序2.
【※御注意】大変に御下品な回となっておりますので、苦手な御方は御了承いただいた上で読むか読まれぬかを御決定なさって下さいませ【※御注意】
サクラダとぷりゅねるJPがオフで顔を合わせた機会など、CWR(CrestALEA White ReaperS)結成の時の祝賀会とRJS期間中ぐらいのものだ。
ちなみに、そもそもCWRというチームは、現在過疎が進んでプロシーンも減ってきている『狼獄』というカバーシュータータイプのFPSのチームとして5年前に結成されたものだ。
サクラダは『狼獄』部門出身であり、ぷりゅねるJPは様々なゲームをプレイしてその様子を配信するストリーマー部門出身者であったはず。
『狼獄』の過疎化、他タイトルの台頭に伴ってRoT部門など幾つかの部門が作られたのだが、それは案外、最近のことなのだ。
話が少々ズレたが、出身部門の違う両者が直接顔を合わせる機会は少なく、チームが同じになった後もRJS以外でわざわざ会うことはなかったのである。
また、サクラダは普段顔を隠して配信しているし、5年前からすれば髪の色も随分と変わっていて、ピアスの数も増えている。
RJSは出場チームが一つの会場に集まることでソフトウェア・ハードウェア両方のチートの対策を行っている。
そのため、各出場選手の顔がモニターに映ることとなるのだが、シーズンが変わる度にピアスが増えて髪の色もガラリと変わっているKalk選手は一種のRJS定番ネタとなるほどだった。
そんなわけで、ぷりゅねるJPがサクラダの顔を見て、これがKalk選手であると気付くことができなかったのにも無理はない。
だが、しかし。
サクラダに剣を向けたぷりゅねるJPは、しかしすぐに切っ先を下ろした。
「…うーん?リスナーにしては聞き覚えがある声のような。…もしかして?」
全裸で空から降ってきたサクラダがKalk選手であるという事が結びつきそうで結びつかないのだろう。
おそらくそうだろうという気持ちと違う可能性もあるという気持ちが7:3ぐらいである。
「えーっと。俺、CWRのKalkっす。ぷりゅねるさん…なんだよな?その、お久しぶり…?」
一方でサクラダ。
目の前の鎧女はぷりゅねるJPという名前に反応していたので恐らく本人だろうという確証を持っている。
ゲームをしていたら空に投げ出されるという体験をした後なので、死人がよみがえっても何らおかしくないと思っている。いや、むしろ思考停止している。
「か、Kalk君…?正気で?な、なにゆえぇ…?」
彼の言葉に呆けたような表情になったぷりゅねるJP。
彼女は剣を鞘に納めると、震える足でゆっくりと彼の近くへと歩み寄ろうとした。
「師団長!ご報告が!!ところで、先ほどの轟音は一体……」
と、ちょうどそんなタイミングで新たな声が現れた。
ぷりゅねるJPに用があったらしいその声の主は、灰色の髪をした西洋系の顔立ちの女であった。
かといって白髪の老婆というわけでもなく、童顔のぷりゅねるJPよりも少し上、10代後半ぐらいに見える。まあ、ぷりゅねるJPの享年はたしか25歳か26歳なのだが。
ぷりゅねるJPの着用しているファンタジックな甲冑の装飾を簡略化したような甲冑を身に着けているその灰髪女は、彼女に話しかけている内に、地面に穿たれた平泳ぎ型の穴から顔だけ出しているサクラダに気が付いたようだ。
「地面から悪魔のような顔が生えている…。なんとも面妖な…?」
確かに、傍から見ればピアスだらけの赤髪の生首が地面から生えているようである。
物の怪じみたその様子に眉を顰めた女騎士コス灰髪女は、剣を構えながらじりじりとサクラダの傍へ近寄った。
