回数と回数
依里亜が唱える。
「【テイムⅢ】」
テイムしている家電とのスキル共有。
「【押し潰し】」
以蔵のスキル。【狙った敵の真上にワープしたあと、落下し押し潰す】
「からの【巨大化】」
同じく以蔵のスキル。依里亜の身体が『鉄の兵隊』の上空にワープしたあと落下しながら巨大化する。
一瞬遅れて以蔵も同じスキルを発動。
金属が砕けて曲がる歪な音が響く。2体の巨体が兵隊たちの攻撃前に押し潰す。しかし、『鉄の兵隊』たちの全てではない。
「【テイムⅡ】」
【自分より小さい無生物を一定時間テイムすることができる】
『鉄の兵隊』は【巨大化】した依里亜よりは小さい。
お互いに戦い数を減らしていく兵隊。中にはブラフに攻撃を始めるのもいる。攻撃が当たった兵隊もその瞬間に連鎖しテイムされていく。
そして、金属には【サンダー】が効果的だ。ブンジがまるで『雷神』のように雷を落としまくる。
味方にしてもいいが、依里亜はただ勝つことだけを考えている訳ではなかった。自らの手で倒すと決めていた。だから兵隊なんてどうでもよかった。排除できればいい。
巨大化したままブラフを蹴り飛ばした。物凄い勢いで壁に叩きつけられるブラフ。HPの3分の1が吹き飛ぶ。
「やられた」
【嘘つき】スキル発動、をしたつもりだった。
回復しない。慌てるブラフ。しかし、次の詠唱までには3分かかる。戦いの中でクールタイムの存在にそろそろ気づき始めた依里亜は、確認のために攻撃をやめ様子見をした。
【巨大化】も解除し、『卵』となった『火の鳥』を回収し、以蔵の【アイテムボックス】にしまう。
兵隊たちは勝手に戦い、数を減らしている。
依里亜は、ブラフから視線を逸らさずテイム家電たちにあるものを配った。
「あら? クソブラフとか言ったっけ、おまえ。もう回復できないの? マジでクソすぎる。ほんとにラスボスかよ」
できるだけクールに言おうとしたが、怒りが先行して言葉が汚くなった。
「ちっ、おまえまたなんかやりやがったな」
「おまえさ、はっきり言ってやるよ。卑怯なだけで中ボスたちより弱いよ。そして戦っててクソつまんねえ」
3分が経った。
「回復しない」
【嘘つき】スキル。発動せず。
「なにやったんだよ、おまえ! 依里亜! 」
「これだよ」
依里亜はあるものをブラフに見せた。
朔太のカードだ。
「窓際に落ちてたよ。おまえには『impossible』を使った。効果があるのは実証済みだったからな」
「なぜ、使えるんだ……ああ、テイムか」
「もちろんそう。拾ったのは2枚だけだが『S』と『C』だったから、かつて朔太が使った『Self Copy』で増やした。いま手元には【ダブル】の分含めて52枚全てがある。そして、いくら使ってもまた枚数は戻る』
「……本人以上の能力じゃねえか」
「さらに言うなら、【テイムⅢ】で、家電たち全員も私の【テイムⅡ】を共有したから、今ここにいる全員が無限にカードを持つ」
【テイムⅢ】はスキル共有。依里亜のスキルを家電たちも使える。【テイムⅡ】は自分より小さいものをテイム。カードはどの家電よりも小さい。
朔太はカッコつけてカードを1枚ずつ出していたが、全て出しておくのがありなのは本人も言っていたこと。
「……」
ブラフは黙るしかなかった。
「『Repair』」
依里亜が静かに唱えると、家電たちの破損箇所が全て元通りになった。
「グダグダする気はない。1秒でも早くお前を倒す。みんなそれぞれカード使って」
「『Attack』」
全員の攻撃力が限界まであがる。
レビ『『Explosion』』
不発。
ブンジ『『エアカッター』』
不発。
マイカ『『Protect』』
全員の防御力が限界まであがる。
以蔵『バタン』
何かが起こったか、わからなかった。が、全員の体から光を発する。
今度は依里亜が慌てる番だった。発動するスキルとしないスキル。バフは入ったものの、誰も攻撃できていない。結果的にブラフにダメージは1ミリも入らない。
「お、なんだ? カード持ってるのにまた肉弾戦か? おれは何もしてないぞ。はははは」
起き上がるブラフ。攻守が再び逆転する。隙を与えてしまった。封じたのは【嘘つき】だけだ。
「どうやらその【テイムⅢ】とやらは5回のみしか使えないようだな」
ブラフは自分のステータス画面から運営のコントロールパネルにアクセスし、依里亜のスキルを覗き見していた。そして書いてあることをそのまま読んだ。
ブラフは、また金属の塊をばら撒き始めた。今度に宙に浮かび高速で飛び回る武装した飛行物に変形していく。
依里亜は考えていた。いまの戦いで使った家電のスキルは【表示】【巨大化】【押し潰し】の3つ。だから、マイカと以蔵しか【テイムⅡ】を発動できなかった? それで5回分がおわり? ほんとに? なにか見落としてない?
「依里亜さん、5回ってみんなで5回じゃないですよ」
「え、やっぱり? 」
『鉄の空軍』が変形を終わろうとしている。
「だって、最初にスキルをとった時を思い出してください。依里亜さんは【フリーズレーザー】と【サンダー】しか使ってないけど、そのあと僕たち4人は【クイック】も【ファイア】も全員が使ってますもん。【テイムⅢ】で共有できるスキルは、1人5回です」
「あ、そうか! わかった。んじゃ、カードが使えなかったことは一旦おいといて、まずこの飛行隊やっつけないとね。私はあと2回誰かのスキルを使える、と」
「いや、依里亜さんそれも違うと思う」
「え? 」
「いや、だって【テイムⅢ】でスキル共有してるでしょ? その間に僕が【テイムⅢ】をさらに使ったら? 」
「あ! 」
「そう、『使える対象』は僕ら家電たちのスキルだけど、みんなが順番に【テイムⅢ】をかけ続ければ、依里亜さんが使えるスキルは最大で25回だと思うよ」
「OK! それだけあれば十分。あ、あと、以蔵の掛けたスキルだけ確認しておいて」
迷いの晴れた依里亜は、【巨大化】をし飛行隊を【押し潰し】たあと、【フリーズレーザー】【サンダー】【ライトビーム】と家電たちのスキルを存分に撒き散らしたあと、再びブラフを蹴り飛ばした。




