76.船
娯楽都市ゴールデンサーラーを後にしたアキラは、南西へと向かい港町シーカルに来ていた。
「まさか味噌があるとはなぁ」
ゴールデンサーラーにある競馬場近くの露店で買ったファーストフードになんと味噌が使われていたのだ、アキラはすかさず露店の店主にどこで手に入れたのか聞いた、店主は商業都市ユルフォンに売っていると教えてくれた。
「楽しみだなぁ味噌、醤油なんかも売っていたらラッキーなんだが」
海が一望できる高台で休憩しながら涎を垂らす、料理の事を考えていたらますます日本食が恋しくなってきた。
「お、そろそろ時間だな」
帆船が港に到着する姿が見え、アキラは駆け足で向かう。
露店で買った焼き菓子を食べながらユルフォン行きの列に並ぶ、アキラの前に並ぶ母親と手を繋いだ男の子がじーっとアキラを見つめていた。
「……食うか?」
「いいの!?」
「はい、残りあげるよ」
「ありがとう」
「申し訳ありません、ウチの息子が」
「気にしないでください、丁度腹いっぱいになってきた所ですし」
「ふふふ、そうですか、ところでどこへ向かわれるのですか?」
「ユルフォンに行きます」
「ユルフォンに行ったなら是非特性ハチミツパウンドケーキを食べてみてください、すごい美味しいですよ」
「へー、そうなんですか!それは楽しみだ!」
そんな話をして盛り上がりながらも船は出航した。
甲板へ行き風に当たる、カモメの鳴き声、潮の香り、雲一つない空、暫しの船旅を満喫していた。
思えば前世では船など乗った事が無かった、仕事に追われ続ける日々だったが異世界に来てから世界を旅してこんな船にも乗れて、割と毎日が充実している事に感慨深くなる。
「兄ちゃんあんま寄りかかると船から落っこちるぞ」
「すみません、気をつけます」
「海に落っこちたらほぼ助からないからな」
充実している実感を感じている側から、海に落っこちて死んだらただの喜劇だ、開放的な気分になりすぎない様気を引き締めないと。
「進路に障害物は?」
「前方障害物ありません」
「風向きはどうなっている?」
「風向きは追い風です」
「よし、このまま行くぞ」
船長のニコラスはベテランの航海士だ、今日も変わりない日常を送れる事を海の神に感謝する。
だが、今日この日だけは海の神は微笑まなかった様だ……
ーーガガガガガガーー
「な、何だ!」
「わかりません!」
唐突な異音に皆混乱する。
そして船が急激に揺れ出した。
「皆!何かに掴まれ!」
「一体何が起こってるんだ」
「船長!船の下に何かいます!」
「何だと!?」
◇ ◇ ◇ ◇
ーーキャァァァ
ーーな、何だ!?
その頃甲板でも阿鼻叫喚の嵐だった。
船が揺れ出し、皆それぞれ海に落ちない様ロープや柱に掴まる。
「……収まった?」
アキラは周りを警戒する、こんな巨大な船がちょっとやそっとじゃ揺れる筈がない、それに今日は風が強い日でもない。
「うわぁぁぁぁ!!」
「どうした!?」
声がした方向に向かう、そしてそれを視界に捉えるとアキラは思わず固まってしまった。
「……クラーケン」
巨大なイカが船を威嚇していた、その異様さに船客は逃げ惑う。
このままでは船は沈められてしまう、そう思ったアキラはクラーケンに向かってアイシクルランスを放つ。
クラーケンは痛みに悶えている、ダメージがある事がわかりアキラは引き続き追撃を始める。
(……魔法を覚えておいて正解だったな)
現状従者の中で遠距離攻撃を持っているのは、酸を放てるライム、スキル【投げナイフ】を使えるルージュしか居ない。
だがこの距離では些か火力不足だ、これは今後の課題になるだろう。
しばらくするとクラーケンは踵を返して慌てて撤退して行く。
その時触手が船に当たり、船は大きく揺れ始めた。
「いやぁ!息子が!」
「お母さん!!」
その揺れのせいで焼き菓子をあげた男の子が、海に投げ出されそうになっていた。
男の子は手すりに捕まるが、握力の限界が来て逆さに落ちていく。
アキラは全速力で走りそのまま海へ飛び込む、そして落ちゆく男の子の服の襟を掴み船上に向かって投げた。
男の子の代わりに海へと逆さに落ちる、ポチャンと水が跳ねる音が最後に聞こえた。
クラーケンが暴れているせいか波が荒い、アキラは海水に流されてしまう。
ーーガポガガポーー
口や鼻から海水が雪崩れ込んでくる、余りの苦しさからアキラは気絶してしまう。
そして暗く冷たい海に攫われたアキラは海を漂い続けた。
◇ ◇ ◇ ◇
ーーザパァーンーー
ルクレリアは浜辺に来ていた。
「今日もたくさん採らないと」
海には錬金術や回復薬に使える素材がたくさんある、それらを売って生計を立てていた。
孤児院の院長ラルドお爺さんが亡くなってから、4人の子供達をルクレリア1人で面倒をみていた。
ルクレリアもこの孤児院で育った、教会を改築した孤児院も今はボロボロになり建て替えるお金もない、それでもルクレリアは子供達と一緒に今を幸せに生きていた。
「あら?何かしら?」
ルクレリアは何かが打ち上がっている事に気づいた。
恐る恐るそれに近づき何かを確かめる。
「大変!!」
ぐったりした男がずぶ濡れで気絶していた。
ルクレリアは男を安全な場所に移動する為に岸に引っ張る、そして村の人達を呼びに行った。




