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第47話 この情報はきちんと上書きしてもらわないとね

 第47話を更新しました。


 三浦部長から電話がかかってくるかもしれない。。


 そしたら私はどんな反応をするか自分でもわからない。


 そんな不安から私はスマホの電源を切った。


 恥ずかしさが先立って三浦部長と顔を合わせられそうにない。それでも会社を休む訳にもいかず、というかとても休める状況ではなく重い足取りで出社した。


 *


 あれこれと悩みつつ第二事業部に入ってみると三浦部長の姿はなかった。


 ふう、とりあえず一安心。


 私は自分のデスクの椅子に座りほっと息をつく。気が緩んだためかお腹がきゅるると鳴った。


 あ、やばっ。


 コンビニで朝ご飯買うの忘れた。


 一度意識すると空腹がどんどん主張してくる。私はひとまずジュースで糖分補給しようと腰を上げた。


 ほぼ同じタイミングで聞き慣れた声が駆け足と共に第二事業部に飛び込んで来る。


「たっちゃん聞いて聞いて!」


 優子さんだ。


 彼女は三浦部長がいないのを認めると私のほうへと方向転換した。


「まーちゃん、聞いて聞いて」

 この人は朝っぱらから元気だなぁ。


 内心呆れていると優子さんが言った。


「あの長谷部とかいう人辞めちゃった」

「はぁ?」


 長谷部って三浦部長の後任になるかもしれない人だよね?


 辞めちゃったってどういうこと?


 私は目をぱちぱちさせてから尋ねた。


「あのーさっぱり話が見えないんですけど。長谷部さんって大阪支社から引っ張ってくるとかいう人ですよね」

「うん」


 優子さんがうなずいた。


「大丈夫、まーちゃん話見えてるよ」

「……」


 いやそういう問題ではなく。


 どうしたもんかなぁ、この人。


「それで? どうしてその長谷部さんが辞めたんですか」

「えっとね」

 優子さんはスーツのポケットからスマホを取り出した。

 ピッピッと指で操作してから画面を私に向ける。


「たぶんこれが原因だと思う」


 それは動画でダークスーツを着た体格のいい男が制服姿の少女とラブホテルに入る様子を映していた。少女の見た目は高校生より中学生にも思える。あくまでも見た目だけど。


「わぁ」

「ね? これ、やばいよね?」


 大問題である。


 軽い目眩を覚えつつ、私は優子さんに確認した。


「この男の人が長谷部さんですか?」

「そだよ」

「……」


 何とまあ脇の甘い。


 じゃなくて。


 こんなことをするような人が三浦部長の後任になったかもしれないなんて、想像しただけで頭が痛くなる。


 辞めてくれて良かった。


「で、どうしてこんな物が流れて来たんです?」

「詳しくはわからないけど昨夜のうちにこっちと大阪支社に動画が送られていたそうよ。いくつかのSNSにも何種類か流出しているみたい」

「……」


 ワオ。


 何種類ってことは長谷部さんこういうこと他にもしていたのかな?


 そういえば女性問題でどうたらとか聞いたような……。


 うん。


 クズ確定だね。


 自業自得自業自得。



「この動画のせいで早朝から上層部が大騒ぎよ。緊急の取締役会議が行われてすぐに長谷部の異動が無くなっちゃったわ。同時に彼への辞職勧告が……」

「そしたら三浦部長の処分もなくなりますよね?」


 途中で話を遮って私は前のめりになった。


 朝の電話のことなんてどこかに吹っ飛んでいる。


 私に気圧されてか優子さんが一瞬怯んだ。一歩だけ後ずさりした彼女はやや頬を引きつらせて答える。


「え、えーと。処分うんぬんはまだわからないけど当面はたっちゃんの異動はないと思うよ」

「ヨツビシの件はどうにかなりましたよ。だから私と三浦部長の処分はなしにならないとおかしいです」

「それを私に言われてもねぇ」

「優子さん、人事課長なんですから何とかしてくださいよ」

「ええっ」


 優子さんが批難めいた声を発する。


 うん。


 自分でも無茶なことを言ってると思う。


 けど、他ならぬ三浦部長のことだし。


 無茶も言いたくなるよね。


「私だけ無罪放免になるなんて御免ですよ。私は三浦部長と一緒がいいんです」

「まーちゃん……」


 私はぎゅっと拳を握った。


 優子さんの私を見つめる目が優しくなった。彼女はゆっくりとうなずくと私の拳を包むように自分の両手を重ねた。


「そうだね、まーちゃんはやることをやったんだもんね。ヨツビシの要求は撤回されたんでしょ? 役員会でもそのことが話題に出たって聞いてるよ」

「……」


 ま、まあやることをやったかと問われるとちょい違うんだけどね。


 私、実質中森さんに丸投げしてる訳だし。


 で、でもヨツビシのことは何とかなったんだからいいよね?


 カドベニ的に問題解決だよね?


 優子さんが声を弾ませる。


「そうだ、中森さんにもお礼を言わないと。彼女の協力がなければこんなに早く事態は動かなかったでしょうし」

「そ、そうですね」


 私は苦笑混じりに応える。


 協力……ね。


 すんごい気まずいなぁ。


 でも、優子さん事情を知ってて言ってるんだよね。


 だって、話し合いの場に優子さんいたし。


 わざとかな?


 それとも天然かな?


 私がそんなことを考えていると優子さんに質問された。


「新村くんのことちゃんと中森さんに話したの?」

「はい?」


 な、何の話かな。


 私が返答せずにいると優子さんがニヤニヤし始める。


「プロポーズされて一度は断ったけど気持ちはまだあるのよね? 中森さんに相談してみるのも一つの手だと思うの。ほら、彼女はいろいろ詳しいでしょうし」

「……」


 あ、あれ?


 ひょっとして優子さん中森さんと新村くんのこと知らない?


 わぁ。


 何てこと!


 優子さん、こういう方面はポンコツだったんだ。


「ん? そんな憐れむような顔してどうしたの?」


 優子さんが不思議そうに首をコテンと傾ける。エキゾチックな顔立ちの彼女がこんな仕草をするとどこか異国のお姫様と勘違いしてしまいそうだ。


「……」


 でもあれだなぁ。


 優子さん、確か恋愛のお悩みに強いんじゃなかったのかなぁ。キューピットがどうとか言ってたし。


 あーでも私が三浦部長のこと好きだってこと未だにわかってないんだよね。


 それどころか私が新村くんのこと好きだって誤解したままだし。散々否定したのになぁ。


「……っ!」


 私ははたと思い出した。


 そうか、優子さんは思い込みが激しい上におせっかいなんだ。


 しかもなかなか上書きできないタイプ。


「うーん、これは厄介だなぁ」

「えっ、何の話?」

「いえ、こっちの話です」

「?」


 頭の上に疑問符をいくつか並べて優子さんはぽかんとしている。まあ本人的には訳わからないんだろうから仕方ないよね。


 それにしてもそっかぁ。

 ブレーキの壊れたダンプカーは伊達じゃないかぁ。


 呆れると共になぜか妙におかしくなった。


 笑いがこみ上げてくる。


「ま、まーちゃん?」

「優子さん、しっかり聞いてくださいね」


 ひとしきり笑い終えた私は彼女に向き直った。


「私、三浦部長が好きなんです」


 この情報はきちんと上書きしてもらわないとね。

 

 

 


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