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86.なぜ?

「皆もう寝る時間よ!」


はーいと言いながらパジャマを着た子供達は各々部屋へと入っていく。

ルクレリアは家計簿をつけていた、貯金も増えてきている、もう少しすれば孤児院の修理もできる事に笑みが溢れる。



ホットミルクを飲み終え、ルクレリアも寝室へ行く。

明日の朝アキラがリンドブルムから帰って来る、美味しい朝ご飯を用意して喜ばせようとルクレリアは張り切る、そんな事を考えている内にいつのまにか眠りについた。



◇ ◇ ◇ ◇



「よし、行くぞ」


「はい、カリード様」


ルクレリアと子供達が就寝した頃、カリードとリンドブルムの領主の四男は、ネマナ村へと忍び込んでいた。

家々の灯りは既に消え、村人達は就寝したようだ。

忍び足で孤児院へと2人は向かう。



「カリード様一体どうなさるつもりですか?」


「まぁ、見ておれ」


孤児院へ着くと、カリードは松明に火をつける。

そしてその松明をポイっと孤児院の敷地に投げ入れた。



「カリード様!?」


「これで良い、逃げるぞ」


カリードの作戦はこうだ。

ボヤ騒ぎを起こしてしまった孤児院の建物は損壊する、そして建て直しをする金が無いアキラ達に、その金を建て替えると名乗り出て恩を売るつもりだった。

恩を感じたアキラは自分に惚れ従者になる、何とも稚拙な作戦だった。


火は徐々に建物に移り広がって行く……


ーホウ!ー


「何だこの鳥!?」


それを見ていたフクはカリード達に襲い掛かかった、嘴や脚を使い攻撃する。

カリード達はフクを追い払う、急な襲撃に大きな声が出てしまったので誰かに見られたか周囲を見渡し確認する。

誰にも見られてない事を確認すると、そそくさとその場を去った。


だが1つカリードはミスを犯した、フクに突かれセレブハットに着いていたレインボーの羽が、その場に落ちてしまった事に気づかなかったのだ。



◇ ◇ ◇ ◇



ルクレリアは焦げ臭さを感じ起きる、そして目を見開く。



「火事!?」


部屋中に煙が広がっており、慌てて一階に降りた。

一階は既に火が燃え広がっていた、建物自体が古く火の回りがかなり速い。

ルクレリア火元を考えるが思い浮かばない、寝る前に火の後始末はした、それに子供達には火を使う仕事はさせない事にしているし、火遊びは絶対するなと口酸っぱく言い聞かせている。


ルクレリアは慌てて外に出る。



「……ハァハァ、子供達がいない!?」


孤児院の周囲を見渡すが、誰一人逃げ出せてなかった。



「……ゴホゴホ、ルク姉」


「……怖いよ、ルク姉」


「煙が……」


「うぅ……」


その頃子供達は煙を大量に吸ってしまい、一酸化炭素中毒になって倒れてしまっていた。

皆恐怖で涙が止まらない、迫りくる死を感じていた。



「クロイル、エリサ、ロッシュ、ナコ、今行くから!」


ルクレリアは子供達を助ける為に、燃え盛る火に包まれた孤児院に再び飛び込んだ。



◇ ◇ ◇ ◇



アキラはフクを懐に入れバイクに乗り、猛スピードでネマナ村へと戻る。



(……何だこの異様な胸騒ぎは)


思い過ごしであって欲しい、神に祈りながらルクレリアと子供達の安否を願う。

ポツポツと雨が降り始める、暫くすると雨は大粒になり豪雨となった。

まるでアキラを阻む様だ、天は孤児院に行くなとでも言っているのだろうか。


豪雨も気にせずアキラはアクセルを全開にし更にスピードを上げた……



ネマナ村へ着く、村の人達が騒がしく右往左往している。



「どいてくれ!!」


アキラは焦りで足をもつれさせながらも孤児院へと走る。



「……アキラ」


カラムはアキラに気づき振り返る。

雨のおかげで孤児院は鎮火していた、だが見るも無惨に建物は焼けて倒壊していた。



「カラム村長!!ルクレリアと子供達は!?」


カラムの顔は俯き、首を横に振った。

倒壊した孤児院の前に、布を被った5つの煤けた死体が横たわっていた。


アキラはその場で崩れ落ちる。



「……ヴァァァァァァ!!」


涙と鼻水を垂れ流し、嗚咽する。



ーなんで?なんで?なんで?なんで?なんで?ー



どうしてこうなったのかいくら考えても答えは見つからない。

深い悲しみがアキラの心を埋め尽くす、まるで心臓を握られている様だ、過呼吸になり吐瀉物を吐いてしまう。

村人の1人がアキラに駆け寄るが、カラムはそれを止めた。



「……皆、今は1人にさせてあげよう」


カラムは涙を流しながら言う。

1番辛いのはアキラなのだ、下手な慰めは余計にアキラを傷つけてしまう。

村人達を静かにその場を後にした。



ー大切な物は死んでも守りきれー




ジェイドの言葉が頭に蘇る、何故俺だけ生きているんだ、何故皆を助けてやらなかった、後悔しても遅い、時は戻せないのだから。


雨が止む頃、アキラの涙も止まる。

深い悲しみの後に来たのは際限なき虚無感だった、何も考えたくないアキラはその場で虚空を見つめていた。



ーホウー



アキラの懐から出ていたフクは服の袖を嘴で引っ張る。



「……フク」


フクに連れられてその場所に向かう、そしてそれを見つけてしまった。



「……これは」


レインボーの羽を拾う、それに見覚えがあった。



「……まさか」


カリードを見送った時にはセレブハットに羽は付いていた、それからカリードとは会っていない、なのにこの羽が今ここにあるのはおかしい。


沸々とアキラの虚だった心に憎しみが湧き上がる。

証拠としては不十分だ、だが疑わしいだけでアキラには充分だった。



「……殺す」


そして暗い狂気の目をしたアキラは、王都へと向かった。





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