そして、地面から頭が生えているのではなく穴から顔を出しているだけだということに気が付くと、穴の中をゆっくりと覗き込んだ。
妙な展開に思考停止していたサクラダは、自分の股間当たりに注がれる視線に気が付くと、そっと両手でそこを覆い隠した。
大きすぎてはみ出ているのだが。
「あっ…、その、オリビア。この人は…。」
固まっていた騎士コス青メッシュ女ことぷりゅねるJPは、我に返ると慌てた様子で騎士コス灰髪女の肩に触れた。
「き、きゃああああああああああああ!?!?」
みるみるうちに顔を真っ赤に染めた騎士コス灰髪女は、両手で顔を覆うと、平原中に響き渡る叫び声を上げた。
▽ ▽ ▽
「………。」
騎士コス灰髪女の名はオリビアというらしい。
オリビアは全裸で正座させられているサクラダの前に立ちながら両手で顔を覆っている。
そして、ぷりゅねるJPはそんな彼女の横に顰め面で顔で立っている。というよりも、笑いをこらえようとして厳めしい表情になっているだけである。
サクラダはこの手の羞恥プレイが趣味の範囲外なので立っていない。
…間違えた。そうではなく、股間を隠しながらせめて布切れ1枚だけでもいいから恵んでくれればいいのに等と思いながら正座している。
「と、ともかく?」
サクラダから目を逸らしながら口を開いたのはぷりゅねるJP。
彼女はにやける口元に手を当てながら吹き出しそうな声で言った。
「こいつも、どうやら私と同じで記憶を失っていると見た。フルチンだけど…ブフッ!…こちらに害意を及ぼそうとする様子もないし、魔王ぐフフッ!………魔王軍の手勢とするにはあまりにも貧弱だと思う。だから、私らで保護してやるというのはどうだろ。」
ぷりゅねるJPはオリビアの手前、ゲーム中の乱暴な口調を控えているらしい。
何がそんなに面白いのか、まあナニがそんなに面白いのだろうが、半分笑いながら隣に立つオリビアに言った。
「で、ですが師団長…貧弱と言うにはあまりにも…。…っていえ!そうではなく、この者が真実を語っているとも限りません!此奴が魔王軍の者であれば、その…ふ、フルチン…で我らを油断させ、その隙に我ら2名の首でもかっ切ろうと画策していても何らおかしくはありません!」
両手の薬指・中指・人差し指に不自然な隙間を開けながら顔を隠すオリビアは訴えるようにそう言った。
丸腰のサクラダが、どうすれば鎧に守られた首を斬るというのだろうか。
「う、うーむ…。た、確かにその線もあるかもしんないけど。でも、わたしにはやっぱりコイツが魔王軍の者とは思えないんだよなぁ…。確かに、悪魔みたいな顔してるけど…。」
サクラダがKalk本人だという確証が得られた以上、彼を不利な状況に持って行くというのは忍びないらしい。
ぷりゅねるJPは必死で彼の援護射撃に回っている。
「あのう…すんません。」
せっかくのカバーを上手く活用するために、サクラダは自己弁護を行うことにした。
「俺もなにがなんだかわからなくて。気付いたらこんな格好で空に居て、そんで、地面に降りられたと思ったらそこの…えっと、師団長さん?に出会って…。その前の事は全く何も覚えてないんスよ。」
ぷりゅねるJPが用意したと思われるカバーストーリーに乗っかるような形でこれまでの経緯を説明した。
何があったのかを説明しただけで、肝心のどうしてこうなったのかという理由を説明していないのだから特に有効だとは思えない。
「あ、怪しいですね…。まず、仮にあなたが人間だとしたら、普通な時にそんなにお、おち…が大きいのはおかしいでしょう!インキュバスは人間の女性を誑かすために大きなモノを持っていると言いますし、本当はインキュバスなのではないんですか!?」
指の隙間から股の間を凝視するオリビアは、どうしてもサクラダを怪しんで止まないらしい。
