72.救世主を探して
「このお方を知りませんか?」
「んー、知らないねぇ」
「……そうですか」
フェルシエはヒューマンの男の特徴を捉えた似顔絵を描き、酒場、宿屋、道ゆく人々に尋ねながらそれを見せて、街や村を転々と旅していた。
中には知ってる素振りを見せて、見目麗しいフェルシエを犯そうとした男もいたが、それらはフェルシエの火魔法で股間を焼かれ去勢された。
フェルシエは正に"エルフと竜種は怒らせるな"と言う諺を体現した様なエルフだ。
だが何の情報も得られずただ月日だけが流れていく、フェルシエの心は折れかけていた。
「アルベルム、ここまで来ちゃったか……」
リュームの大森林から遠く離れた都市まで来たことに感慨深くなる。
着いた頃には既に夜で、フェルシエはひとまず今日泊まる宿を決めてから酒場に向かう事にした。
「すみません、1日泊まりたいのですが」
「おや、えらい別嬪さんが来たねぇ!」
宿屋の女将が笑顔で出迎える。
女将は泊まる部屋を案内しながらフェルシエに尋ねる。
「アキラがここに泊まってから、冒険者に成り立ての若い奴らが願掛けに泊まる事が多いんだけど、お嬢さんもその口かい?」
「……違いますけど?」
「そうなのかい?まぁゆっくりしていきな」
女将は別料金だけど飯も出すよと言いながら去って行く。
「アキラ……」
フェルシエはアキラと言う人に妙な引っ掛かりを覚えた。
部屋で少しゆっくりした後酒場に向かう。
中へ入りカウンターに座る、少しして店主が注文を取りに来た。
「ご注文は?」
「野菜とキノコのパスタ、あとブドウジュースをください」
「はいよ、ちょいとお待ち」
「あの、すみません!」
「ん?どうしたい?」
「アキラと言う人をご存知ですか?」
「あぁ、この街にいる連中なら皆知ってるよ」
「その人の事聞かせて貰えませんか?」
「なら、あそこにいる鉄の翼竜って言う冒険者に聞いた方が早いよ」
店主は楽しそうに談笑している人達がいるテーブルを指差す。
「飯はそのテーブルに持って行こうか?」
「……お願いします」
フェルシエは鉄の翼竜のテーブルへと歩き出す。
「あの!すみません!」
フェルシエの声に談笑していた鉄の翼竜の注目が集まる。
「ロベルト知り合い?」
「俺は知らない、リベイアじゃねぇか?」
「私もご存知ないです」
「僕も知らないです」
「お嬢さんは誰じゃい?」
「私はフェルシエと言います、アキラと言う人の話を聞かせて貰えませんか?」
「おお!アキラの話か!なんだお嬢ちゃん、新参者か?」
「……そんなところです」
「ロベルトは得意だもんねアキラの話」
「あったりめぇよ!あんなすげー戦い見たら忘れられるかよ!」
「確かにそれはそうじゃの」
「アキラさんのおかげで僕は死なずに済みました!」
「今頃は何してるのでしょうか」
どうやらアキラと言う人は大分慕われている様だ。
そしてダンジョンで起こった出来事をフェルシエに皆話し始めた。
「すごいですねアキラさんと言う人は」
「おう!本当にすげー奴だったよ!」
「ちなみにこの方をご存知ですか?」
フェルシエは似顔絵を取り出し見せる。
「……アキラじゃねぇか!」
「本当ですか!!」
フェルシエは席を立ち前のめりになる。
「お、おう……似顔絵そっくりだしな」
「今どこにいるかご存知ですか!?」
「確か学園都市ラクーリアに行ったって話は聞いたよ」
「魔法を覚えると言ってたわい」
「……ありがとうございます!!」
フェルシエはテーブルに運ばれて来た、パスタとブドウジュースを即行で食べ慌てて酒場を後にした。
「何だったんだ?」
「アキラさんを探している様でしたけど」
鉄の翼竜は皆揃って首を傾げた。
「やっと手掛かりを掴んだ」
フェルシエの重かった足取りは嘘の様に軽くなった。
長い旅を続けようやく手掛かりを見つけたのだ、小躍りするのも不思議ではない。
そして宿で一泊した後朝一番で学園都市ラクーリアへ向かった。




