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第1章 4話の3 異世界転移

「おにいさん、見てよ! かやとっても悔しそうだよ。やっぱりおにいさんはすごいんだから!」


 わかばは相変わらずそらの裾を引っ張りながら、かやを指差していった。


 かやがとても悔しそうに地団駄を踏んでいる。


「おにいさん、かやにいじめられたらわたしに言うのよ。わたしはいつだっておにいさんの味方だから!」


 そらは普段かやにいじめられているわけではない。ただ殺されそうになっているだけなのだ。

 とにかく、わかばはそらの味方でいてくれるらしかった。


「あにじゃばっかり目立ってずるいでござる!  ずるいでござる! 」


「どしたのかやちゃん? うわああ!」


「かくなる上は拙者も本気を出すのでざるよお」


 かやは結果的にそらが目立ったことが気に入らないのか、癇癪を起こした。


 よほど自身の発明品が起用されなかったことが面白くなかったのか相当根に持っているらしかった。


 登場時に空いた道場の壁から外に出ていき、すぐに何か機械のようなものを引っ張って戻ってくる。


「何だそれは?」


 それは銀色の四角い箱に大きな電極が塔のように突き刺さった謎の機械だった。


 機械には電極の他に緑色の液体が入った試験管のようなものが数本並んで刺さっており、何かの出力を表す円形のメーターや何らかのデータを表示するであろうモニター画面が飛び出るように取り付けられていた。

 下部には小さなゴム性の車輪が4つあり、極太の電源ケーブルが3本壁の破壊箇所から外へ延びている。


 当然この機械をどのように使うかは検討もつかない。

そらはとんでもないものを持ち出してきやがった。また爆発しないだろうかと心配になる。


「これは時空間歪曲転送装置"どこでもワープくん"でござる。今からあにじゃを20メートル先、ちょうどあそこに瞬間移動させるでござる! それでかやの発明が蔑ろにされるようなものじゃないって証明して見せるでござるよ!」


 

 かやの話を聞き、『門下生のみんなも何が始まるんだ、次は妹のパフォーマンスが見られるのか』と、面白いこと見たさに今度はかやの周りに集まってくる。


「本当に大丈夫なのか、これ?  明らかに怪しい見た目をしているんだが……殺人ロボットに変形したりしないだろうな?」


「今回はそんな機能はつけてないでござるよ!  正真正銘、瞬間移動を可能とする装置でござる!  拙者の自信作でござる!」


 かやは胸を張ってそう宣言し、機械の電源スイッチと思わしきおうとつを指で押した。その妙な機械は低くモーターの駆動音を周囲に響かせながら光り、前方からパラボラアンテナのような形状の装置を出現させる。


「覚悟はいいでござるねえ!?」


「おいっ! ちょっと待……」


「 いくでござる! ポチッとな!」


 息をつく暇もなくそらの返事をまたずして、かやは今度は能力起動のスイッチと思わしきもの押した。


 そらは顔を防ぐ動作をし身構えた。

 かやの創る機械に録があったことなど一度もない。恐ろしい結果を招くはずだ! と。


 しかし、予想に反して何も起こらなかった。


「おかしいでござる……動かないござる」


 かやはスイッチを連打したり、モニターを見たり忙しく動く。それでもその機械は駆動音を唸らせたまま変化のないままだった。


「何で予定通り動かないでござるか……何で……」


 かやはかなり動揺しているようだった。


 かやの作った発明品が動かないのは意外であった。

 なんだかんだで今までかやの作った装置が彼女の思惑通りに機能しなかったことは一度もない。


 そらはちょっとかやのことが心配になり声をかける。


「大丈夫か? お前が失敗するなんて珍しいな。まあ、ドンマイだ」


 かやはそらの言葉を無視し、機械の操作を続ける。


 しばらくそうしていたがやはり変化はない。


 門下生の中から、『ミーつかれてきちゃった』とか『ねえ、ししょー、かやーまだなの? つまんないよー』とか待ちくたびれて小言をいうやつが出る。


「失敗じゃない……失敗じゃない……失敗なんてありえない」


「おい、かや。そろそろ時間も押しているし、もういいんじゃねえか。また今度、不具合を直して挑戦すればいいだろ……」


「何で何で何で動かないの!  かやが失敗するはずなんてないんだから! 動けよ!! コノヤロー!」


 かやがバンバンと機械を両手で叩く。


 彼女がこんなに取り乱すのもまた珍しかった。

 一緒に一つ屋根の下で暮らしてきた今までの生活の中でもほとんどなかったのではないか。


 しかし、今は忍者教室の最中だ。

普段ならかやのわがままに付き合ってやらないこともないが、今はこれ以上門下生を放置しておくわけにもいかない。


 そらはかやを強制排除すべく機械から引き剥がそうと羽交い締めの要領でホールドした。


「ほら、かや、諦めろって……」


「ずるい! ずるい! ずるい! そら兄とあおい姉ばっかり目立って! 何でかやは同じように速く走れないの!? 何でかやは同じように刀を持ったらいけないの!? 何でかやは忍術が使えないの!? 動けよ! 動いてよ! このポンコツ!! お前が動かなかったら、かやの存在価値なんてねえんだから!」