まあ正直なところその気持ちは分かるが。全裸だし。全裸というだけで不審だ。
今は目を覆うために両手が塞がっているが、何か妙なことをしたら斬る、いや、killという意思を感じる。
「い、いや。べつにこんぐらいの人間がいたっておかしかねえやろ。なんというか、その、個人差があるって聞くし。…そうだ!わたしの時と同じように、真実の泉に連れてけば良んじゃね?」
旗色が悪くなっていくことに焦りを感じたか、それとも頑固なオリビアに痺れを切らしたか。
少し乱暴な口調が漏れ出で始めているぷりゅねるJPは、そう言って、名案を思い付いたとでも言いたいかのようにポンと拳で手のひらを叩いた。
「こ、この者を聖都へお入れになるおつもりですか!?それは絶対に危険です!こんな男を聖都に引き入れてしまった日には、聖都が性都となり、陛下のお膝元が真っ白に染め上げられてしまいます!!」
しかし、オリビアは彼女の言葉に対して断固拒否の姿勢のようだ。それはさておき、あまりにもお下品だ。
頑固なオリビアにそろそろ苛々してきているぷりゅめるJPは、逆に笑顔を浮かべた。
よく見るとこめかみがヒクついているが、遠目で見れば聖母のような笑みだ。
「…問題ないさ。なんせ、この師団長であるわたしが護送するんだから。馬車にはアイツも控えてるし、それに何よりも、オリビア。わたしの一番の腹心であるお前が居るんだから。」
「し、師団長…!」
事情が見えないが、オリビアは相当にぷりゅねるJPの事を慕っているらしい。コスプレイヤーどうしの絆なのだろうか。よくわからん。
ともかく、ぷりゅねるJPの言葉に感化されたらしいオリビアは、何処からともなく太いロープを取り出して、じりじりとサクラダの方に近付いてきた。
「い、今からお前を拘束します。抵抗すれば斬ります。もし私が倒れたとしてもヤタラ卿がお前を逃しません。さ、さあ…堪忍して、て、手を……手を………。」
ブパッ。
突然、オリビアが鼻血を噴いた。
サクラダが股間を覆っている両手を差し出せば、無論見えてしまう。モロだ。
それに、縛る際にブツに触れていた両手に触れることになってしまう。
見るからにムッツリスケベなオリビアは、そのことに気付いてしまったのであろう。
「見るからに」と「ムッツリ」の両立とはどういう事か。なんとも矛盾しているような気がしなくもない。
「………あのさぁ。」
鼻血を噴き出すオリビアに呆れた様子のぷりゅねるJPは彼女から奪うようにロープを受け取ると、サクラダのすぐ傍まで近づいた。
「Kalk君、超申し訳ないんだけど、テキトーに話を合わせといて。後で説明するから、とりま、わたしの話に頷いてくれてりゃいい。悪いようにはなんないから。」
鼻血の対処にあたふたしているオリビアに聞かれないような小声でサクラダに指示をしたぷりゅねるJPは、サクラダが頷いたのを確認すると、彼の手首を腰のあたりごとグルグル巻きにした。
「こうすれば見えないかな? オリビア、さっさと馬車に戻ろう。」
「い、いえ…チラリズムです、師団長…。りょ、了解しました。これより野営地点に戻り、この者を真実の泉へと護送いたします…。」
サクラダが拘束されていない側のロープを握りしめたオリビアは、片手で鼻を摘まみながら歩きだした。
▽ ▽ ▽
「ん?あら、あらあら。」
オリビアに引きずられるように連れてこられた野営地点では、鍔の広い先端の尖ったいわゆる魔女の帽子を被った女が焚火を突いていた。
この女もまた、やはりオリビアと似たような甲冑を身に纏い、腰からブロードソードの鞘を下げている。ただ、オリビアが盾を携えているのに対して、この女は自分の背丈ほどもある杖を傍らに置いていた。
