いつものと最上階
「ではー、恒例のスキルチェック~ドンドンパフパフ!」
シーンとするパーティ。
「なによそれ。あー、みんな自分のスキルわかってるからでしょー。はい、じゃレビから見るよ」
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レビ Lv42
スキル:【指令、移動、麻痺、弱点サーチ、声マネ、幻影、弾力化、スマイル、投影】
新スキル:【実体化】
【幻影、投影を実体化する】
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「実質、分身ね。攻撃もできるのだとしたら、単純に攻撃力は倍でしょうけど、やってみないと分からないことも多いような気もするわね」
『投影の実体化はやってみましたけど、任意の空間を切り取ってコピーできましたよ』
「使い道はアイディア次第のような気もするけど、今のところ分身しか思い浮かばないわねー。ブンジはー? 」
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ブンジ Lv44
スキル:【必中、スチーム、カウントダウン、表示、サンダー】
新スキル:【磁力】
【強力な磁場を発生する。磁性を持たないものにも磁気を帯びさせることも可能】
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「磁力っていうと、『S』と『N』ってあれか。くっついたり、離れたりね」
「味方に使っても、敵に使ってもよさそうだね」
(ピー!)
『とおくても じりょくでよせて ばくはする』
「なるほどなるほど。それはいいわねー」
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以蔵 Lv41
スキル:【アイスシュート、アイテムボックス、弾力化、フリーズレーザー、巨大化、押し潰し】
新スキル:【玉ねぎミサイル】【斬れちゃう冷凍】
【他のモンスターを集めバーサク状態にして襲わせる】
【対象を過冷却状態にする。動くと凍る】
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「『玉ねぎ』は雑魚キャラたくさんいるところはいいわねー。ボス戦では何か他のモンスターも出てこないなら余り意味はなさそう。」
「まあ、戦いはイベントのあともあるしね。『斬れちゃう』方は、何か秘密を握っているやつに白状させたりには使えそう。動くと凍るぞ! みたいな。まあ、解除できるかは知らんが。名前的には凍らせたあと武器で攻撃するのが前提かな? トドメを刺そうぜ的な」
このゲームでのパーティは6人までと決まっている。従って以蔵が懐かれたために連れている『火の鳥』は『ペット』扱いだ。
パーティ全体に効果のあるようなバフスキルは効かないのだが、『火の鳥』自体が強いし、なにせ不死身なので好きにさせている。場合によっては、自分で卵になることもできるので融通は効く。セルフモンスターボールってことだ。
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マイカ Lv43
スキル:【オートドライブ、ドリフト、悪路走行、クラクション、ウォッシャー毒液、積載無制限、カメレオン】
新スキル:【ホバークラフト】【ライトビーム】
【水の上を走れる】
【光属性の攻撃】
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「マイカはどんどん居住性がよくなってるわね」
「そうだな。今までだって普通に住めるレベルだったのに、どんどんパワーアップするね」
「そのうち空飛べたりするんじゃない? 」
『もう少し攻撃についても触れてくださいよ。これでも結構強いですよ、僕』
確かにレベル60になると飛べるスキルを覚えるマイカだった。
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朔太 Lv45
スキル:【カード】【ダブル】
新スキル:【ダウト】
【カード5枚を消費することで、任意のものごとを無効にする】
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「うっ……これはやばいスキルじゃない?もしかして」
「この『ものごと』の範囲がよくわからなくてさ。ただでさえカードスキル自体がイメージだから、割となんでもありと言えばありなんだけど、とりあえず『バフデバフ』あたりを全部剥がしたり、ダメージをなかったことにしたりはできた。技をめっちゃわざと食らってから使ってみたらなんもなく戻った。ダメージを食らったことさえなかったことにできたよ」
「他は実際にピンチになってみないとわかんないもんねー」
