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第1章 3話 バカ達の喧騒と、こと座の光

 全校生徒の集会が終わり、そらは3年生の新しい教室へ向かう。


 結局、遅刻したそらは校長先生のありがたいお話の中、始業式に途中から参加したのだった。


 進級といっても、そらの通う高校は田舎ゆえ生徒も少なく、全校生徒は100人程度、各学年は30数人しかおらず、それぞれひとクラスずつしかない。

 よってクラス替えもない。

 じきに隣街の高校と合併が予定されているのであった。


 そういうわけで、特に新しい環境に緊張する必要もない。


 めんどくさそうに歩きながら大きくあくびをする。

 気がつけば教室のまえまで来ていたそらはけだるそうに扉のとってに手をかけ中へ入る。


「あやめ、おまえ髪の毛すごいことになってるぞ!」


「ぶあはははっ! おまえ顔どうなってんだよ! 煤だらけだぞ!」


「そらくん、しかも何か光ってるし、何か超発光してるし、ウケるんだけど笑」


 クラスのいつもと変わらない見慣れた顔ぶれに新学期そうそう爆笑される。


 そらは今、ニチアサの特撮戦隊ものに出てくる怪人のような身なりをしていた。


 頭はちりじりアフロヘアー。

 束になった髪の毛が大きく反り立ち、針金の入ったワカメが聳え立っているかのようだった。


 顔は煤だらけで、煙突から侵入し着地に失敗した泥棒さながらの格好だ。

 スパナを持たせて、ツナギを着せ、頭に白い薄地のタオルを巻けばこれまたしっくりきそうなほど薄汚れている。


 さらに驚くべきことに、そらは昼でも明確に分かる程に、強い緑色の光を周囲に発していた。

 厳密にはそらの首のペンダントについた例の石が光っている。

 まえにも爆発に巻き込まれた際、そのあとしばらく石が光っていたことを不思議に思っていた過去がある。


 どうもこの石は爆発に曝されると光を放つ性質があるらしい。

 何故そのような性質があるのか。今更解明しようとも思わないが。


 とにかく、奇しくも偶然現代アートを形成した頭に、戦場から帰還した直後のような顔をし、体をサイリウムのごとく発光させているその姿は、もともと悪い目つきと相まってもはや変態にしか見えない。


 笑われるのも無理はないだろう。


「仕方ねえだろ……いろいろあったんだよ。いろいろと……発光するぐらい許してくれよ……」


 そらは明らかにつかれた様子を顔に滲ませ、友人達に返事をする。


 朝の大事件の後、そらは顔を洗う時間すらなかった。

 消火活動に思ったより時間を費やし、気絶したままのかやを着替えさせて、無理やり小学校まで運んでいったのだ。


 身なりを整える時間がないのは仕方のないことだ。


 ちなみに小学校につくと、かやの友人達が胴上げの要領でかやを教室まで連行していった。

 実に手慣れた手つきだったので心配はいらないと思う。


 かやが少し心配なそらは自分に言い訳をしつつ、黒板に張られた席順の紙を一瞥する。


 そして、並べられた机の間の通路をふてぶてしい顔をしながら歩きだした。


「そらも朝から大変だねえ笑われたりして……大丈夫かい? 顔色悪いよ」


「お! やって来たな、遅刻しやがって!。おめえも話し合いに参加しろ!」


 ちょうど自分の席を見つけ、座ろうとすると前の席を中心に輪になってたむろっている5人組のグループに話をかけられた。


 特にそらと仲がよく普段からつるむことの多い、個性が服を着て歩いているようなやつら(変人達)で形成されたグループである。


「顔色悪いんじゃなくて煤で汚れてるんだよ!そんなこと言うけど、さだお、お前こそ大丈夫か? お前も頭おかしいぞ……」


「今朝、新発明のマシーンの動力部分をいじってたんだけど、調整を間違えて爆発しちゃってさ。頭も爆発! みたいな……」


 何の因果か偶然か。

 そらの友人、さだおも同じような理由で髪がボンバーしてちりじりになっており、顔が普段と別の色に変色、もとい煤で顔全体が汚れているのだった。


 なんてバカな理由なんだと、いつもならば呆れるところだが今回ばかりは口をつぐむ。


 類は友を呼ぶように、似たようなバカは同じく似たようなバカな友達を呼ぶのかもしれない。


 自分で自分のことはまともだと自負しているそらはそう思いたくなかった。


「そんなどうでもいいことよりさあ! そらも来たことだし、さっさと始めようぜ!」


「そうだよ! そらくんとさだおくんがおかしいのなんていつも通りだよねっ。早く話し合おうよ」


 一人で悶々とするそらを尻目に友人達はさっさと話の本題に移りたいのか話題が進むように会話の進行を急かす。


 今この場には、顔を煤で汚し頭も爆発させた不審者が2人もいる。


 6人中2人がそうだ。

 しかも、そのうち1人は光っているのだ。


 本来であれば、そら(とさだお)の非日常極まりない身なりについてあれこれと問われるのが普通であろうが、あいにくそらの友人達は普通ではない。

 こんなことくらいでは動じないし、取り立てて反応しないのが普通であった。


 そらはおかしいやつ呼ばわりされ、抗議したい気持ちに苛まれるがとりあえず今は友人達の話を聞いてやることにする。


「ところで何を決めるんだよ。また、何か下らない企みでも画策してるんじゃねえだろうな?」


「ちげえよ! これだよこれ!! 4月の末ごろみんなで旅行行こうって話してたんだよ!」


 メンバーの一人、りんたろうがネットから印刷してきたであろう様々なサイトの情報と皆の意見らしきものがまとめられた紙束を取り出す。

 サイトの情報は主に旅館の所在地やキャンプの仕方など宿に関する内容だった。


「しかし、何でまた唐突に旅行なんて……何か理由でもあるのか?」


「おめえ、春休みの間全然連絡繋がらねえからよ。伝えることも出来なかったんだが、半月ほどまえから計画はたてていてさ。ほら、俺ら今年で学生も終わりだろ? 受験勉強とかで忙しくなるだろうし……最後? ではないだろうけど、このメンツでエンジョイしようぜ的な?」