「師団長、その人は一体どうしたの?」
魔女帽の女は縄で引かれる全裸のサクラダを見て目を丸くしている。
「うーん…降ってきた。どうやら彼もわたしと同じで、魔王軍に記憶を消された善良なる者っぽいんだけど、オリビアがずっと疑っててさ…。いったん聖都に連れて帰って、真実の泉で素性を知ろうと思うんだけど。」
どうやらぷりゅねるJPはこの場において記憶を失っているということになっているらしい。
「そうなの。貴方、大変ですねぇ…。取り急ぎ、お肉でもいかが?」
魔女帽の女は焚火に掛けていた巨大な骨付きの塊肉を火から下ろすと、骨の部分を握って差し出してきた。
「えーっと、縛られてるので。お気持ちだけで結構っす。」
「そう。遠慮しなくてもいいのに。」
頭を振って断ったサクラダに片目を瞑って見せた魔女帽の女は、塊肉を再び火にかけた。
行動としては何の脈絡もなかったが、サクラダは初めてまともな人間に出会ったような気がした。
「その、お見苦しい物をお見せしてすんません。」
「いえいえ。取り敢えず、あなたは何か着た方がいいですね。ちょっと待ってて、馬車から服を取ってきますから。」
そうして彼女は立ち上がると、何処かへ向かって走り去った。
「ほれ見たことか。アイラは何も気にしてない。不安がってんのはオリビアだけだよ。」
ぷりゅねるJPはそう言って舌を出した。
「ka…えっと、君。今の女性はこのわたし、ヤタラ卿の部下の1人、アイラ卿だ。そして、この鼻血を垂らしているのがオリビア卿。わたし達は聖ヴァイオレット王国が聖アルビー騎士団第3師団からこのアンピプテラ平原を偵察するために派遣された。…何か聞き覚えのある言葉があれば、首を縦に振れ。」
むしろ首を横に振れという目をしながらぷりゅめるJPがそう言った。
説明を受けても事情が読めないサクラダは大人しく首を横に振った。実際、何を言っているのやらサッパリだ。
「ほら、彼はこう言ってるぞ? そもそも、この焚火の周りはアイラが魔除けのルーンを使っているし、魔の息のかかった者なら入ってこれないと思うけど。」
「むぅ……。しかし、強力な魔族たちは邪気を収めることが出来ると聞きます。この大きなおち…インキュバスの証も証拠として十分だと思われますが。」
サクラダが蚊帳の外のまま、2人は何やら言い合っている。
何もわからぬままサクラダが焚火を見つめていると、魔女帽の女改めアイラが戻ってきた。
「はい、これ。馬車にあった予備の兵装なんですけど…。ごめんなさいね、下着は見つからなかったの。」
シンプルなデザインをしたボロいシャツとズボンを差し出したアイラは、暫くして首を傾げた。
「そういえば、手を動かせないのでしたっけ。ここで縄を解いてあげるわけにはいかないから、私が着せてあげますね。」
「え?いや、その………。」
「はあい、右足を上げてー。…それにしても、おっきいですねぇ。」
問答無用で足を掴まれ、ズボンを通される。
急なものだから自発的に足を上げられなかったが、アイラは細身な見た目のわりに力が強かった。
腕を縛られているためにバランスを取りづらくて転びそうになってしまうが、アイラががっしりと足首を掴んでいるために倒れ込むこともできない。
倒れそうな体の重さに引っ張られて足が引きちぎれそうに痛んだが、それを訴える前に服を着せられていた。
「はーい、これでオリビアちゃんも大丈夫。…どうしてそんなに残念そうなの?」
「い、いや。何でもありませんよ!むしろ、この不埒な変質者が服を着て安心しているのです!」
明らかに肩を落としながらそう言ったオリビアは、ロープをぐいっと引っ張ってサクラダの体勢を戻してくれた。
あな恐ろしや深夜テンション。