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36.その再会はどうなのか

ここからサクラダ視点に戻ります。

「旦那様、お久しぶりでございます。旦那様がいらっしゃるのがあんまりにも遅いので、私、この方と結婚することにいたしました。」


「えぇ…?」



 グラバーの護衛任務を終え、第3師団の皆さんと別行動になってからのこと。


 俺とウィリアムさん、ロミアさん、ジュリエッタさんの計四名は、それからさらに丸1日かけてマーウーを走らせ、なんとか第2の目的地である聖剣の村へと到着することが出来たのであった。


 いやはや、中々に大変な旅路だった。


 アンピプテラ平原まで送り届けたはずの老飛竜グラバーが気まぐれを起こして付いてきたり、付いてきたグラバーが馬鹿みたいに食うせいで食料が足りなくなったり。そんでもって不足した食料を補充するために狩りをしていたら、魔獣に反撃されてえらいことになったり…。


 まあ、色々とトラブルがあった。キリがないので詳細は割愛するが、第3師団のお3方が有能すぎたのだと言っておきたい。


 何より大変だったのは、ジュリエッタさんを狙って四六時中襲い掛かってくる暗殺者(?)たちの撃退である。


 本部からの連絡からあった通りで、俺たち、というよりかはジュリエッタさんの命を狙い、怪しげな暗殺者らしき集団が何度もちょっかいを掛けてきたのだ。


 山賊や行商人に扮していたり、物陰や遠方から狙撃してきたりと、様々な手段でカモフラージュしていたようだったが、あれは絶対に組織的犯行である。


 幸いと言うべきか、相手方の予備動作で攻撃を予知できたし、さほど腕の立つ者はいなかったようなので、だいたいの攻撃は簡単な防御魔法で防ぐことが出来た。それでも運悪く防壁ををすり抜けた攻撃もあったが、それは無駄に頑丈な俺が身を呈することでカバーできた。


 直接攻撃以外にも、いつの間にか毒が食品へ混入されていたこともあった。だが、それに関しては、感覚の鋭いグラバーが見分けてくれた。なんで協力してくれたんだろう、あいつ。


 たまに炎魔法を撃たれたり謎の液体(たぶん酸)を掛けられたりして服が燃えたり溶けたりしたのはクソだったが、それ以外は特に被害もなく追い返すことが出来た。こちらの損害は俺のあだ名がしばらく『Giant Root Man』になりそうなことぐらいだ。


 捕縛? こちとら素人1人に非戦闘員が3人、オマケに物見遊山気分のトカゲ1体ぞ。しかも、そんな連中相手に10人単位で仕掛けてくるのだ。いくら連中が弱いと言っても撃退で精一杯である。


 とはいえ、適当に魔法攻撃を放り投げて反撃しておけば蜘蛛の子を散らすように逃げていったし、最後の方にグラバーが真の姿を見せてからは、襲撃もぴたりと止んでしまった。


 なんというか、中途半端だった。


 初めのうちは、彼らはこちらの戦力を測ろうとして慎重になっているのだと考えていた。だが、彼らがそうこうしているうちにこちらの目的地の村まで到着してしまったのだ。


 もしも本当に慎重になりすぎて機会を逃したのだとすれば相当な間抜けである。暗殺者を止めた方がいいとアドバイスしてやりたいぐらいだ。


 だが、これが相手の真の狙いだったとすると。


 『暗殺者』の後ろに括弧と?マークが付いたのはそういう理由である。



「旦那様、旦那様? 大丈夫ですか?」



 と、そんなふうにこれまでの旅路をぼんやりと回想していたら、カラーリングが全体的に白っぽいエルフの女性が不安げにこちらの顔を見上げていた。見知らぬ男性と手を繋いでいらっしゃる。


 回りくどい言い方をしてしまったが、メイドのメルファディアラニアポンさんである。本日の恰好はメイド服ではなくて私服。若草色…? よくわからんが薄い緑っぽいワンピースの上にカーディガンを着ている。


