194.強敵
「下がっていなさい、フェルシエ」
ヴィクセンの言葉にフェルシエは頷くと、後方に下がり男から距離を取った。
男はそれを追うわけでもなく只々佇む。
いや、目を離せないと言う方が正しいだろう。
「ほう、なかなか腕が立ちそうだな」
ムゲンは強者を目の前にして闘争心を彷彿させる。
「やれやれ、何故アンデットがエルフと仲良くやっているんだ、さっぱり俺にはわからない」
そう言うと男はがっくりと肩を落としていた。
「御館様だな」
「アキラ様のお陰ですかね、まさか私もアンデットの友人ができるとは思いませんでしたませんよ」
ヴィクセンはクスクスと笑う。
世界中どこを探しても、アンデットと友好を深めたエルフなどいないだろうと。
「まぁいいや、んで、戦わなきゃダメ?」
「そのまま帰すと思うか?」
「だよね……ハア、面倒だ」
「我はムゲン、戦の前にまずは名を名乗れ」
「名を名乗らせる辺り生粋の武人って感じだね、俺はアーヴァイン、神の使徒の一人さ、そっちは?」
「……ヴィクセン」
娘を害そうとした輩に名乗りたくは無いが、冥土の土産にヴィクセンは応える事にした。
「さて、では始めるとするか」
ムゲンは左右の刀を抜き構える。
それに合わせ、ムゲンの後方にヴィクセンは一歩下がった。
「……参る」
ムゲンは腰を落とすと、まるで豹が獲物に飛びつく様なスピードで、アーヴァインの元へ飛び出した。
「はっや!!」
流麗なニ閃の斬撃がアーヴァインの頭を掠める。
屈んで回避はしたが、数ミリ髪の毛が切れハラハラと舞い落ちた。
「吹き荒れる風刃乱舞」
間髪入れずにヴィクセンの精霊魔法がアーヴァインに襲いかかる。
「ちょ!!ずるいっしょ!!」
愚痴を零しながらも、剣で風刃を全て受けきる。
その技量は誰がどう見ても一流の動きだった。
「斬壊」
問答無用でムゲンの袈裟斬りが追撃する。
ーガキンー
「ほう、良い武器だな」
普通の剣なら刀身ごと真っ二つだが、アーヴァインの剣はムゲンの刀を受け止めていた。
「そりゃどうも!!」
アーヴァインは剣を横に逸らすと、斬撃を後方に受け流しそのカウンターの容量で横凪に剣を振るった。
「焔流し」
カウンターからのカウンター、ムゲンはそれに合わせ回転する様に体を捻るとアーヴァインの胴体に向け一閃した。
「強すぎるだろ!!」
無理な体勢ながらも片足で大きく地面を踏み、転がる様に緊急離脱するアーヴァイン。
「飲み込む水礫の激流」
飛来する数多の水礫をすかさず感知し、アーヴァインは剣を地面に突き刺しその勢いで、上空へ逃げるとそのまま着地した。
「こりゃ参ったな」
流石に息を切らしながら二人を一瞥する。
「使うしかないか、【大天使の福音type-ミカエル】」
光がアーヴァインを包みこむ。
これにはムゲンとヴィクセンも警戒し、迂闊に攻撃できずにいた。
そして光は収まりそこに現れたのは先程とは打って変わって、覇気のあるアーヴァインの姿だった。
「聖なる騎士の名にかけて、敵を滅する」
神々しいまでの白銀の鎧に身を包む美丈夫がそこにいた。
正に神話に出て来る様な英雄の姿を彷彿させる。
【大天使の福音type-ミカエル】、それは闘争心の強制解放と同時に古代の聖騎士の力を発揮できる能力だ。
アーヴァインのジョブは【聖騎士】であり、ミスラウェル聖皇国随一の傑物だ。
アーヴァインの家系は騎士家系であり、初代の家長は聖騎士のジョブを有していた。
アーヴァインは先祖返りであり、皆からの期待を一心に背負っている。
だが、とうの本人は自堕落な性格であり努力が嫌いだ。
類稀なる才能を持ちながら放浪する事でその事実から逃げている、それでもその戦闘センスは他を寄せ付けなかった。
「……雰囲気が変わった?」
ヴィクセンがそう思ったのも束の間、アーヴァインの姿が消える。
「なっ!」
アーヴァインはヴィクセンの瞬きに合わせ一瞬で、左方に移動しすでに剣を振るっていた。
「させぬぞ」
ムゲンはそれを見逃さずすぐさま追いつくと、剣を刀で受け止める。
ーガキャンー
「とてつもない力だ」
力を込めた斬撃を片手間の如く弾き返し、蹴りを入れられムゲンは吹き飛んだ。
「炎麗波」
「聖饌」
唸る火炎を一閃、爆散する光が炎を飲み込む様にかき消した。
「相反する聖なる瞬き」
「天衣無縫」
突如空間を割いて現れる13の斬撃、反応しきれずにいたヴィクセンを漆黒の阿修羅が全てを防いだ。
それを危険視したアーヴァインの標的が、ムゲンに切り替わる。
「……聖天解放」
アーヴァインの背中から六枚の羽が生える、ムゲンの漆黒のオーラとは裏腹に神聖なるオーラが立ち昇る。
「少々厳しいな」
魔の天敵は聖だ、劣勢な状況にムゲンは苦言を呈した。
「……あれを使います」
そう言うとヴィクセンは瞼を閉じた。




