第20話 森の探査
明後日から、ガリアとシャトリエと共に森に入る事になったが、その前にちゃんと準備してもらわないといけない。
「それで私達は何をすればいいのかしら」
「野営の準備はこちらでする。非常食は持って行ってもらうとして、あんたらにも魔獣と戦かってもらう事になる。武器と防具は用意しておいてくれ」
「それはもちろん準備しますわ」
「但し、ガチャガチャと音が鳴るような鎧はダメだ。静かに行動できる物だけにしてくれ」
この森の魔獣は、耳がいい。音のする鎧では襲ってくれと言っているようなものだからな。ガリアは自分の装備にケチを付けられたと思ったのか、少しムッとして言葉を返す。
「オレは大盾使いだ。他の森でも使っていたプレートアーマーを持ってきているが、それではダメだと言う事か」
「この森ではな。鎧の所々を外して金属同士が擦れ合わないようにしてくれるか。村の防具屋に行って直すか、新しいものを買ってくれ」
二人はあまり納得していない様子だったが、こちらの指示には従ってくれるようだ。一通りの注意をし終わり、後は各自で準備してもらう事にした。
出発の日。
荷馬車を用意して北門で待っていると、一昨日の二人がやって来た。ガリアは、兵団の小隊長と言うだけあって強固な大盾を持っている。鎧はパーツの間を革鎧で補強した、擦れても音が鳴らないような物を身に着けているな。聞くと、この森仕様に作られた鎧を防具屋から新たに買ったと言っていた。
シャトリエは白い神官服ではあるが、下には鎧を纏っているようだ。金色の長い髪は短くまとめて、額当てを兼ねた帽子で留めている。それに腰には短剣か。魔術も使えて剣も使えるとはエリート様なのかもしれんが、実戦でちゃんと役に立ってくれればいいんだがな。
「森までは十分ほどの距離がある。この荷馬車に乗ってくれ」
村の北門には、森へ向かう乗合馬車が多く停まっている。森へ向かう冒険者が多いこの村では、森入り口まで送り迎えする定期馬車が運行されている。歩いて行ける距離ではあるが、馬車を利用するのが常だ。
今回は野営の為の荷物もあるし、それなりの前金ももらっている。他の連中とは別に四人乗りの荷馬車を雇って、山に一番近い森の入り口へと向かう。
「今日は、あんたらの依頼通り、森の周縁二層地区まで行って野営する」
「周縁二層? それってどれくらいの距離になるんですか」
「日帰りで行ける距離ごとに一層、二層と名を付けている。周縁は二層まで、その先は深層の一層から六層まである。深層の二層が一番近い山の麓になる」
「だから山までは二日間と言う事なのですね」
「但し、基準となるBランク冒険者二名を含む三人以上のパーティーでの話だ。あんたらの実力次第だが、山まで行けるかは保証できん」
「ネイトス、お前はBランクなんだろう。それなら充分山の入り口に到達できるんじゃないのか」
冒険者はEランクからSSランクまでランク分けされている。通常町に居るのはBランクが一番上だ。Aランク以上になると国や領主の兵団に入るのが常だ。
依頼による報酬ではなく給料をもらい、職業軍人として働く者が多い。SやSSランクを俺は見たことが無いが、国の兵団長をするか王や貴族の護衛や特殊任務に就いているらしい。
冒険者ではないこいつらのランクは、実際の戦いを見てみんと分からんな。
この、ガリアは兵団の小隊長をしていると言うならBランクかもしれんが、神官連れでは荷が重いだろう。今回は深層まで行くつもりだが、場合によっては途中で引き返すことも考えておかんとな。
「ここから森に入る。魔獣は少ないができるだけ戦闘は避けて奥へ進むつもりだ」
「ああ、よろしく頼む」
荷物を持ち後ろの二人を引き連れて、山に向かうルートを足早に進んで行く。途中、狼の魔獣に出くわしたが、ガリアが盾と剣で防ぎ、シャトリエが攻撃魔法で援護し止めを刺していた。それなりの連携ができているようだな。
「ここいらで休憩をしよう」
小川の淵で腰を掛け、簡単な食事を用意する。
「ここはどの辺りになるんですか」
「一層の端だな。この小川の向こうが二層地区になる」
「まだ昼にもなっていない。これなら今日中に深層に踏み込むこともできそうだな」
「深層は魔獣だけが住むエリアだ。それなりの準備がなきゃ死ぬ事になるぞ」
これは脅しではない。周縁二層の端までなら、ある程度の実力者なら簡単に進めるだろうが、その先は死ぬ事も覚悟をしてもらわんとならん。
護衛の依頼を受けた限りは、自分も含め全員で村に帰りつきたいもんだぜ。
この二人と周縁の森を歩き、大体の実力は分かってきた。小隊長をしていると言うガリアは俺と同じBランクだろう。神官のシャトリエはCランク下位のLV.1ぐらいか。まあ神官としては良く戦えている。山の調査でこの二人が選ばれたのも頷けるな。
「この辺りが周縁二層の端だ。今晩はここで野営する」
まだ陽は高いが、早めに野営の準備を始めた。
「オレ達は早くマウネル山の調査をしたい。もう少し先に進むことはできんか」
「この先は深層になる。今までの一層、二層と言うのは距離の違いだが、周縁と深層とでは魔獣の種類が違う。野営の危険度は格段に上がる」
ここまでは、どこにでもある森だ。実力のある二人だから早くにここまで来れたが、深層での野営はできる限り避けなきゃならん。どんなに早く到着してもこの地点で野営するのがセオリーだ。
明日からは深層に入る。今日のうちに疲れをしっかりと取っておかんとな。