 彼女と手を繋いでいる男性は、明るい茶髪の純朴そうな青年である。帯剣していないので騎士ではないようだが、体ががっちりしていて喧嘩が強そうだ。格闘技経験者かな? それとも農民か、はたまた土木作業員か。


 そんな彼がこちらを馬鹿にしきったような視線を向けてくるのだが、はて、この青年はいったい誰だったろうか。面識はないと思うのだが…。



「ああいや。そんなことよりもニアさん、結婚するんでしたっけ。それはなんというかおめでとうございます。」


「はい。」



 貴族間の政治的なアレの結果、俺の下へと送り込まれてきたニアさん。彼女の事情については、俺も詳しく聞いていない。だが、どうやら彼女は、彼女自身の意思に関係なく俺の所へと送られてきたらしい。それだけは分かっている。


 そういうわけで、ニアさんの結婚報告は純粋におめでたいことだと思う。



「…え、それだけですか?」



 こちらが黙っていると、ニアさんが困惑したように一歩近づいてきた。あ、恋人繋ぎ解いてる。


 それにしても、『それだけ』も何も、と言いたいところである。貴族騎士社会における結婚祝い的な慣習でもあるのだろうか? んなこと言われても、こちとら現代日本人である。無言の気遣いを求められても、すべきことを知らないのだからどうしようもない。


 金一封でも渡しておこうか。



「…もういいです。」



 こちらが首を捻りながらアイテムストレージに腕を突っ込んでいたら、ニアさんは呆れた顔でそう呟いた。そして、つまらなさそうに細い目で俺の顔を睨んできた。



「あーあ。さすがの朴念仁の旦那様も、少しは危機感を抱いてくださると思ったのですが。ツリバシ効果と言うのですか? 自分の女が奪われそうになったら、必死になって取り戻そうとしてくださいませ。全く、女心が分かっておりませんねぇ…。」


「えぇ…。」



 女心と心理学に関しては門外漢なので何とも言い難い。ただ、吊り橋効果はそういうやつじゃなかったような気がする。うろ覚えだけど。



「ああ、貴方、名前は何と言いましたっけ…。ともかく、協力してくださってありがとうございました。残念ながらドッキリは失敗してしまいましたが、仕事は完遂していただきましたので。はい、これはお礼です。」


「な!? ま、待ってくれよ! 君の気持ちは偽物なのかもしんねえが、俺の気持ちはホンモンなんだ!」



 一人で勝手に納得していたら、ニアさんが徐に結婚相手の男性へと革袋を複数個手渡し始めた。1つ、2つ、3つ…。小さな袋だが、どれも重たそうだ。チャリチャリ言ってるし、中身はたぶん…。


 一方、男性の方はそれを受け取りながらいろいろと喚いている。この様子を見るに…。



「…結婚詐欺?」


「はい? はい。嘘ですよ。私が旦那様のこと(高給のお仕事)を手放すわけがないではありませんか。あと、こちらが騙して、こちらが支払っているのですから、結婚詐欺ではありません。」



 ニアさんはそう言って俺の事ををちらりと見ると、手をハンカチで拭った。それはちょうど男性とつないでいた方の手である。なんというか酷え。


 いや、本当に嘘なのだろうか? 偽婚約者の男性がすごい顔でニアさんのことを見ている。絶望感が体中から溢れ出ていて、さっきから無言で見物しているウィリアムさんたちも彼の悲哀に中てられているようだ。


 狂言の中でも、彼の気持ちだけは本物だったように見えるが果たして…。



「こちらの方は、旦那様を()()()と画策していたら、志願してくださった()()()です。より演技を真に迫らせるため、昨日は丸1日一緒にいました。ですが、それ以上の事は何もありません。ああ、1日一緒に過ごしたと言っても、お食事を共にしたり、村の周りを案内していただいただけですので。夕方には解散していますので。」


