40.祈りと不穏な影
「道を開けてくれ!娘が居るんだ!」
リノアの父、ウルヴェン子爵は声を荒げる、後ろから妻リーリア、息子でリノアの兄ライオネルが、ウルヴェン子爵を追いかける。
「あなた!待って!」
「父上!落ち着いてください!」
「落ち着いていられるかぁ!!」
人混みを掻き分け体育館が見える場所に陣取る、柵の遠く向こうではリノアがアンデットと戦闘している姿が見えた。
「リノア!!ちくしょぉぉ……」
結界をガンガン叩くがびくともしなかった、ただ黙って見ている事しかできない自分が許せない。
「父上、不審者捜索の懸賞金を先程上乗せしました、これ以上私達にできる事はもうありません……」
学園都市ラクーリアの領主フェルメール伯爵は、騒動の報告を受け私軍をアルフィリオ女学園を囲む様に配置、また冒険者ギルドに不審者捜索の緊急依頼をする、そこにウルヴェン子爵が褒賞金を上乗せし、都市中の冒険者達が血眼になって不審者を捜索している状況だ。
「あなた、リノアは強い子よ……きっと無事に戻って来るわ……」
リーリアは絶望で膝を崩したウルヴェンに寄り添う。
ルルの父、宮廷魔術師団に所属するレントンは、結界に魔法を放ち続けている、だが結界にはヒビすら入らない。
「あなたこれ以上は……」
そんなレントンを妻エミールは心配し声をかける。
いつも冷静沈着なレントンがこんなに取り乱す事はほとんど無い、流石に溺愛する一人娘が危険に晒されているとなれば、レントンは正気では居られなかった。
「……やれる事は全てやりたいんだ」
振り返りエミールにそう呟くと、再び魔法を放ち始めた。
「……なら私も最後までご一緒します」
レントンの横に並びエミールは詠唱を始める。
レントンは並ぶエミールを見た後に少し微笑んだ。
アイリスの父、ラフトリカ海洋貿易商会の会長ヴィンセントはお抱えのAランク冒険者をラクーリアへ呼び寄せる。
「最新鋭の船を使っても構わん!1分でも早く来させるんだ!」
命令を受けた部下達は慌てて宿を後にした。
「……お前達はよく呑気にお茶を楽しめるな」
妻のマーガレットは、娘でアイリスの姉セルフィとお茶を飲みながら楽しそうにお喋りしている、その姿を見てヴィンセントは呆れていた。
「ふふ、あなたは心配しすぎよ」
「そうよお父様、アイリスは強運の持ち主ですもの」
「そうね、その内帰って来るわ」
「……はぁ、君達を見てると何だか慌てふためく私が馬鹿らしく思えるよ」
我が家の女性陣は肝が据わりすぎてると思いながら、ヴィンセントは煙草を咥え火を付けた。
イヴの母オルティナは娘でイヴの妹のエルと一緒に、夫で宮廷魔術師団の団長ジールが王都から来るのを学園周辺で待っていた。
「……お姉ぇちゃん大丈夫だよね?」
まだ8歳のエルは大好きな姉が心配で堪らなかった。
「大丈夫よもうすぐジールがくるわ、何たって宮廷魔術師団の団長よ、悪い奴なんかすぐやっつけるわ!」
「……そうだよね、お父様すごいもんね!!」
オルティナはエルを元気付ける、母の言葉でエルに笑顔が戻った。
(ミネルヴァお婆様も学園内にいるだろうし、きっと大丈夫よ……)
それでも心配せずにはいられなかった、不安をエルに伝染させない様空元気を出し続けた。
◇ ◇ ◇ ◇
「ふぇふぇふぇ、まさかそこにいるとわねぇ」
そう言いながら、ミネルヴァは雷魔法ドラゴンライトニングを放つ。
「あれー?よくわかったねここが」
妖しい仮面をした少年が、ドラゴンライトニングを何でもなかった様に回避した。
ミネルヴァが今居る場所は、学園の遥か上空だった、風魔法を応用し空を飛んでいる。
黒幕を地上で探しても見つからないわけだ、誰も空に居るとは思わない。
有無を言わずミネルヴァは、再度連続でドラゴンライトニングを放つが少年の余裕は崩れない。
「今いい所だったのに!僕と同じ人が活躍してるのもっと見たかったなぁ」
「坊や、ちと悪戯がすぎるねぇ、流石にワシも黙っておれないわい」
「えー?今からバトルの?」
「キツいお灸を据えなきゃわからんのかのぉ、骨が折れるわい」
「しょうがないなぁ、魔法縛りで遊んであげるよお婆ちゃん」
ミネルヴァは雷魔法サンダーボールを放つ、それに対して少年は水魔法ウォーターシールドで防御し電流をシールドに吸収させる。
こうしてミネルヴァ対少年の魔法合戦が始まった。




