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影法師の恋  作者: 碧
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悪化




 ユーディットが所在不明になって、五日。そして、テオフィルが後を追うように姿を消した。誘拐犯からの聖女の居場所を教えるメッセージは無く、店をくまなく捜索したが身代金は発見されなかった。ヘニング以下捕らえられた共犯から事情聴取を行い、申告した場所に行けばそこはもぬけの殻で、主犯が移動していることを証明していた。

「フィルは恐らく巻き込まれたな」

 フォルトゥナートは薄々感じていたことを口に出せばクヴェンが疲憊した顔で頷く。

「影ちゃんも誘拐されたって、はぁ、本当立つ瀬無いよね」

 もしも、の話だがそれが真実味を帯びているのをノルドも理解しているのか浮かべた笑みにも力は無い。

「居場所を伝えるというのも虚言だろうな」

「時間を稼がれちゃっただけですね」

 クヴェンの苛立ちの混じった声にノルドは明るい声を返す。この状況にそぐわないそれに一瞬クヴェンは気を取られるが、ノルドが忌ま忌ましさを押し殺しているのを推察する。ノルドの扼腕した腕を掴む掌が、僅かに震えていた。

「極秘裏に処理をするのは難しいかと。軍を動かして、警邏隊の力も借りるのはどうでしょうか」

「上が承知しないだろう」

 エルラフリートの提案に大事にするわけにはいかない、とクヴェンは頭を振る。その様子にエルラフリートは渋面し口を開く。

「俺が説得しましょうか?」

 討議を得手としているエルラフリートの申し出に三人三様の表情を浮かべる。

「大袈裟にすれば奴らを刺激することになる。向こうに、聖女が居ることを忘れるな」

「フィルもだ」

 付け加えるようにフォルトゥナートが言えばノルドは片眉を上げる。自分の持つ常識から懸隔しているとでも言いたげな表情を浮かべるノルドをフォルトゥナートは黙殺した。

「店に俺達が行った時には証拠はなにもなかった。俺達よりも先に店に通り過ぎたフィルが何かを目撃して尾行した可能性はある」

 無鉄砲なところあるもんな、とノルドは納得したように頷く。

「あのじゃじゃ馬に似ているだけはあるな」

 やりかねない、とクヴェンはフォルトゥナートの意見を受け入れる。恐らく、そうなのだろうという確信に似た推測がある。

「ヴェンデルとルーヘン、市でも有名なごろつきだそうですけど、所在不明ですね」

 警備隊が探しているが把握出来ずにいるのは人手が足りていないのが一番の理由である、とエルラフリートは思っている。だからこその先程の発言だったのだが、同意は得られなかった。

「数を増やす、か」

 人を探すのならば動員出来る人数が物を言うのが常識である。援兵が望めない以上、何処かで都合を付けなければいけない。先程、自分の意見を却下したではないかとエルラフリートは疑義の眼差しをクヴェンに向ける。どういうことだ、とフォルトゥナートが眼居でクヴェンに先を促す。

「居るじゃねぇか。その二人に恨みを持っていて駒になりそうな連中が。恨み買ってる奴は敵が多いからな」

 クヴェンの指し示すことを察知した三人は目を丸くする。

「咎人に手伝わせるって言うんですか? 待って下さい、それは倫理的にどうかと思います」

 最初に反応を返したのは、正当な手段でこそ正当な結果が得られると考えているエルラフリートであった。高潔な精神を証明するかのように罪人の手を借りることに難色を示した。

「手段を選んでいる状況じゃないだろ」

 外法だろうが仕方が無い、とクヴェンは告げるがエルラフリートは厳しい顔を崩さない。そんな二人を見詰めながらノルドは複雑そうな顔をする。

「何か気がかりなことでもあるか?」

 フォルトゥナートの言葉にノルドは薄く笑う。

「いや、殺すつもりの連中に手伝われるのも少し癪だと思っただけだよ」

 クヴェンの言った通り手段を選んでいられる状況ではないのをノルドは理解していた。犯罪者の手を借りることが屈辱だなんてエルラフリートのような高潔さを併せ持っているわけではない。ただ、純粋に蟻視している存在の助けを赤恥だと感じるだけだ。

「恩赦をぶら下げれば言葉通り馬車馬の如く働くだろうよ」

「逃走した場合はどうするのですか?」

 クヴェンの言葉にエルラフリートは沸いた疑問をぶつける。拘束を緩めれば目先の逃避を図る者も居るだろう。

「個を識別する為に掌紋は既に確保している。戻らなければ、その場で見付け次第斬り伏せるだけだ」

 零れ落ちた命を誤差とでも言いたげなクヴェンにエルラフリートは抗言しようとするが、自分が受け入れ難いだけで、それが筋の通った話なのは事実だった為言葉を飲み込んだ。

「――反対意見はあるか?」

 三人を見渡してクヴェンはそう尋ねる。最終決定権はクヴェンにあるが、独断専行する程愚かではない。ノルドが異を唱えないのはクヴェンにとっては想定内であった。元より、任務遂行に関して手法を選ばない男だったのだから、個人的な好悪で引き下がるわけはない。他人に危害を加えることに抵抗感を持っているであろうエルラフリートとユーディットの在り方を踏襲している節のあるフォルトゥナートにクヴェンは視線を向ければ沈黙の肯定が返ってくる。譲れない核となる部分ではなく、妥協出来る程度の話であったことに安慮してクヴェンは息衝いた。

「ならば、決まりだ。駒を増やす。潜伏先を見付ける。強襲し奪還する。多少の犠牲には目を瞑ってもらう」

 誰に、と口に出さなかったクヴェンが指し示したのはユーディットのことだとフォルトゥナートは受け入れる。本来のクヴェンならば悪辣な方法を選んでも不思議ではないのに、随分と常道に委ねているものだと微かな違和感がフォルトゥナートの中で生じる。正しさが強さを主張すると信じたいユーディットの意思を尊重するような振る舞いは自分よりも余程騎士ではないかと皮肉げに口の端を上げた。



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