「うわぁ…。」



 思わず『悪い女だなぁ』とでも言ってやりたくなった。


 だが、金銭の取引があったという前提をすっぽかした青年の方にも非はあるだろう。条件を呑んだうえでニアさんの話に乗ったというのだから、猶更だ。


 依頼の途中で惚れたのか、惚れたから依頼を受けたのかは知らない。だが、事故的に惚れた後の事は契約外。もしも彼が仕事以上の事を望んでいたのなら、それなりのアプローチをする必要があったはずだ。恋は戦争。戦争であるからこそ、攻撃も反撃もしなければ蹂躙され尽くすだけだ。心が。


 でも、おじさんは君の事を応援しとるよ。だから、今回の勘違いにめげず、見事にニアさんを振り向かせてみるがよい。そうした時、君の人生はさらに素晴らしい物になるはずさ。


 いや、人の事だと思って適当抜かしてるんだけども。



「旦那様。荷物を…、いえ、魔法があるのでしたね。では、ひとまずおうちまでご案内いたします。傍に厩がありますから、マーウーちゃんは連れてきていただいたままで問題ございません。」



 慣れた様子でマーウーの轡を取ったニアさんは、こちらの返答を待たずにスタスタと歩き始めた。迷いのない動作、騎士の娘であるということは本当らしい。


 ただ、突然引っ張られたマーウーが驚いて首を上げ、身長の低い彼女は宙づりになってしまった。


 うん、ニアさんは厩務員には向いてなさそうだ。


 慌ててマーウーの首の下に腕を滑り込ませる。口には出さないが、けっこう重かった。



「あっぶねえ…。それより、この人は放置?」



 ニアさんの怪我の有無を確認した後で、婚約者役の男性へと目を向ける。


 呆然としている男性は、両手に重たい革袋を乗せたまま硬直している。滂沱の涙は唖然としすぎて涙腺や括約筋が緩み切ったゆえなのだろうか。



「ま、まあ。巡り合わせというものはある。青年、あまり気にしない方がいいぞ。」


「そうよ! この叔父様も、昔の恋を捨てて今の奥様に妥協しているのよ! 平民のあなただって、妥協すればきっといい人に巡り合えるはずだわ!」


「おいジュリア、私の結婚は妥協ではないよ。真の愛だ。」



 あ、ウィリアムさんが慰めに入った。ジュリエッタさんも。ロミアさんは…あれ? いなくなってる。



「代金は耳を揃えてありますから大丈夫です。エルフの耳は長いですし、その分だけ色も付けておきましたので。さあ、旦那様。私たちの愛の巣へと向かいましょう。お夕飯は腕によりをかけさせていただきましたので。」



 抱かれたウサギのように腕の中で体を丸めたニアさんは、マーウーを手綱で操るように俺の袖を引っ張った。


 色々と言いたいことはあるが、とりあえずニアさんを地面に降ろした。


 何はともあれ、仕事を終わらせてからである。取り急ぎ行うべきは、この村を担当している責任者の所へと挨拶に向かうことだろう。


 第3師団と別れてから聖剣村に着くまでの間、我らが責任者はウィリアムさんである。彼が居ないことには話にならないので、そろそろ青年を慰める作業から手を引いてもらいたいところだ。



「…だから、な? 青年よ。結婚が必ずしもゴールとは限らないのさ。」


「そ、そうなのですね…。俺、貴族の方の事、誤解してました。」



 ちょうど話も佳境に差し掛かったようだ。話が妙な方向に転がっていったようだし、妙な友情も育まれている。あれがあと5分続くようなら、無理矢理にでも中断させよう。


 ウィリアムさんの事は大丈夫そうなので、どこかへと行ってしまったロミアさんである。聖剣村に入った時には一緒に居たはずなのに、今は愛馬を残して姿が見えなくなっている。


