2.前途多難、だけど俺泣かん
「うぉぉぉぉお!!」
アキラは全力疾走している。
角が生えたゴリラの様なものに追われていた。
転移した場所は、アマゾンかと思うほどの生い茂った木々に囲まれた樹海だった。
途方に暮れながら彷徨っていると、鹿を食べていた角ゴリラと遭遇、角ゴリラと目が合いアキラはにっこりと笑った後その場を退散しようとするが、現実は非常だった。
(もう体力の限界だ……)
全力疾走などそう長くも続かない、息も絶え絶えで体が鉛の様に重くなっていく感覚になる。
しばらくすると急な下り坂の地形を目の前にするが、止まる余力も無く足がもつれ、アキラは転がり落ちて行く。
「痛ぇ……」
アキラは身を起こす、どうやら転がり落ち切ったみたいだ。
体を強く打ち所々に痣ができているが、骨折などの重い怪我はしていなかった。
不幸中の幸いか、角ゴリラも追ってくる気配はなく撒いたみたいだ。
(とりあえず休憩しないと)
体中の痛みを我慢しながらも安全な場所を探す為に移動する。
心に不安が積もる。
水も食料も無く、転生早々死にまっしぐらだった。
少し歩くと小川を見つけた。
アキラは無我夢中で水を飲む、喉がカラカラで飲めるかどうかなど最早どうでもよかった。
小川のすぐ側には洞穴があり、中を慎重に伺うが生き物の気配は無かった。
アキラはしばらくはこの場所を拠点にする事にした。
何か使える物はないかと体中のポケットを探る。
所持品はジッポライター、ライターオイル、タバコ、食べかけのチョコレートだけだった。
「詰んだかも」
涙目になりながら乾いた笑みになる、心情がぐちゃぐちゃになっていた。
心を落ち着かせる為にタバコを吸うが全く効果は無い。
チョコレートを少し齧った後、現実逃避するかの様に疲れからかアキラは眠りに落ちた。
(何だこの匂い……)
どれくらい眠っていただろうか、異臭に鼻をくすぐられ意識を覚ましていく。
目を開けると足の上に何か乗っていた。
驚いたアキラの意識は完全に覚醒し、よく見るとそれはスライムだった。
「俺食われてるぅぅぅ」
異臭の匂いは履いているジーパンが溶けている匂いだった。
アキラは急いで体を起こすと、スライムを振り払う。
(昨日の角ゴリラならまだしも、スライムだったら勝てるんじゃね?)
RPGでもスライムは雑魚扱いと思ったアキラはファイティングポーズを構える。
こうして異世界転生初のバトルが幕を開いた。