195.魔と闇
目を閉じ何かの詠唱を始めるヴィクセン。
アーヴァインはすぐさま肉迫し、詠唱を止めにかかる。
「させると思うか」
阿修羅型のオーラが一閃、アーヴァインの行手を阻み地面に斬撃の亀裂を残した。
「……殺す」
ムゲンを無力化しないと詠唱を止められないと即座に判断し、アーヴァインは蓮撃を始める。
だがムゲンは一級の武士、力と力は拮抗していた。
ーガキン、キン、ピキンー
お互いが相手の先手を読むの繰り返し、暫く続くとヴィクセンはゆっくり瞼を開ける。
「闇の精霊よ、我らに力を貸したまえ」
その言葉と共にヴィクセンの両目から血の涙が滴る。
地面を濡らす血溜まりから、黒い人間のモヤが現れた。
そしてそのモヤはムゲンの中に溶け込む様に入り込んだ。
「……これは」
阿修羅のオーラが禍々しさを増す。
【天衣無縫鬼閻魔】
湧き出ていたオーラを凝縮し纏う、ムゲンの姿が一変し白髪の般若面、神秘的な赤紫色の甲冑、そして二本の刀の刀身には梵字の経が刻まれていた。
「……何と心地よい」
ムゲンは開放感と万能感を同時に感じ取る、闇の精霊が憑依した事によりとてつもない力を手に入れた。
「……じがん、が、あり゛ません、は……やぐ」
だがそんな強力な力にも代償がある、今も尚ヴィクセンの両目から血の涙が流れ続ける。
その代償はヴィクセンの血液だ。
あまり時間をかけると、このままではヴィクセンは失血死するだろう。
闇の精霊は唯我独尊であり特定の者を慕う事は無い、他の精霊とは違い等価交換で力を貸し与える。
それでも精霊の中でも群を抜いて強大な力を持つ為、決してヴィクセンの行動は愚かでは無い。
「わかった、ヴィクセン殿すぐに終わらせる」
「終わるのはおまえだ」
隙だらけのムゲンに、アーヴァインは問答無用で剣を斬りつける。
ー怨めしい、ああ、怨み晴らさんー
「!!」
その瞬間アーヴァインの目前に、黒い壁の様な物が立ち塞がった。
その壁には無数の顔が浮かんでおり、怨念地味た言葉を発し続ける。
ムゲンは生前の事を覚えていない、だがその顔にどこか懐かしさを覚える。
それ等は織田信長を逃す戦、"金ヶ崎の戦い"で共に戦った百姓や同藩の武士達の顔であった。
それらは転移した先の化け物達に殺され、誉を踏み躙られた事の哀しみや憎しみを撒き散らす。
「聖戰」
アーヴァインの一閃で壁に亀裂が走る、防御力を無視するその一閃は壁を無力化し斬撃波がムゲンに襲いかかる。
「……何だと!?」
だが、すぐさままた壁が現れる。
その事にアーヴァインは驚愕した。
怨壁はムゲンの意識関係なく出現し、そして守護する盾となる。
「……断ち切る」
ムゲンは技の構えに入る。
【壱ノ型 〜月華燈旒一閃〜】
突如アーヴァインの懐に現れたムゲン、スピードが速すぎてそう錯覚する程だ。
アーヴァインの必死のガードも虚しく、そのまま胴体を下段から上段へと斬りつけ上空へかち上げる。
【貮ノ型 〜兒条大時化〜】
上空へと昇るアーヴァインを飛び越え背後に周り、背中に流れる様な連斬撃を浴びせる。
一撃一撃が重すぎて、アーヴァインは海老反りの格好になり吐血する。
【聖騎士】の力で死なずにいるが、普通だったら初手で即死していたであろう。
【参ノ型 〜裏抜刀真宵〜】
空気を蹴り落ちゆくアーヴァインよりも早く地上へ戻る、そして落下地点を読み、刀を鞘に戻し抜刀。
逆手で持った刀がアーヴァインの横腹へと斬り込む、アーヴァインはそのまま真横に吹き飛んだ。
そして空気を切り裂く様な静寂の後、木々がドミノ倒しの様に倒れた。
抜刀山断ちを遥かに超えた技を受け、アーヴァインは白目をむく。
【肆ノ型 〜鬼武蔵鉄斬裂〜】
吹き飛ぶアーヴァインに向け二つの黒く巨大な斬撃波が襲いかかった。
斬撃波は十字型にくっきりとアーヴァインの胴体に深い切り込みを入れる。
アーヴァインの白銀の鎧はそこで粉々に砕け散った。
巨大な岩にぶつかる事でアーヴァインは停止する、体はめり込み磔状態だ。
【最終奥義 〜雷切義経〜】
雷の速さでアーヴァインの元へ肉迫し、そして神速のニ閃。
一瞬突風が走っただけで刀を振ったのかどうかも謎だ、たとえこの場にムゲンと同等の技量を持つロイズがいてもわからなかったであろう。
岩は膾の様に切れずれ落ち、そこでアーヴァインの六枚の羽は消える。
そしてそのまま崩れる岩の下敷きになった。
「……終わったか」
ムゲンは刀を鞘に戻す。
「急いでヴィクセン殿の元へ戻らなければ……」
そしてアーヴァインの死を確認する事なく、すぐさまその場を後にした。
◇ ◇ ◇ ◇
「ヴィクセン殿!!無事か!?」
ヴィクセンの元へ戻ると、そこにはフェルシエがいた。
今にも泣きそうな顔でムゲンを迎える。
「敵は倒した!!」
「わ……がりました」
ヴィクセンは力を抜く。
そしてそのままドサっと前のめりに倒れた。
それと同時にムゲンの体から闇の精霊が抜け、元の姿に戻る。
「お父様!!」
フェルシエは倒れたヴィクセンを抱え安否を確認した。
「血を流しすぎてる様だな、ライムの片割れは持っているか?」
ムゲンはヴィクセンの脈を確認し、生きている事に安堵した。
「はい!!」
すぐさまフェルシエは懐からミニライムを取り出す。
「ぼくがいるからあんしんだよー!」
ライムは【回復魔法/パーフェクトヒール】を発動、その後真っ白だったヴィクセンの顔に薄らと血色が戻り始めた。
外傷や病気は直ぐに治せるが血を作るとなると、本人の自己回復を早く促すくらいしかできない。
「このまま少し休ませよう」
ムゲンの言葉にフェルシエは頷く。
戦いが嘘だった様に、再度森には静けさが戻っていた。