 あほの言うことは支離滅裂ではあるが、おおむね整理するともう3年生だし受験勉強もあるし、みんなで足並みあわせて遊んだりすることも少なくなる。

 だから、今のうちに青春の1ページという名の思い出作りをやりましょうということであろう。


 発言の内容はとにかく、結構いい考えじゃねーかと思うそらであった。


 ちなみに春休みの間、連絡が取れなかったのはそらの所持していたスマートフォーンがかやの実験兵器によって爆破されていたからであった。


 連絡をとれなかったこと、そこは素直にあやまった。


「宿に関しては、さっき見せたHPのコピー、全て例によってかりんの財閥の子会社が経営するところだから、宿泊費はタダだぞ!」


 メンバーが1人。金持田かりんが縦ロールをふぁさっと手で払い、ふふんと鼻を鳴らす。

 金持田は金持ちである。

 財閥の令嬢であり親が様々な分野に影響力を持っているため、そのコネで宿屋がタダで借りられたり、レジャー施設が半額で行けたりするのだ。


 彼女はバカでは決してないが、彼女の身分でありながらこんな田舎の公立校にいる時点で変人の類いではある。


 家庭の事情とやらがあるかもしれないし直接踏み入って理由をきくことができないのがおしい……


「そして、もっとも重要な、この旅行の意義、目的、醍醐味について! ようは何しに行くかだが……さだお後は頼んだ」


後はよろしくっと、りんやろうが語り手をさだおにバトンタッチする。

『おう! まかせろい!』とさだおがみんなの視線を受け継ぐ。


 宿やら日程やらおおまか計画は春休みに話し合っていたが、肝心な目的についてはまだみんなに話しておらず、りんたろうとさだおしか知らなかったみたいである。


「僕の作った発明品"空中元素探知装置"がちょっと前にほうき星の爆発を捉えたんだ……まあ、爆発と言ってもほうき星の表面のほんの一部なんだが……」


『前置きはいいから、さっさと本題に入れ!』とか、『発明品の名前パクリじゃねーか』とか四方からヤジが飛ぶ。


 バカだがリーダー気質のりんたろうと違って、さだおは変な機械を作ることしか能のない正真正銘のバカだ。


 彼に話を任せると要点に蛇足がついて長くなる。


「堪え性のないやつらだな……結論から言うと4月下旬過去に類をみないほど大規模な流星群がみられるのさ!」


 『おおー? 』と間の抜けた歓声があがり、『流星群? なんだそれは食べられるのか』と誰かが言う。


 こいつらほど受験勉強という単語が似合わない人間たちはいない。

 感性の欠片もないりんたろう率いるグループに天体の持つ神秘性が理解できるわけもなく、本当にこの旅行大丈夫か?と企画倒れになることを心配する。


「通常一時間あたり100個もあれば、多いとされる流星群だが、何と今回は400個あまり流れると推測される。

 これは普通では決してありえない異常さだ! 頭の悪い君達のためにラーメンに例えるとだな。

 通常500円でチャーシュー1個とメンマ10本、ナルト3つのところが、なんとチャーシュー三枚にメンマ40本、ナルト12個ついてくるくらいすごい!」


 今度は『おおおーー!!』とハッキリとした歓声が枠く。


 今ので納得したのかよ!

 チャーシューの数え方は個ではなく、一枚二枚だし、メンマ40本とか何の嫌がらせだよ……


 例えも残念なのだが、その残念な例えで理解してしまう彼らの脳ミソはさらに残念だ。

 そらは虚しさのあまり呆れ返った。


 こいつらとは付き合ってられねえ、これ以上話を聴いていても時間の無駄だ。


「来たばっかりだけど、何か妙に疲れたからやっぱり帰るわ」


 そらはカバンを持ち上げて席を立つ。


 このあとホームルームがあるのだが、バカたちのしょうもないノリの会話を聴いたせいで、何だか心身ともにつかれたのでサボって帰ることにする。


「ええ……もう帰っちゃうのかよ。ホームルームのあと、みんなでどこかに寄って計画の続きを話し合おうって決めてるんだけど……」


「すまねえが、それは無理だ。昼からバイト……っていうか仕事があるから」


 忍者教室のことを思い出しながら、申し出を断った。


 実際には忍者教室の開放まで時間があるのだが、今はとにかくシャワーでも浴びて一眠りしたい気分だった。


「旅行の計画については、明日以降昼休みにでも参加するからさ」


 そういって、そらは教室から出るべく入り口に向かう。


 後ろで『りょうかい俺も保健室でサボってこようかな』とか、『おっけーわたしは屋上でサボってこよー』とか口々に聞こえる。


 なんて不真面目なやつらなんだ。担任の先生が悲しむぞ。


 真面目なそらは(自分ではそう思っている)少し憤りを感じつつ、結局自分はここに何しに来たんだっけと不意に思う。


 自分がしたことは、米国産の古いコメディを体現したような爆発頭で教室に来て皆に笑われただけである。

 という事実に気づくことはなかったそらは、何だかんだ言ってもバカの一員なのかもしれなかった。


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