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第1章 2話 シノビのおしごと

「聞いてるの? おにいちゃん! 反省してんの!?」


 そらは妹のあおいに怒られていた。

 理由はもちろん家の物置小屋を爆破したからだ。


 ちなみに妹のかやはこの期に及んでふざけた態度をとったため、ローリングソバットをくらいとなりで気絶して横たわっている。


「また、どうせかやが変なもん作っておにいちゃんがそれを焚き付けたんでしょ! 毎度毎度下らないことばっかりして家のもん爆発させて、何が楽しいわけ!? 普通の家庭の頭が正常に機能している人間は家のものを爆発させたりしないんだよ……知ってんの!? いや、頭の中が爆発したバカどもが知ってるわけねえか、常識なんて!?……」


「(いや、確かにその通りなんだが……あれ? 何で俺まで怒られてんの?……焚きつける?……むしろ俺が燃やされかけたんだが……)」


 あおいの怒りはまっとうだと思う。そらも完全に同意見だ。


 しかし、一つ解せないのがその怒りの矛先がかやだけではなく、当然のようにそらにも向いていることだ。

 そらは今回、というか前回も前々回もただ巻き込まただけである。


 そらは説明したにも関わらず、一切信じてもらえなかったらしい。

 もれなく共犯者と認定されているみたいであった。


「いやだから言っているだろうが。俺は被害者だって……」


「何被害者づらしてんのよ?  物置壊しといてさあ!」


 そらは思った。何て理不尽な家族なのだろうかと。


 方や自分を実験マウスかなにかと勘違いし殺そうとする狂気の殺人未遂犯であり、方や冤罪を良しとし抗議の声は一切聴かない断崖絶壁の裁判長である。


 そらは両方のおめめから涙がちょちょぎれそうになった。


「とりあえず、かやは風呂掃除1000日分ペナルティ、おにいちゃんは80日間晩御飯担当ね……それで手を打とう、そうしよう」


 そらは無慈悲にも罰を言い渡された。

 罪人に反論の余地などなく勝手に処遇を決められ話をまとめられる。


 戦闘でむちゃくちゃになった街は誰のせいによるものか。

 悪をとめるために戦ったヒーローにもその責任の一旦はあるらしい。

 結局、俺に家事を押し付ける口実を作りたかっただけじゃねーかよ!!




 ____しばらく、あおいは機嫌が悪く、燃え盛る倉庫の前を行ったり来たりしては『クソッ何よこれっ!』と言いながら瓦礫を蹴ったり、瓦礫を掴み持ち上げては『あつっ!! クソがっ!』とか言って瓦礫を落としたり、不可解な行動を繰り返していた。


 しかし、しだいに疲れてきたのか、気が済んだのか。はああ……とため息をついて立ち止まる。


 少しの間、何かブツブツとつぶやいた後、そらのもとへ帰ってきた。


 あおいはそらに尋ねた。


「そういえば、おにいちゃん。今日、学校始業式昼までだから忍者教室、昼からやるんだよね?」


「ああ、そのつもりだけど、どうかしたのか?」


「うん、ちょっとね。ほら、今月も生活苦しいでしょ。隣街のターミナルビルで日雇いのバイトするんだよ。忍者教室の指導、いつもは二人でやるけど今回はおにいちゃんだけでやってくれないかなあって」


 あおいが振ったのは、仕事に関する話題であった。

そらは唐突に仕事の話をされ少々驚いたが、すぐにあおいの意図を理解した。


 そらとおあいは自分達の生活費諸々を稼ぐため仕事を受け持っている。


 というのもそらとあおいが働かなければ、収入はゼロ。

 3人ともども路頭に迷うはめになるからだ。


 そらとあおい、およびかやには両親がいない。

 それどころか祖父母もおらず親戚もほとんどいなかった。


 みんなあやめ一族の忍者だったが、十年前のとある事件で帰らぬ人となったという過去がある。


 一応、唯一父の弟であるおじさん夫妻だけ存命であり、後見人としてそらたちの面倒ごとを見てくれているのだが、3人分の生活費と屋敷維持の税まで負担を強いるのはあまりにも申し訳ないため(というかおじさん夫妻は駆け落ち夫婦で貧乏だ)、自分達の分は自分達で働いて賄おう。


