2年後と最終回
ブラフは魔法で回復を図るが間に合っていない。
「しつこいなーこいつ。早くやられろよ」
と依里亜は巨大化したまま蹴りを入れる。傍から見ると無慈悲すぎる攻撃だが、依里亜は気にしない。
それより朔太のカードが使えたり使えなかったりの理由はわからないのが気になった。
「レビ、以蔵の使ったカードなんだった? 」
ブラフの頭を踏みつけたまま、依里亜が訊く。
『『Resist』ですね。全属性ダメージ軽減バフ』
「ブンジはAir Cutterとか、なんかダブルっぽいのでダメな可能性はわかるけど、レビのはなんでダメだったんだろう? 」
ブラフの頭がミシミシという音を立てている。依里亜がレビと話し、よそ見をしてるうちにステータス画面を出して、何かをいじり出した。
『僕のは『Explosion』で爆破しようと思ったんですけどねー』
「スペルミスだと発動しないとは言ってたけど、エクスプロージョンの頭文字は『E』よね、つか、全カード出して唱えてるんだからミスる訳がないんだけど」
家電たちは手はないが、ドアの中に入れたり、上に乗ったりしたまま唱えたので、それが原因かとも考えた。
「あー、もう1回違うのやってみればいいんだ。どうせカード減らないし」
依里亜「『Bomb』」
依里亜が巨大化しているせいか、巨大な爆弾がゴロンとでてきた。拾ってそれでブラフを殴り、体の上に置いた。
レビ『同じやつで『Bomb』』
爆弾がゴロン。
ブンジ『おなじので『ボム』』
爆弾ゴロゴロ。
マイカ『さっき僕はできたから違うので『Missile』』
不発。
以蔵『バタン! 』
M134。ミニガンがゴロンと出てきた。
「あ」
依里亜はこれで全部わかった。忘れもしない、PvPで朔太が出して無駄撃ちして終わった武器。
つまり、いま発動するのはかつて朔太が1度使ったスペルのものだ。
朔太よりも上を行く能力だなんておこがましい。やはりコピーはコピーだ。そして、朔太の意思や言葉が染み込んでいるんだなと思った。
別に本当に死んだ訳ではないけれど。
「もしかして以蔵は使えない理由気づいてた? 」
『そうですよ』
しかし、ということは、朔太が今まで使ったスペルなら使いたい放題だ。
「いや、ちょっと待て。以蔵しゃべれるの? 」
『はい。しゃべらなかっただけで』
「まじか……しかも、女性の声だし」
『ええ、だから、黙ってました。以蔵ですし』
家電たちが「おおお!」という目で見る。
「さ!みんなこいつにトドメさすよ。朔太が今まで使ったスペルなんて全部覚えてるわよね? 」
『お、おう! 』
「覚えてないな。まあ、攻撃スキルは少ないし被ってもいいから。あ、でも、トドメは刺さないでね。ギリ残そう」
その瞬間、ブラフの姿が消えた。
「え」と思ったが、再び現れた。最初の状態で体力も満タンである。
「くそ、リセットまでしちまったよ、後で怒られるな、こりゃ」
「運営でしかもラスボスが『リセマラ』とかマジでクソ」
『『Impossible』』
レビがすぐスペルを唱える。
ネタがバレていれば、体力があろうがなかろうがそんなものは誤差だ。
ブラフは「あっ」という間もなく攻撃に晒される。
レビ『『Zoo』』
アメリカンバファローの群れが現れ、ブラフをはね飛ばしひいていく。
以蔵『『Mountain』』
巨大な山が空中に現れ容赦なく踏み潰す。
ブンジ『Dragon』
ドラゴンが現れ、ドラゴンブレスを吐くと、山ごとブラフを吹き飛ばす。
マイカ『『GOD Hand』』
バカでかい手首から先が現れ、ブラフを空中に押さえつけた。
「じゃあ、やっぱり私はこれね。『Attack』からのレイピアで。さらに【クイック】」
依里亜が目には見えない速さで動き、圧倒的な手数でブラフのHPを削った。
全員が攻撃している間、リセットまでしたはずのブラフは手も足も出なかった。
「やっぱり、あなたはただ卑怯なだけのクソ。まじでクソよええ」
HPを1ミリだけ残して、依里亜は攻撃を止めた。
「さて、最後にちょっと聞きたいことあるのよね」
「早く殺せよ。何も言わねえよ」
「いや、答えてくれないとー。これなーんだ? 」
依里亜が手のひらを上に向け開くと、『メタリックな虹色に輝く5cmくらいの立方体』が乗っていた。
「あ、それおまえ! いつの間に! 」
ブラフが自分のポケットを探り出す。
「さっきおまえの胸ぐら掴んだ時に、もしかして持ち歩いてるんじゃないのかと思ったのよ。だって、確か手分けしたとしても20億人に直接会ってチュートリアルしてるんでしょ? まあ、そしたら持ち歩かないとねえ」
その立方体は、この『ザゲコス』、つまり『The game of the COSMOS』にログインするためのハードだ。ブラフが依里亜にチュートリアルをした時実際に見せていた。
「それが、どうした。あの時も言っただろ。『既にゲーム内だから起動できない』と……おまえ、まさか」
