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<3>

 人払いをしてビショップ以外の護衛や侍女を下がらせた。

 今、この部屋に居るのは第二王子とシュトーリナ、そしてビショップの3人だけである。


 「聖女様が王太子殿下とご結婚なさるというのは間違いないでしょう。ですが、それは兄君ではなく、近く立太子なさる第二王子殿下でございましょう」


 「それはもう聞いた。だが、私が立太子などあり得ない」


 「ふふふ、あり得ますわ。いいえ、はっきりガッツリ予言致します。殿下はこの国の王太子となられます!早ければ1時間後位にわっ!」


 「早いっ!それに何故そんな事になると…」 


 第二王子が上の中レベルのその美しい顔を歪める。


 コホン。


 「それではいよいよ、殿下のご存じないこの国の事実を申し上げまっす」


 語尾がおかしくなった。しかし気にする事はない。

 シュトーリナはじっと第二王子の目を見て、24年間秘されて来た事実を、やや早口で一気に告げてみる。


 「第一王子殿下は女性でございます。王子の姿をした女性、つまり王女ですから、実は兄君である第一王子は第二王子である殿下の姉君であり、正確には第一王女なので、男子でなければ国王にはなれないイケテ=ルジャン国では、第一王子ではなく第一王女である殿下の姉君は、決して王太子にも国王にもなれないのでございます!」 


 「なんか、ややこしい!もっと簡潔に!!」


 「第一王子殿下は女性ですので、この国では王太子にも国王にもなることは出来ませんわ」


 「そうそれ!それだけでいいでしょ。何でわざわざ長く言った?」


 「…せっかくなので、戯れに早口言葉っぽくしてみたかったのでございますわ。失礼致しました」


 ウケなかったのでしょんぼりするシュトーリナ。確かに早口言葉というには未完成過ぎた。だが、まあ気にするな。


 第二王子は、想像もしなかった内容に赤くなったり青くなったり真っ白になったり、どんどん顔色を変えながら驚き戸惑う事で忙しく、早口言葉調を狙って失敗した説明の出来には露ほども関心を持っていなかった。


 それよりも大事なのは内容だ。


 「…もしも、もしも本当に貴女の言うように兄上が姉上なのであれば、確かにこの国ではあにう…あね…あにぇうえが王太子でいるわけには行かぬ。しかし…私はそんな事は信じられぬ。あの、あにぇうえが…」


 兄と呼べば良いのか姉と呼べば良いのか、正解がわからないままに取り敢えず間を取って「あにぇうえ」と言ってみる第二王子。


 「あにぇうえは、確かに背は低いし、手も小さくふわふわで笑顔が可愛らしい。インドア派で趣味は刺繍だ。剣よりも超近距離での針攻撃が得意だし、体型は華奢ではあるが腰回りは少々ふくよかで…まあ、決して男らしくはないが、だがしかし、それでも腕力は……ああ、弱いな。かなり弱い。先日、宰相の孫の12歳の少年に腕相撲で負けていた。

 いや!だが、キリッとして力強い話し方で皆を先導し…そして、そうだ、少し高い声でうふふと笑う。喉仏も目立たない…。ああっ!そういえば、お茶を飲む時にカップを持つ手の小指が立つ…!まさか本当に…!?」


 「殿下、お茶を飲む時にカップを持つ手の小指が立つのは個人の癖でございます。また、人の手指の腱の構造として、親指、人差し指、中指に込める力の加減によって小指は立ちやすくなります。女性に多く見られる仕草と認識されていますが、実はそこに男女の別はございません」


 「そ、そうか、そうだな、確かに父上もよく小指が立っている。あ、そうだ!女性であるならば胸があるはずであろう?しかし兄上に胸は…、あっ!ま、まさか、華奢な割には胸板はそこそこ厚みがあるのだなと思っていたが、あれは胸板ではなくささやかな胸か!?

