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第43話 本当に二人ってただの同期?

 第43話を更新しました。


 優子さんが第二事業部に現れたのはそろそろ終業時刻という時間だった。


「わぁ、すごーく疲れた」


 優子さんはまっすぐ三浦部長のデスクへと向かう。カチャカチャとキーを叩いている部長が彼女をスルーしていると何の躊躇いもなく後ろから抱きついた。


「たっちゃん、癒して」

「こら、くっついてくるな」

「ええっ」

「それに疲れているなら自分の部署に帰れ。ここは休憩所じゃないぞ」

「ひどっ、たっちゃんもうちょっと私に優しくしてくれたっていいんじゃない?」

「僕の彼女みたいなこと言うな。誤解されたらどうするんだ」

「誰が誤解するのよぉ」


 その様子は他の人が見たら微笑ましいカップルに見えたかもしれない。けれど私にはそう見えなかった。


 というかやっぱり優子さんって三浦部長のこと……?


 あと部長も結構満更でもないのでは?


 ふとそんな考えが浮かんで私は頭を振った。


 ノートPCの画面に映るデータに集中しようとするものの一度芽生えた疑念がそれを阻む。くるくるくるくると数字やら文字やら三浦部長の顔やらが頭の中で回り始めて私は早々に作業を続けるのを諦めた。


 優子さんはまだ三浦部長に抱きついたままだ。


 部内には営業事務の子たちとか外回りから帰ってきた人とかもいるのに少しも恥ずかしそうにしていない。実に堂々としたものだ。周囲も平常運転。


 もっともこの二人のこんな姿はいつものことなのでまわりも慣れっこになっているという事情もあるのだが。


 しかし。


「よしよし、たっちゃんに私の疲れが流れていってるよ。これでたっちゃんもお疲れ仲間♪」

「なっ」


 私は驚いて声を発してしまった。


 いやそれ駄目でしょ。


 部長を疲れさせてどうするんですか。


 せめて部長から精気を吸い取るとかにしてくださいよ。


 あ、いやそれも駄目か。


 難儀だなぁ。


「優子」


 三浦部長が手を止めた。


「そろそろ離れないか? 重いし邪魔なんだが」

「ひどっ、私重くないよ。それに邪魔してないし」


 優子さんが目を閉じて部長の肩に顎を乗せる。


「こうしていると私は疲れが取れるしたっちゃんは天使でキュートな優子ちゃんのスピリチュアル効果で余計に疲れを……じゃなくて、やる気が上がって仕事効率もアップするんだよ」

「とか言って単に僕とくっつきたいだけなんだろ」

「うん」

「仕方のない奴だなぁ」


 三浦部長のため息が長い。


 わぁ、何これ。羨まし……じゃなくて。


 本当に二人ってただの同期?


「うーん、たっちゃんの背中あったかい。いいなぁ、これどこで売ってるの?」

「僕の背中は売り物じゃないぞ」

「ええっ、勿体ない。買い手はいくらでもいると思うのに」

「あのなぁ」


 うんざりしたように三浦部長がため息をつく。


 それでも無理矢理優子さんをどかそうとしないあたりは二人の付き合いの長さを示しているのかもしれない。


 ううっ、やっぱり羨ましい。


 私が二人を見ていると優子さんがゆっくりと手を伸ばして部長の片手に触れた。深く呼吸をすると彼女は静かにささやく。


「たっちゃん……いなくなっちゃ駄目だよ」

「……」


 三浦部長だけでなく私も息を呑んだ。


 私はお昼に優子さんから送られたメッセージのことを思い出した。それと同時に不安が胸の奥から渦巻いてくる。


 北沢副社長は三浦部長の後任を選ぼうとしている。


 それが意味するものは。


「たっちゃんのいない会社なんて豆腐のない麻婆豆腐みたいなもんだよ。でなければチャーシューのないチャーシューメン。あとは味噌とダシと具のない味噌汁とか?」

「最後のはもうただのお湯だろ」


 優子さんが部長の肩から顎を離した。自然、彼女の手も部長の手から離れる。


 密着度が弱まったことで僅かな安堵を抱いた私は自分のノートPCをぱたんと閉じた。自分でも半ば無意識な動きで部長のデスクへと近寄る。もやもやしたものが心にこびりついていた。できるだけ表情に出さぬよう努める。


「私、部長を辞めさせたりなんかしませんよ」

「……まーちゃん」

「まだどうしたらいいかわかりませんけど絶対にヨツビシの件は何とかしてみせますから」

「……」


 優子さんはしばらく私を見つめ、やがてゆっくりとうなずいた。その表情が一気に明るくなる。


 おおっ、まるで花が咲いたみたい。


 エキゾチックな雰囲気の優子さんだから南国の花とか似合うかもしれない。


「そうだね、諦めたら駄目だよね。いくらたっちゃんの後任が選ばれたとしても、逆転の可能性はゼロじゃないよね」


 優子さんの言葉に三浦部長が眉を寄せた。


「ん? ちょっと待て。それだと何かすでに僕の首は決まってないか?」

「あ」


 優子さんがはっとして自分の手で口を塞ぐ。


「私、何も言ってません」といったふうに明後日の方向に首を曲げてるけどそれもう遅いよね?


 三浦部長が優子さんを睨んだ。凍てつくような視線はそれを向けられていない私でも怖い。


 ついでに声も冷たかった。


「どういうことだ? 説明しろ」

「あ、えーとね。その、つまり……」


 優子さんの目がいつぞやの中森さんみたいに泳ぎまくっている。こっちもものすごい遠泳だ。


「あれか? 三日の夕よなんてただの口約束だったってことか? どっちにしろ僕と大野の処分は確定してるってことか?」

「……」


 私はぐっと拳を握った。


 頭の中でにいっと笑う北沢副社長の顔が浮かぶ。愛嬌のある笑顔はどこか人を惹きつけるがその目は一切笑っていなかった。


 北沢副社長は知略と策謀で今の地位まで上り詰めた人物だ。しかも汚いことだって平気でやる。


 油断してはいけない。


 優子さんが口から手を放し、観念したといったふうに肩を落とした。


「わ、わかったわよ。話せばいいんでしょ。とりあえずここだとアレだから場所を変えない?」

 

 

 


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