201.戦後
シルヴィアはライムを抱え、ミスラウェル聖皇国の野戦病院を練り歩く。
戦争は終わったのにも関わらず、完全回復したから一矢報いてやろうと考える馬鹿がいるかもしれない、シルヴィアが練り歩く事によりそれは一種の警告にもなる。
そしてその後ろには神の使徒の一人、リルーシェが付き添う。
「ありがとうございます」
一緒にいるが一切会話が無い窮屈さに耐えかねて、リルーシェが徐に切り出した。
「……何がですか?」
後ろを振り向かず、シルヴィアはまるで自動音声の様に言葉を返す。
「多くの兵を救ってくだって」
「そういう取り決めですので、お礼ならマスターに言ってください、私はマスターが決めた事に従っているだけです」
「そうですか」
その会話を最後にまた無言の時間が始まる。
(……私嫌われてるの!?)
リルーシェが焦り出す、話がまったく膨らまない、何を話そうか考えていた時に、レオンがいるテントに来た。
レオンは上半身を起こし粥を食べている。
血を流しすぎたのか、まだ立つとふらつくそうだ。
そんなレオンがシルヴィア達の存在に気づく。
「どうしたんだい?」
「ただの見回りですよ」
レオンと戦ったシルヴィアに気を遣い、リルーシェは代わりに返事をした。
お互い思う所もあるのだろうか、レオンはシルヴィアを一瞥したが話は振らなかった。
「そうか、君が抵抗もせず共に行動している光景を見ると、つくづく負けたんだなって思うよ」
レオンは思わずため息を吐く。
それは自分の情けなさか、それともミスラウェル聖皇国の未来を不安に思ったのか、それはレオンにしかわからない。
「……ただ、それは決して悪い事では無いと思います」
「教皇の事だろ?」
「はい」
「まぁ、あのままだったらどのみちお先真っ暗だったか」
「……何故誰も咎めなかったのですか?」
ここでシルヴィアが会話に割り込む。
自然と湧き上がる疑問を自然と吐露していた。
「「…………」」
二人は何も答えられずにいる、それは何もしなかった羞恥心なのか、それとも罪悪感なのか、混沌とした感情を二人は例えられなかった。
「一つだけ言っておくよ、国というものは大きくなればなるほどしがらみも大きくなるんだよ」
そう言うとレオンはシルヴィアを見つめた。
その言葉は自分に言い聞かせる様にも聞こえた。
「そうなんですか」
「アキラ王にも言った方がいい、ミスラウェル聖皇国と同じ轍を踏まない様にね」
レオンは哀しさを漂わせた。
レオンとの会話も終わり、次はアーヴァインのテントに行く。
岩下から見つかった時のアーヴァインは絶望的だった。
全身複雑骨折、右腕と左足の欠損、そして脊椎を損傷した事による半身不随。
生きている事が奇跡だった、助かってもこの先死んだ方がマシだった人生を歩む事になっていたが、不幸中の幸いかライムが全て解決した。
「やあ、君達か」
「お邪魔しますね」
「リルーシェどうしたん、……ライム様!!」
アーヴァインはシルヴィアに抱えられているライムを見ると、ベッドから即座に起き上がりその場にひれ伏した。
「ライム様!!あぁ愛しのライム様!!よくぞ会いに来てくださいました!!」
アーヴァインはまるで神でも見た様に目をキラキラさせる。
いや、アーヴァインから見たライムは実際に神も同義だった。
彼岸を彷徨っていたアーヴァインが目を覚まし、最初に見たのは聖なるスライム。
おまけに自分の体は戦いなど無かったかの様に回復し、ライムの第一声「しんぱいしなくていいよ」がアーヴァインのハートに追い討ちをかける、盲信するには充分な出来事だった。
「このおじさん、こわいー」
無情にもライムはプルプルと体を震わせると、シルヴィアの腕の中から抜け出し背中に引っ付く様に隠れた。
「あぁ!!ライム様がお隠れに!!」
そんな姿も愛おしいのか、アーヴァインは満面の笑みだ。
「彼は……後遺症で頭がおかしくなったのですか?」
「えぇと……たぶん大丈夫です」
シルヴィアから急に話を振られた驚きと、アーヴァインの行いに目を丸くし、しどろもどろにリルーシェはそう答えた。
「そうですか……お気の毒に」
「あはは……」
リルーシェの乾いた笑い声が、テント内にこだました。
◇ ◇ ◇ ◇
アキラがアクティースへ戻った翌日、早速戦後処理の会談が開かれた。
アクティース城の謁見の間には宰相ロヴオン、ゼルヴィン、そしてその部下達が控える。
「先ずは賠償金をどうするか決めましょう」
アクティースの宰相に相応しく、ロヴオンがこの場を取り仕切る。
「アクティース側としては催促はしません、先ずはミスラウェル聖皇国の立て直しを優先してください」
ミスラウェル聖皇国は多額の賠償金を払う事になるが文句などない、属国になれと言われないだけマシだった。
「わかりました」
宰相ロヴオンは、そう言いながらヴィクセンと目を合わせた。
続けて話を切り出す。
「聖遺物とアーティファクトの件は、ご期待に沿こちらを用意しました」
宰相ロヴオンはゼルヴィンに目配せする。
合図を受けたゼルヴィンは、一礼すると机の上に一冊の本と掌サイズの鐘を置いた。
「太陽の聖典、真実の鐘、其々お持ちしました」
其々に皆の注目が集まる。
「先ずは太陽の聖典を」
古臭い表紙、そこには古代文字で何か書かれている。
一見普通の本だが、この本を読んだものは神聖魔法を扱える様になる。
効果は一回きりであり、その恩恵は計り知れない。
神聖魔法は才能を開花させるとか、努力で身につくなどでは習得できない魔法だ。
生まれた時からすでに習得しているか、聖遺物を使って習得するしか方法は無い。
無論、聖遺物などゴロゴロあるわけではなく、神聖魔法を習得できる本など、世界を探してもこの一冊しか無いだろう。
「感謝する」
アキラは太陽の聖典を手に取る。
誰が神聖魔法を習得するか皆で話し合ったが、結局アキラが習得する事になった。
有名になったアキラの命を、誰かしらが狙って来るかもしれない。
アキラの戦力強化は必須だという意見が出た事により、アキラ自身もそれに納得した。
「次に真実の鐘を」
真実の鐘はヴィクセンが受け取る。
真実の鐘は、言わば嘘発見器の様なものだ。
アクティースの人口は更に増えるだろう、その弊害により起こる犯罪を裁く為に使われる。
真実の鐘を鳴らさずに嘘をつく方法は無い、魔法やスキルで隠蔽しても関係なく嘘を見抜く代物だ。
「次にミスラウェル聖皇国に置く我が国の領事館の責任者を紹介します、クライス、こちらへ」
「はっ!」
ヴィクセンに呼ばれクライスが前に出る。
クライスは、アクティースに最初に送られて来た奴隷達の一人だ。
盲目だったがライムのおかげで完全に治り、今ではアルグレームの右腕として働いている。
「この者が今後アクティースとミスラウェル聖皇国の繋ぎ役として滞在します」
「以後お見知り置きを、後ほど私と共に来る数名の部下達を紹介します」
クライスはそう言うと一礼した。
重要な案件は決まり、その後は細かい取り決めを話し合っていった。
こうして戦後処理はつつがなく終わっていく。