 いや、違うよな?あんなにささやかな胸があるものか…でも…もしも本当に女性なのであれば…如何にささやかであろうともあれは胸なのかも知れぬ…」


 第二王子には色々と思い当たることがあったようだ。自分で言いながら驚き、ツッコミ、そしてどんどん核心に近付いておられる。


 「しかし、だとすれば何故?何故ずっと王子などと偽って…?」


 「それについては、ビショップ様が何かご存知なのでは?今、殿下の真後で額をペシッと叩きアイヤー!という顔をされておいでですわ。どんな顔でも麗しい事に変わりはございませんが、萌えっ」


 「ビショップ、誠か?お前は何か知っているのか!?というかシュトーリナ嬢、何故私の真後ろにいるビショップの表情に気付いた!?」


 殿下が振り返りビショップに問いかける。そしてすぐまたシュトーリナに向き直る。気になることが複数あると動きが大変だ。


 「うふふふ。(わたくし)、この短時間の間に透視の力が開花致しましたの。邪魔な殿下を透かして愛しいビショップ様を見たいという熱い思いが、思いがけず能力の扉をまたひとつ開いてくれたのですわ」


 邪魔と言われてショックを受けている殿下をそのまま放置して、ビショップが口を開く。


 「シュトーリナ嬢、貴女はオウル殿下に見惚れておいでなのかと思っていたが、まさか、殿下はただ邪魔だっただけで、実は私をご覧になっていたと!?」


 「はい、ビショップ様。殿下は邪魔でした。(わたくし)、ひと目あなた様のお姿を拝見した瞬間から、あなた様の虜、愛の奴隷なのでございます。(わたくし)はあなた様の為に生まれてまいりましたの!貴方しか見えない、見たくないのですわ!」 


 「なんと…!それが本当なら私は神に感謝の祈りを捧げなければ。シュトーリナ嬢、私もひと目貴女を見た瞬間に強い衝撃を受け、気がついた時には貴女を愛していたようだ。

 今日はあなたとオウル殿下の見合いだと聞いていたので、このような出会いとなった己の悲運を辛く苦しい思いで耐えていたのです。だが、それは杞憂でしかなかった!殿下は邪魔なだけだったのですね…!」 


 「はい、ビショップ様。殿下は邪魔なだけだったのですわ!」


 「シュトーリナ嬢!貴女をひと目見た時、私の背後では幻の花火師達がスターマインをドカンドカンと何百発も打ち上げ、私は愛の波に飲まれてドンブラコッコスッコッコと貴女という大河を旅していました!」


 「まあ!同じですわ!(わたくし)達、同じ旅をしていたのですねっ!!」


 二人は似た者同士だった。

 正に運命だ。


 だが、運命ではない者がここに一人居る。


 「あー、邪魔な私が話しかけて大変に申し訳ないのだが、チョットいいだろうか。兄上が姉上だという話の方を先に片付けたいのだが…」 


 シュトーリナとビショップに邪魔な殿下が割って入った。

 寄り添い手を取り合って見つめ合う二人は、心の底から改めて「邪魔っ」と思った。 

 だが、確かに国の行方を左右するレベルの話ではある。先に片付けておくのは得策だ。その方が安心してイチャイチャ出来る。ビショップは「仕方がない」と思い話し始める。


 「幼い頃に母に言われたのです。第一王子、いや第一王女というか、殿下の兄君…いや、姉君…ややこしいので名前で行きます。ハウル様を大切にお守りせよと。絶対に内緒だがハウル様は女の子なのだと」


 「では、やはり兄上が姉上なのは誠だということか…。しかし何故?」


 「それは…、ひたすら男子の誕生を心待ちにしていらした陛下が、丁度ハウル様がお生まれになる頃に浮気、えー、他の方、ちょっと癖のある、王家としては背後関係が好ましくないお方に手玉に取られ気味だったそうで」


 「父上…」


 「それで、万が一にも絡め取られて、そっちに向かって本気で出発進行してしまってはまずいと、周囲が大変に気をもんでいたようなのです。

 ひたすら世継ぎである男児を望んでおられた陛下は、もしも誕生する御子が女子であった場合、悪気はなくとも、世継ぎではないとがっかりされ、他所に向いてしまうのではないか…と。

 それで、王妃様の周囲が一致団結チームを組んで、生まれた王女殿下を男子と公表なさったのだと。そして、世継ぎの誕生という事で陛下の関心を取り戻したのだそうです。

 父も母もハウル様が8歳になるまで知らなかったと言っていました」


 「なんということだ…。では、ハウル姉上は24年間ずっと男として生きることを強いられていたというのか!?」 


 「…そこはまあ、強いられてきたというか、ご本人は女性として育てられるよりも、随分と伸び伸びとお過ごしだったご様子ですが…」


 「ビナンもビショップも幼い頃から知っていたのだな?だから2人とも兄上がすっ転びそうになると、慌ててスライディングで下敷きになったり、池に落ちると上着を脱いで掛けて隠したりしていたんだな…。