 そのように、残されたそらとあおいは決めたのだった。


「ああ、それくらいなら全然かまわねえぞ。忍者教室はそんなに大変な仕事でもないから用事あるんだったら、俺一人でもじゅうぶんだ。浮気調査の方だったら、ちょっと人手がほしいかもだけど……」


 ちなみにそら達には、大きな屋敷と莫大な現金が遺産として相続されたのだが、かやが6歳の時に他人の所有する客船を異空間に吹き飛ばしたため、3人兄妹は所持金のほとんどを失ったという経緯がある。


 それゆえ、綾目家の家計は自転車操業一歩手前の状況で火車刑に処されているという事実もあった。


「しかし、日雇いか。こんな中途半端な時期に1日限定で募集するなんて珍しいな」


「ええっとねえ。何かのエイプリルフールイベントとからしくて。何と1日働くだけで5万円ももらえるらしい……」


「5万ももらえるのか!?  何か胡散臭い気がするが?  怪しいバイトとかじゃねーだろうな? 本当に信頼おける出所なんだろうな?」


「大丈夫だって! ちゃんと情報は裏からも調べたから! それにやっぱり今月の食費が……」


 そらは具体的な内容がわからない上、好待遇すぎるその仕事に疑いをかける。

 だが、あおいとしては(もちろんそらとしてもだが)四の五の言っている状況ではなかった。

 今月もまた毎月と同じように、綾目家の財布事情は担当であるあおいが何度電卓を叩き直してもマイナスになるという混沌窮まる状況立たされていた。


「はあ、そうだよなあ……忍者教室と浮気調査以外になんか新しいビジネスでも考えっかな……かやの造った兵器的なやつを勝手に売っぱらうとか」


そらが後頭部を右手で撫でながら、物騒なことを言う。

そらはとにかく、あやめ家の現状に頭を悩ませていた。


 今現在そらとあおいは2つの仕事を軸に家計を回している。


 一つが忍者教室。

 もうひとつは浮気調査だ。


 忍者教室は地域の住民を対象にした習い事のようなものだ。週に3日ほど綾目家の道場を解放し、開催している。

 忍者として実際に活動していた綾目家のブランドイメージを借り、近所の子供達をはじめとした門下生になんちゃって体術を教えたり、みんなで楽しく和気あいあいと忍者のまねごとをする、半分詐欺のような……いや歴とした習い事なのだ。


 浮気調査の方は文字通り、張り込みなどで依頼主の相方の動向などを調査する。

 こちら少々本格的で依頼料も多いので、大した収入原となる上ネット上での評判も高い。

 一方で忍者教室のように定期的な仕事ではなく、依頼によっては遠くの地に遠征しなければいけないこともあるためあまり積極的にはしたいくないと言うのがそらとあおいの内情だ。


 実のところをいうと、そらとあおいは幼少期のころ忍者の修行を受けており……というか普通に忍者として活動していた過去がある。


 なのでその経験を生かして、あるいは過去に会得した技術にあやかってそうした仕事で3兄妹が食っていける(成人男性が3人家族を養って生けるくらいの額)程度には収入を得ているのだ。


 しかし、それだけでは(主にかやが家を破壊した後の修理費でなくなる)やっていけないのが実情であった。


「おにいちゃん、それ本気で言ってる?……」


「そんなわけねーだろ……」


 あおいがジト目でそらをみやる。


 そんなことをすれば、街がただではすまないだろう。

 法の裁きだって受けかねない。

 もっとも現状でも色々危険物を所持している時点でアウトなのではあるが。


「はあ、とりあえず生活資金についてはおいおい考えるとして、目の前の木炭小屋を消火しないとな……ああ、物置代が」


「そうだった! もう時間もないじゃん! さっさと支度しないと遅刻しちゃう! かやを起こして、とっとと火を消して、早く家を出るよ!」


 積もる問題は山ほどあったが、まずは目の前のことからだった。


 猟師に打たれて伸びきったたぬきの死体のようなかやをおもむろに持ち上げ、脇にかかえて母屋に向かう。


 今から火を消して、仕度をして伸びたかやを小学校まで送り届けてと色々していたらとても登校時間までに間に合わないだろう。


「仕方ねえ……始業式そうそう遅刻だな」


 まだ朝だというのに今日何度目かわからないため息をつく。


 その足取りは重かった。





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