 彼の向かった先に心当たりのありそうな人物とくれば、やはりジュリエッタさんだろうか。



「あの、ロミアさんは何処へ?」


「あら、後輩ちゃんも知らないの? わたくしが気づいた時には居なくなってたから、てっきり貴方に何か言付けていたのかと…。」



 驚いたように目を丸くするジュリエッタさん。どうやら本当に何も聞かされていないようだ。



「聞いてないっすねぇ…。ウィリアムさんは?」


「ふむ、手でも洗いに行ったのではないかな。…いいや、青年。結婚は必ずしも墓場ではないよ。なんせ…。」



 困ったことに、どちらも心当たりがないようだ。そういえば、ロミアさんはこの村に来るのが初めてだと言っていた。初めてなんだったら土地勘があるはずもないし、トイレに行くにも村人や騎士に手を借りる必要があるはずだ。


 そこで、出迎えに出てきてくれた騎士団の人や見物にやってきた村人、ついでにニアさんにも尋ねてみた。しかし残念ながら、どの人もロミアさんを()()()()()()()と語った。


 ここで漸く、ウィリアムさんが青年との会話を中断した。事の重大さに気付いたらしい。



「妙だな…。アイツとは、ついさっきまでこの村の門構えについて話していたところだった。ド派手な門だなぁ、なんぞと言い合っていたからな。」


「確かに。ここが一目で聖剣の村だって分かりますもんね、コレ。」



 聖剣の村 (カリバーフォードというらしい)に入るための門の両脇には、騎士団のシンボルであるブロードソードにそっくりな直剣を何本も組み合わせて作ったような、巨大な直剣のオブジェが飾られている。やはり、この村で祀られているエクスカリバーがモデルらしい。


 そう言われてみれば、ロミアさんとウィリアムさんがそれについて悪趣味だという話をしていたような気がする。そして、その時点ではロミアさんの姿があったことを記憶している。



「クラーダの所のメイドに気を取られているうちにその話も止めてしまっていたが、その隙にどこかへ…?」


「わたくしもよ。後輩ちゃんの所のメイドさんに圧倒されていたけど、気付いたらロミアが居なくなってたのよね。その直前まで彼の傍に居たんだから、間違いないわ。」



 そうだ。その時、男衆で集まって話をしていたら、ハブられたジュリエッタさんがヘソを曲げてロミアさんのマーウーに自分のマーウーをぶつけたんだった。その後でマーウーから降りてからも2人はべったりくっ付いてたのだ。


 そして、その後で案内担当の騎士の人に村の中へと通され、そのタイミングでニアさんが出てきたのだ。


 つまり…。


 その場に居る者達の視線がニアさんに向けられる。



「つまり、私と旦那様の感動の再開の間に、モンテルジュ卿がお姿を隠された、と。…わ、私は旦那様にお会いしたかっただけなので、本当に何も知りませんよ。モンテルジュ卿との面識もございませんし。」


「誰も疑ってないよ。」



 勝手に慌てだしたニアさんにツッコミを入れつつ、再び周囲を見渡してみる。


 そういえば、ロミアさんと同時に姿を消した者がもう一人。どうして彼の事を忘れていたのだろうか。



「あのワイバーン爺、どこ行った?」



 何故かアンピプテラ平原からカリバーフォード村まで俺たちに付いてきていたグラバーが、いつの間にか居なくなっている。あのトカゲがわざわざ暗殺者の撃退を手伝ってくれるのは妙だと思っていたが、まさか何か目的があって…。



『何を喚いている、矮躯なる者共よ。』


「普通にいたわ。」



 と、グラバーを疑っていたところで、彼の姿を例の門の下に発見した。男の娘姿、もとい亜人形態でスカートをひらひらさせながらこちらに向かって来ている。



『川に水を飲みに行っていた。だが、話は聞こえていたぞ。ふむ、あの盛りのついた雄猿か…。』



 グラバーは含みを持たせてそう言うと、口の端を吊り上げてその鋭い牙を覗かせた。

サブタイトルは後ほど追加します&おそらく今回の話の前に何話かねじ込むことになるのではないかと思います&誤字脱字等あったらごめんなさい


5/13 サブタイトル追加

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