 良く転び良く落ちる人だから大変だっただろう。あんなにもすぐ落ちるのに、何故に水辺に寄っていくのが好きなのか…。

 そうだ、お前達がたまに花を摘んで差し出したり、兄上の髪に飾ったのも知っていたからなのだな?」

 

 「…まあ、そういう事です」 

 

 「そうか、私だけが知らなかっ「ビショップ様は幼い頃からお優しかったのですね」」


 シュトーリナ乱入。

 

 「側近として当たり前の事をしていただけですよ。だが、これからの私は貴女の為に鬱陶しい程の優しさを炸裂させたい。覚悟しておいて下さいねシュトーリナ嬢」 

 

 「まあ、嬉し怖い。怖嬉しい。嬉嬉しい」 


 うふふふ。あはは。イチャイチャ。


 「ちょっと!私が話してるのに被ったぞ!もう、イチャイチャは後にして。今は兄上、いや姉上の話を!」 


 「殿下、詳細は両陛下や宰相様、第一王子、いえ第一王女殿下ご本人にお聞きになるのがよろしいかと存じます。いずれにせよ、殿下が近く王太子となられる事は間違いがありません。早ければ50分後くらいには」 


 「え?」


 「早ければ50分後くらいには」


 「も、もう10分経ったのか?…しかし、そうだな。まずは聞いて来るよ。本人に確認をするのが一番だ。そしてもしも本当に私が王太子とならねばならぬのであれば…、その時は責任を持って…国のために…というか、そしたら私が聖女様を妻と…うっ」 


 「あああ、オウル、ほらハンカチ。だめだ、上を向くな。鼻血は鼻をつまんで下を向いて数分置けばいい。粘膜を傷つけるから鼻にものを詰めてはならないぞ」


 「すまない、ビショップ。聖女様への想いが叶うのかと思ったら、つい…」 


 「どうせ、初夜のことでも想像したんだろう、気が早いエロ王子め」


 「ち、ちが…っ!」


 「あら、噂をすれば聖女様」


 見ると、ドアの所には聖女様が立っていた。何故このタイミングで現れたのかわからぬが、来てくれた事によって話が進むのでグッジョブだ。


 突然の聖女様の来訪に礼を取る3人。そして、第二王子が近付き声をかける。


 「聖女サヌキ、お一人か?護衛の者は?何故こちらに!?」 


 「…あ、あの、今のお話は本当でしょうか?」


 聖女様は今の会話を聞いていたようだ。ベール越しで顔は見えないが、何やら声が嬉しそうだ。だが、殿下は慌てる。


 「わっ、私はあなたとの初夜の事を考えて鼻血を出したのでは…ありませんっ!絶対にっ」


 「いえ、そうではなく…、ハウル王太子殿下が女性だと…王太子ではいられないので、オウル様が立太子なさると…」


 「あ、そっちか。いや、私にはまだわかりません。だが…「「本当ですよ」」私はって、おい!また被ってる!」


 シュトーリナとビショップは、声を合わせて殿下の言葉に被せ、サクッと真実である事を告げた。


 「オウル、いや、殿下。聞いたばかりで混乱しているだろうが、事実は事実だ。ほら、まだ鼻血が止まっていないぞ」


 「そうですわ。ビショップ様の仰るとおりです。鼻血が止まっておりませんよ。

 ところで、(わたくし)、世界中の国の当事者ですら知らないような様々な真実を沢山知っておりますのよ。その(わたくし)が断言致しますわ。第一王子殿下は第一王女殿下です。ですので、早くて本日45分後位には…オール殿下の王太子が誕生なさいますわ!」