「ええ、テイムしたわ。『ログインOK』って言ってるわよ」
「けっ、したきゃするがいいさ。二重ログインは自動で検知して『垢BAN』だよ。ログインした『魂』で判別してるから、スマホを交換したら大丈夫なんてことはねえぞ。永久にそいつはログインできねえよ」
「へえ、いいこと聞いた。じゃあ、それは、あなたが二重ログイン扱いになるとどうなるの? 」
「あ、うぐっ……」
「あなた運営で仕事してんだから、本体はゲームの外よね? つまりボスとして今いて、やられたらまた復活して、次のパーティと戦うってことやってんだろうけどさ、つまり外からログインしてるのには変わりないわよね? 」
「……」
「まあ、こんな事で仕事を失うのは大変よねえ、同情しちゃうわー、だって、ボスと戦いに来たプレイヤーをちょっと殺しただけだもんねえ」
「悪かった。悪かったよ。ボス戦も勝ちでいいし、なんならイベント終わったあと、金も装備も増やすしレベルもカンストまであげてやってもいい。だから、許してくれ」
「あら、そう。謝るんだ。謝っている人を許さないほど、私は酷い人じゃないからー。じゃあさ、あなたに選ばせてあげる」
依里亜はカードを出した。『A』と『J』。朔太のカードは表裏両方に文字があるので隠していない。
「見えちゃうから目をつぶっていてね『Blind』」
強制的に見えなくした。
「じゃあ、2枚のうち『A』をあなたが引くことができたら、戦いはおしまい。『J』なら『垢BAN』ね。運営でもマジのチートは垢BANするのがゲームよ」
「うう……」
もちろん、依里亜は許す気なんて全くなかった。『嘘つきには嘘つきでいい』とも思っていたし、こんなやつをラスボスにした運営にも非難を表したかった。
見えなくした間にカードをすり替えた。カードは2枚とも『J』だ。黒と赤の2枚。『ブラックジャック』のルールならどっちを引いても『バースト』だ。
「ううう……」
選びきれないブラフ。当たり前だ。
「依里亜そこまでにしとけ」
朔太が立っていた。
「朔太! 」
依里亜は朔太に飛びつくと泣き出した。ひとしきり泣いたあと、依里亜が朔太に問いかける。
「どうやってここに? 」
「そりゃあ、死んでないもの。回復には時間がかかったけどな。カードがあればビルから落下とか有り得ないし。つかさ、僕ののカードが残っている時点で察しろよ」
「あ、そうか……ごめんね。守れなくて」
「守ってもらうほど弱いかな、僕は」
2人は笑って抱き合った。
「さて、ブラフさんよ。僕が『不動明王』から聞いた話だとパーティメンバーの信頼関係が試されるってことだったんだが、そんなことはあったのかい?」
「ああ、パーティメンバーに入り込むと解散を躊躇したり、解散したあとお互いの攻撃も入るから、ギスギスするんだよ、みんな。あんたたちは関係なかったけどな」
「OK。わかった。スッキリしたところでトドメ刺すけどなんか言うことは? 」
依里亜も後ろで頷いた。朔太に会えたので、こんなやつはどうでもよくなっていた。
「何もねえ……あー、そうか、転生組かあんたら。死なないようにゲーム楽しんでくれ。それだけだ」
「運営らしい一言ありがとう」
というと、朔太はブラフをぶん殴った。HPが消し飛びブラフの姿が光の粒となって消えていった。
イベントクリアのファンファーレが鳴り響き、大量の経験値と大量のアイテムが手に入る。
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結局、違うやつがラスボスになり、イベントをクリアできたパーティは激増した。
「あれはあれで強かったんだね。卑怯なだけかと思ってた」
「ま、確かに僕も死にかけたしな」
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2年後。隕石イベントが始まったが、依里亜のパーティがとっととクリアした。
レビが【時間干渉】で時間を止め、マイカの【テレポート】で隕石の上に移動し、朔太の【大富豪】でバフをてんこ盛りにし、依里亜が【テイムMAX】で、隕石をテイムし速攻停止。軌道を逸らす。
ついでだからと、ブンジが【貫通マイクロ波】で穴をあけ、以蔵が【アイテムボックス改】に無尽蔵にレアアイテムを詰め込んで帰ってきた。
運営は『バグキャラを放っておくんじゃなかった』と嘆いたらしいが、止める手だては既になかった。
依里亜は、ゲーム内の宇宙空間に第2の地球を作ろうと考えている。
「星くらいの大きさならテイムして作れるけど、生き物がどうしてもテイムできないからなあ」
「まあ、今が楽しいからいいでしょ」
「ミートソースパスタ食べる? 」
「いや、カレーがいいな」
【完結】
ご覧いただきましてありがとうございました。
ある程度きちんと終わらせることができました。
北海道編とか、横浜編とか、京都編も書きたかった気持ちはありますが。このまとめ方ではそれは蛇足と言うものでしょう。




