獣に倒してもらうしか手はなかった。


「あの魔獣達は連携して、鹿魔獣を仕留めた。だから倒した獲物を半分にして持ち帰ったんだ」

「あれが魔獣の連携か。確かに追いやった先にあの黒いダイアウルフがいたな……。その上獲物を分け合うなどと……」

「それじゃまるで、私達がする狩りと同じじゃないですか!」

「そうだ、俺達は一人の力じゃ魔獣は倒せない。だから複数の者で連携して魔獣を倒す。だがその力の強い魔獣達に連携されては、非力な俺達が太刀打ちすることは不可能だ」


 だからこの森では、短時間で相手を倒せる場合を除けば、身を隠しながら進むほかない。この森で一番弱いのは我々なのだから。


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