ただの有り触れた恋愛失敗談
なんてことのないありふれた日常の中
僕は君に出会った。
まだ春の温かさと冬の寒気が残る日のこと。
なんてことのないいかにも普通の僕と君の話。
皆が期待に胸を膨らませ不安と緊張を抱えて迎えた高校一年生の頃。
君はお世辞にも美人と言えず、目は細くつり上がっていて、まるで狐みたいな人だなと思った。
君の目に僕がどう写ったかは今でも分からない。ただどうにも思ってないことは確か。
僕もそうだったから。
とりあえずで交わした連絡先もしばらくは音沙汰のないまま過ぎた時間。
僕は人を笑顔にすることが大好きだった。少し可笑しなことをして友達と笑いあって。
それが青春以外何にでもなかったんだ。
計算された間抜けなことをしてみんなを笑わせて、まるで道化師のようだった。それだけで充分だと思っていた。
それから日が短くなり花が散り、枯れゆく季節になったころ。
僕の友達らは皆、彼氏彼女を持つようになった。僕はそれを羨ましいながらも僕にもそれがいつかできると、ただ何となく考えていた。しかしそれと同時に彼女が出来たことがない僕に、果たしてそんな大層なことが出来るのだろうかという疑念も生まれていた。
この疑念が確信に変わり始めていた高校三年生の中頃、僕はひとつの出会いをした。
ある日席替えをした日のことだった。僕の席の後ろに一人の女の子がいた。
彼女はとても明るく、いつも元気でたくさんの人に囲まれた、太陽みたいな人だった。噂でも彼女のことを悪くいう人はいなかった。それほどの人格者である。
しかし僕は日陰者であった。人を笑わせることが好きだが決して明るい性格である訳では無い。そのため彼女にいわばビビっていた。
それを察してかいつも彼女の方から僕に話しかけてくれた。大したことの無い、くだらない馬鹿みたいな話をしては笑いあっていた。僕はそれが心地よかった。
彼女の隣の席にはとある人がいた。目が細くつり上がっている子だ。
どういう訳か私は彼女と同じクラスだった記憶はあるが話した回数は数少ない。しかし何十人もいればそういう人くらい、1人や2人いるだろう。僕は後ろの席の女の子きっかけで彼女とも話すようになった。
彼女は思ったよりもお喋りな性格であった。よく趣味についての話を交換し合ったり、くだらない話を何度もした。
その日々を重ねていくうちに私は彼女を好きになっていたのかもしれない。
しれない、なのは今でも確かめようがないからだ。
時間というものは残酷で何をしていようと過ぎていく。例え私がもっと彼女との時間を過ごしたいと思っていても。
やがてクリスマスも過ぎ、新しい年が来て、そしてやがて迎える新しい生活に皆が躍起になっているころ。
僕と彼女はと言うと相変わらず近くの席にいた。席替えもしているにも関わらず彼女は近くの席にいた。僕は奇跡か何かだと思った。
だが、それは奇跡じゃなかった。
その頃になると私はあの、太陽みたいな子なしでも彼女と話せるようになっていた。その時間のために今があると思うくらい、ただ楽しかった。
ここまでくると私は何となくこれが恋心だということに気がついていた。
しかし当時の僕にはどうすることも出来なかった。もし彼女と付き合えたら幸せで毎日が楽しくなるだろうと思った。しかしそれ以上にもしそうしたせいでこの関係が崩れてしまったらどうしようという不安もあったのだ。微温湯というものは大変危険だ。
心地がいいがゆえにいつまでも居座ってしまう。冷めていくことに気づかずに。
とうとうやって来てしまった卒業式、僕はと言うと何も出来ずにいた。
彼女は相変わらずであった。細い目だ。
お互いの卒業アルバムにメッセージを残しながら、もう高校生活終わるんだね、速いね、とくだらない会話をしていた。
メッセージも書き終え、よし。となった時、彼女に言われた。
胸の花をくれないか。
それは卒業生が式の時に制服の胸ポケットに付ける造花である。
私は一瞬鼓動が跳ねた。
それはどういう意味なのか、と。
もしかすると制服の第二ボタンを貰うような、そんな感覚なのではないか。もしかすると彼女は僕に好意があるのでは無いか。そう疑念を抱いた。
しかし僕がその答えに逡巡している時、僕を呼ぶ声がした。
友達が写真を撮ろうと言っていた。
僕はその動揺を彼女に悟られまい、と私は彼女に、友達が呼んでるから行ってくる。とその場を後にした。
怖かった。僕が何をするか僕も分からなかった。ただ、あの場を離れることが得策だと思った。
今でも君の顔が思い浮かぶ。
冷めた目をしていた。細くてつり上がった目だ。
しかし、いいのだ。僕は知っていた。僕に春は来ないことを。
それからしばらくして、目まぐるしい大学生活1年目を終えてやってきた春休み。
私は高校時代の友達と温泉に遊びに来ていた。
友達とくる温泉はいいな、また来たいと感傷に浸っていた時、友人は口を開いた。
そういえば、、、
私はそこで初めて知った。
彼女が知り合ってまもない頃、僕が彼女と少しづつ話すようになった頃。
彼女は僕の友達にある相談をしていたのだ。
それは、私のことが好きでどうしたらいい、とのことだった。
私はそれを聞いた時大変驚き、どうしてそのことを俺に伝えなかったんだと言った。
しかし、友人曰く彼女からそのことは秘密にしておいて欲しい、とのことだったらしい。
私は脱力した。
ひとりでに、そうだったのか、と呟いた。
私は間違えてしまったのだ。
思えば彼女からの好意を思わせる行動はいくつもあった。卒業の時だってそうだった。しかし私はほんの少しの勇気を出すことを恐れ、楽な方に逃げてしまった。その結果この様だ。
なんともやるせない。
しかしもう遅いのだ。聞けば彼女には新しく出来た彼氏がいるらしい。
私はそれを聞きひとつの惨めな恋の終わりを迎えた。
ただ、ただ彼女には報われて欲しい。私は相手に好意を伝えることの恐ろしさを知っておきながら彼女のを無下にしてしまった。
それからまた1年、高校を卒業してから3年近く経った今日この日でも私は彼女のことを忘れることが出来ない。訪れることの無い彼女との日々を妄想しては虚しくなるだけの惨めな毎日だ。
今では彼女がどんな顔をしていたかは覚えていない。ただ、つり上がった、細い目をした美しい人だったことは今も覚えている。