「5枚も使うから強力なはずなんだけど、だからこそ1日あたりのお試し回数が少なすぎてね。【ダブル】を使っても1日10回が最大。アルファベットは26文字だからね」
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依里亜 Lv46
スキル:【テイム、キュア、スロー、ヒール、バリア、ファイア、クイック、テイムⅡ】
新スキル:【テイムⅢ】
【テイムしている、されている同士でスキルを共有できる。※1度の戦いで5回まで使用可能】
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「やったー!またテイム系きた! 」
『あ、朔太さんのお兄さんのスキルに似たのがありましたよ!』
マイカが思わず口にする。
『あの時は以蔵さんとブンジさんとスキルを共有したけど、そりゃーもう強力でしたよ。もっときつい条件というか制限はありましたけど』
「へえ! 今回のはー、緩い条件しか無さそうだから助かるー。ちと試してみましょうか」
みんなを連れて、1階下の廊下まで降りる。
そこそこ強いモンスターがポップする。
「【テイムⅢ】。ねえ、マイカ、私のスキルなんか使ってみて? 」
マイカが【バリア】を発動した。
「んじゃ、私も」
依里亜が手を伸ばし【ウォッシャー毒液】をマイカに掛ける。
『ちょ、やめてくださいよ。ダメージはないけど。目の前に敵いるじゃないですか』
「ほら、すぐ倒しちゃうと確認できないからさ。んー、まさか、私が【積載無制限】とかはできないわよねー。試したくもないけど。んじゃ、他のスキルも……」
依里亜が指先から【フリーズレーザー】出したあと、【サンダー】を落とす。
「あらあら、なんでもできるのね。このスキルもかなりのチートよ。えーとマイカ、他の家電のスキルは使える? 」
『ダメみたいですね。あくまでつかえるのは、依里亜さんのスキルだけ』
「ふーん。つまり、朔太のお兄さんのスキルは、『家電同士のスキル共有』つまり、横の繋がり的な感じで、私のスキルは『テイマーとテイムされているもののスキル共有』つまり、縦のつながり的なイメージで考えるとよさそうね」
「全くリスクもデメリットもなく家電たちの全スキル使えるのはやばくないか? いい意味で」
「うん。なんかしっぺ返しでもありそうな気がするスキルね。これ」
依里亜と朔太が話してる後ろで家電たちが、依里亜のスキルを使いまくってモンスターと戯れている。特に【クイック】が人気で、敵に攻撃もせずにヒュンヒュンと走り回っている。
最後は家電4人で【ファイア】をぶち込んでモンスターを燃やし尽くした。
戦闘後に確認すると、戦闘以外のスキルの共有回数に制限はなかった。たとえば【ヒール】は戦闘時でなければ、各自で何度でも掛けることができる。
ただし、スキル共有は【テイムⅢ】が掛かっている間だけなので、依里亜が【アイテムボックス】を使うのは意味がなく、しばらくしてスキルの効力が切れると、入れたはずのアイテムは依里亜の周りにばら撒かれた。
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「さて、準備万端ね。30階に上がりましょう」
依里亜がみんなを促した。
29階からはエレベーターで上がった。ドアが開くと明るく白い壁が続いている。おどろおどろしい雰囲気は一切ない。
廊下を進むとすぐに大きめの両開きの扉が現れた。中に入ると、大きめのタイマーが2時間からカウントダウンを始めた。
圧迫感はないが、逃げ出さないように柵で囲まれたかなり広めの範囲に『子犬』と『子猫』が数匹ずつ。
向かって右の柵の中に『子犬』、左に『子猫』がいる。それぞれの柵の前に赤いボタンが腰の高さに設置されている。
どちらかを2時間以内に押すのがこの部屋のルールだ。
色々と話し合ったが決め手はないので2時間も考える必要はないという結論に達した。『どっちを選んでも同じ』だ。
ボタンを押すとボスが現れる可能性もゼロではないが、そんなことはないだろうとも思った。なぜなら『子猫たち』が戦闘に巻き込まれるから。
この『ザゲコス』の運営はこだわる所がズレているが、そんなことはしないだろうとここまで来た依里亜にはわかっていた。
多数決にした。「せーの」で、それぞれのボタンの前に移動する。パーティは3対3に分かれてしまったが『火の鳥』が『子猫』の前に行ったので、じゃあそれでいいかとボタンを押した。
武器に手を掛け緊張しながら何が起こるかを待ったが、柵と柵の間の奥にあるドアが静かに開いただけであった。
そのドアはビルの最上階にある社長室のドアのようであり、ラスボスに相応しくないような気もした。
部屋に入るとだだっ広く高い天井の空間で、壁は全面ガラス張りになっていた。戦闘でこのガラスは割れるのか割れないのか。
「やあ」と、依里亜はふいに後ろから肩を叩かれ、驚きのあまり飛び上がった。