 「うおっ!また脳内に「IHクッキングヒーターはIH用の調理器具しか利用できないため、ガスに比べて使える調理器具が限定されます」という謎の言葉がっ!!」


 「あ、つい呪文になってしまいました!失礼致しました」


 「だ、大丈夫だ。だが、急に来るとびっくりする。どうか気をつけてくれ」


 「…かしこまりました」



 その時、いきなり聖女がその場に崩れ落ちた。

 そしてヨヨヨとばかりに言う。


 「ああ、愛しいオウル殿下が早くて45分後には王太子となられる…。そうなると私の結婚相手となるのはオウル殿下。それは嬉しい。でも、でも、私は…」


 「聖女サヌキ!?」 


 殿下が駆け寄る。鼻血はハンカチで拭った。大丈夫だ。


 「殿下…、私はハウル殿下と結婚しなくても良いと知り嬉しく思っています。ですが…」


 「聖女サヌキ、今私を愛しいと言って下さったか?」 


 「はい、私はオウル様のことを…「ビショップ様は、もう決まった方がいらっしゃるのではなくて?」」


 「何を言う。どんな女性にもなびかず縁談を断り続けたオウルと共にいたのだ。私が殿下より先に決まった人など作るわけには行かないのはおわかりでしょう」


 「そうなのですね。ちょっと安心致しましたわ」

 

 「貴女こそ、例え書類上であっても未だにマージス殿下が婚約者というのはどういう事なのですか?奴が貴女を追って各国に現れるという噂は聞いています。消しましょうか?」 


 「ビショップ様ったら。消す時はこちらで何とでも出来ますので大丈夫ですわ。あの方は私が婚約解消の書類にサインをし忘れたので、律儀にサインをもらおうと走り回っているだけですの。そんなもの無くてもさっさとお好きな方と結婚でも何でもなされば良いのに…」


 「なるほど。そういう事でしたか」


 「…あの、君達、ちょっと遠慮してくれないかな。いま聖女サヌキとものすごく大事な話をしてるんだ。良い所で君たちにかき消されたけどね」


 「まあ!(わたくし)としたことが、邪魔な殿下の邪魔をしてしまうなんて大変失礼致しました。控えますわ。どうぞお話をお続け下さいませ」


 口をつぐみ、静かにしていましょうと目配せをするビショップとシュトーリナ。


 「…失礼した、聖女サヌキ。どうか言葉の続きを聞かせてくれ」


 「は、はい。あの、私はオウル様をお慕いしております。ですが、私はどなたの妻にもなれないのです…」


 「そ、それはどういう事だ?神との契約か?聖女としての、民を救う力を失うとか、そのような事なのか!?」


 「いいえ、そうではないのです。…でも、どうしても私はどなたの妻にもなることは出来ません」 


 「私が王太子となってもダメなのか?」


 「オウル様の事は心からお慕いしております。ですが…」


 「では何故!?」 


 「…い、言えませんっ」


 「では僭越ながら、(わたくし)が申し上げましょう」


 シュトーリナが進み出る。今度は邪魔をするのではなく、話を速やかにまとめる為である。


 「もう時間もあまりございませんし、時短時短で進めるべきですわ」


 「愛しいシュトーリナ嬢、君は更に何か知っているのかい?」


 「はい、ビショップ様。先程も申しましたように、(わたくし)は世界中の真実を存じておりますので」


 「貴女は美しく才能に溢れるだけではなく、そのように全てを見通す目と耳をお持ちか。素晴らしいな」


 「そんな…」


 「あー、すまないが、知ってるならサクッと話を進めてくれないか」 


 第二王子が先を促す。


 「これは失礼致しました、殿下。それでは申し上げますわ」


 「待って下さい!私は…私はオウル様に知られるのが怖い!」


 その時、扉がノックされた。


 「失礼致します!両陛下、並びに王太子殿下がお越しです!」 


 見合いの様子を覗き見…、いや、確認しようと王と王妃、そして王太子が揃ってやって来たようだ。

 丁度いいではないか。あらゆる真実を明らかにし、時短で話を進めれば良い。そうすれば聖女様のお披露目会に間に合うだろう。


 それに、何よりもいよいよタイトル通りに「全員集合!」になって来たではないか。

 筆者はほくそ笑んだ。 


 そして、室内に両陛下と、もうすぐ王太子ではなくなる王子の姿のハウル第一王女が入って来た。


 シュトーリナは控えて、様子を見ることにした。 

 

 

 

 



 

3話ではなく4話になってしまいました。次回完結です。

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[気になる点] 第一王子が女の子…○ラァ落ちが見えるよ… [一言] もう、なにをどこから突っ込めばいいのやら… (笑いすぎて息も絶え絶え)
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