 かやは半分べそをかきながら怒りの咆哮をかます。


 はじめてかやの本音をきいたような気がする。


 実はかやはそらやあおいと違い忍術は使えないし、忍者としての技術は何も知らない。

 かやが生まれた時には忍一家として綾目家はもうすでになかったし、そんな危険なことをそらとあおいは教えようともしなかった。


 だが、だからこそかやは忍術の使えるそらとあおいを羨ましく思っているようだった。


「そんなことねえから、お前はじゅうぶんすごい」


 そらはかやに向かって、慰めの言葉をかける。


 ロリガキ三連星が心配そうにこっちを見ていた。

 デブは暖かい目で、中二病は目を閉じてそれぞれ静観してくれていた。

 かやはスルリとそらの腕から滑り落ち、力なくパタリと地面に座り込んだ。


「お願い、動いてよ……」


 かやが一言そう呟く。かやがこんなに元気のない顔をしているのを初めて見た。


「(今日のかやは様子がおかしいな。いや、普段からおかしいけど、今日はおかしすぎる。何も起こらなければいいんだが……)」


 そらの中で妙な勘が働く。

 今朝の爆発といい、調子のおかしいかやといい、いつもと違うことが立て続けに起きている。(爆発は今にはじまったことではないのだが……)


 とにかく、こういういつもと違ったことが起こるとき、とくに他のやつの様子がいつもと違う時は何かが起こる前触れである可能性が高い。

 そらの忍者としての、いや、そら個人としての生まれもった勘の強さがそう言っている。


「(何で諦めねえんだ。かやにとってそんなに重要なことなのか……)」


 そう思った矢先、そらは自分の着ているシャツの下から光が発せられていることに気づく。


「何だこれ? また、ペンダントの石が光りだした……」


 突然、ペンダントの先に取り付けられた化石のような石がまたもや輝き始めたのだ。

 今日、二度目の強い発光であった。


 前回も前々回も、そして今朝も全て爆発があったあとに発光していた。

 昼間でも分かるほどの荒々しい緑色の光だ。


 今の発光はそのいずれとも少し違う。

 確かに強い発光ではあったが、優しく包み込むような安心感のある光り方だ。光のいろも緑色ではなく青色だった。


「(石がこんな光り方したことなんて一度もねえ!! ましてや、爆発の後以外にこんなに強く光るなんて!! 本当にどうなってやがるんだ!)」


 警戒心のボルテージがあがるそら。


 その横で門下生達も何かに反応するように声をあげた。


「that's light! マシンが光ってるネ! Look up! ナンダガヤバそうデス!」


「ししょー!? ししょーも様子が変だよ!? 体が幽霊みたいになってる!」


 例の機械を見ると、機械も全体が青白く光っているようだった。


 そして、自分自身を見る。


 どうやらそら自身の体にも異変が起こっているようだった。


「何だこれは!? 俺の体が透明になってるじゃねえか。ほんとうに幽霊みたいだぞ!」


 そらの体は実体の持たない残像のように半透明になっていた。


 それだけではない。

 相変わらず光続ける石と同じく全身を光らせている機械が一定の周期でぐわんぐわんと振動し出す。


「ど、どうなってるでござるか……どこでもワープくんが変な挙動をしているでござる! こんな数値はありえないでござるよ!」


今まで俯いていたかやが、周囲の普通でない様子に気づき、起き上がって機械のモニター画面をみやる。

かやにとってもこの事態は想定外のようだった。


「お兄さん大丈夫なの!? かや、お兄さんの体がおかしいわ!! 」


「わかってるでござる! 今止めようとしてるでござるよ!! でも、装置が全く操作を受け付けないの!! にいのペンダントと装置が共振を起こしてこちらからの干渉を一切遮断してる!」


かやが電源のケーブルを引っこ抜いたり、機械にUSBメモリをさしてタッチ感応式であろうモニターの画面を操作したりするが状況に変化はない。

それどころか、ますます光と振動は強くなるばかりだった。

門下生達も機械と石と、そしてそらの状態を見て悲鳴をあげたり、ビビり倒したり、口々に騒ぎ立てる。


「もうこんなに体が透明になってしまった。ああ、パトラッシュ、おりゃあもうダメみたいだ。なんだかとっても眠いんだ……」


「おにいさん、冗談なんて言ってる状況じゃないでしょ!! お願い!行かないで!」


そらは俯いて自分自身を見る。

体はさっきよりも薄く透明に、床が見えるほどに透けていた。

本当に消えてしまいそうなほどに。

あまりの異常事態にそらは何だかとっても冗談が言いたくなり、言う。

わかばが手を伸ばし、そらの手を掴もうとするが、透明になった手をすり抜けてむなしくも空を掻くだけだった。





そして、視界が光に包まれた。

一瞬の出来事だった。

かやの声もわかばの声も、他の門下生達の声もぴたりと聴こえなくなってしまった。

何も見えないし、何も聴こえない。

ただ、白い空間が辺り一面広がっているだけ。


あ、やっぱりこうなるのね……


そらはひとり心のなかで諦めを孕んだセリフを吐いた。かやの発明で何もないわけがないのだ。何故油断したのか。

嫌な勘っていうのは総じて当たるものだ。

最初からこのような特異な事態になることは薄々気づいていたのではないか


何がどうなったかは全くもってわからないが、素直に日常に舞い戻れるようなことが起こっていないことだけは確実だろう。

そういえば、いつだったか……かやが余所様の客船を異空間に吹き飛ばしたことがあったっけ?

今ふと何気なくその時の記憶を思い出す。


そらはどうなってしまうのだろうという身の心配よりも、何か一言文句を言ってやりたい気分だった。

かやに、ではない。

まるでこうなることが事前から決まっていたような、そんな予定調和じみた運命のような何かに対してだ。


「(まあ、なるようにしかならんだろ……死ぬ覚悟はとっくの昔に出来ている)」


そらは静かに目を閉じる。

光が遮断され今度は真っ暗になる。


「最後に最強亭のラーメン、チャーシューましまし、ナルト増量でメンマも40本くらい入れて食べたかったなあ……」


そらは隣街の人気ラーメン店、最強亭のラーメンのことを頭に浮かべる。メンマは自由に入れ放題のラーメン。その味に恋い焦がれた。


次の瞬間にはそらの意識は途切れていた。


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