92.理解し合う。
「え?」
フェルシエは思わぬ解答に立ち尽くす。
ここまで来てわかりました帰りますなんてできるわけがない、今現在もエルフの里は邪竜の脅威に晒されているのだ。
何度も扉を叩く。
「どうかお願いします!どうか……どうか……」
フェルシエは悲痛に似た声を上げ続けていた。
◇ ◇ ◇ ◇
アキラはうんざりしていた、そもそもアキラの意志を無視してジョブスキルの力を利用しようとするのが嫌だった、それはカリードと同じではないか。
ーホウ!ー
フクはアキラを叱る様に頭を突っついていた。
「何だよフク?」
そしてフクは扉の前を飛び回る。
「……助けろって言うのか?」
ーホウホウ!ー
「フクは忘れたのかルクレリアや子供達の事を?、人は皆自分の利になる事しか考えてないんだよ、その為ならどんな非道な事でも平気でやるのさ、俺はもううんざりしたんだ」
ーホウ……
フクはしょんぼりとしていた。
次第に扉を叩く音が止む。
だが入り口にはまだ気配があった、その内諦めて帰るだろうと思い再び眠りにつく。
どれくらい寝ただろうか、ここ最近何もやる気が出なくひたすら眠る日が続いていた。
ふと入り口を見るとまだ気配がある事に気づく、起き上がり扉を開ける。
「いいかげんにしろ!とっとと……」
女性は倒れていた、魔物に殺されたかと思い脈を測るが生きている、どうやら気を失っているだけの様だ。
「はぁ……俺もつくづく甘いよな」
アキラはため息を吐きながら女性を担ぎ家の中へ戻る、このまま放置していたら本当に魔物に殺されてしまうだろう、それを見殺しにしたら流石に寝覚めが悪い。
ーホウ!ー
やっぱり助けるのかと思ったフクは、しょんぼりした姿から一変し嬉しくて飛び回る。
「起きたら帰ってもらうからな」
そんなフクを見ながらコーヒーを淹れ、飲みながら本を読み女性が目を覚ますのを待った。
暫くして女性が飛び起きた。
「……お願いします!……あれ?ここは?」
「起きたか、飯食ったら帰れよ」
アキラは2人分のステーキ、サラダ、パン、水をテーブルに置いた。
アキラは先に食べ始める、少ししてベッドから起き上がり女性も席に着き料理を食べ始めた。
そして暫しの無言の時間が続く。
「私の名前はフェルシエと言います」
「…………」
アキラは黙々と食べ続ける、そんな事はお構いないしにフェルシエは遠く離れたリュームの大森林から、長い月日を掛けて旅をしてここに辿り着いた事を話した。
旅の内容には懐かしい人達や場所が出てくる、そしてフェルシエがどんな思いで来たのかを事細かに話していた。
「……ゔぅ、ぐすっ」
フェルシエは泣いていた、それを見たアキラは居た堪れない気持ちになってしまう。
「はぁ……俺にどうしろっての?」
人はそう簡単に変われない様だ、認めたくはないが話を聞いて何とかしてあげたいという気持ちが心に湧いてきていた。
「……助けていただけるのですか?」
「……これで本当に最後する、助けるよ」
「何か事情がおありなのですか?」
「……まあな」
アキラはポツポツとこれまでにあった事を話し始める、不思議と心が楽になった様な気がした、フェルシエは只黙ってそれを聞いていた。
「……そんな事が」
フェルシエは自分が恥ずかしくなっていた、アキラの気も知らずただ自分の事しか考えてなかった事に。
「すみませんでした、アキラさんの気も知らず」
フェルシエは頭を下げ謝る。
「いや、俺の方こそ悪かった、それより明日には向かうぞ、今日はゆっくり休め」
「はい!ありがとうございます!」
ーホウ!ー
「可愛いフクロウですね」
フクはフェルシエの肩に留まる、撫でられて気持ちよさそうだ。
「フクって名前だ、フクも明日連れて行くからしっかり休んでおけよ」
ーホウ!ー
「そういえばフェルシエさん、瘴気に大分当てられていますね」
「はい、少し気分が悪くて……」
「ライム」
魔法陣が現れライムが現れる。
「え!?スライム?」
「【抽出】で瘴気を吸い出してやってくれ」
プルプル震えたあとライムはフェルシエの膝の上に乗っかる。
そしてスキル【抽出】を発動させた。
「すごい、どんどん気分が楽になっていく……」
「これが俺の力、ジョブスキル【大帝】です」
「ジョブスキルをお持ちだったんですね!」
「ええ、他にも魔物の仲間がいます、いざ戦うとき混乱させない様予め教えておこうと思って」
「ルージュ、デスト、シルヴィア、ムゲン、ロイズ」
5体の従者達が続々と現れる。
フェルシエは驚きの余りポカンと口を開けフリーズしていた。
「フェルシエさん?」
「あ、す、すみません!!凄すぎて固まってしまいました!」
「ははは、その邪竜と戦う時は従者達も一緒に戦うので攻撃しない様、他のエルフの皆さんにも注意させてください」
「わかりました」
従者達を異空の城へ戻す。
「今日は明日に備えて早めに寝ましょう、ベッド使って下さい」
「ありがとうございます」
そして翌日の朝。
「それじゃあ行きましょうか」
「あれ?アキラさん荷物とか無いのですか?」
「あぁ、家ごと持って行くので」
「?」
アキラは家をアイテムボックスに入れた。
フェルシエは再びポカンと口を開けて固まっていた。
そしてバイクを出す。
「出発しますよ?」
「す、すみません!」
(アイテムボックスと魔導モーターって確かアーティファクトだった様な)
アキラの規格外にフェルシエは混乱していた。
「後ろに乗ってください」
フクを懐に入れバイクに跨る、フェルシエもそれに続く。
「俺のお腹に腕を回してしっかり掴まっててください」
「し、失礼します」
フェルシエは頬を少し赤くしながらアキラに掴まる。
豊かな胸の感触が背中に伝わり、アキラも恥ずかしくなるが邪念を振り払った。
「それじゃあ全速力でリュームの大森林に向かいますよ」
「お願いします!」
バイクを起動しアクセルを踏む、バイクは徐々にスピードが上がり時速120キロで走り始めた。
「キャアア!!」
余りのスピードにフェルシエから悲鳴が上がる、だが次第にスピードに慣れ風を楽しむ余裕すら出てきた。
「これなら、4日くらいで着けそうです!」
フェルシエの心を埋め尽くしていた不安はいつの間にか消えていた。




