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無生物テイマーは家電が好きなのです  作者: はむにゃん
第2章 仙台のビルでイベントするよ
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大気と熱

 熱を吸い込む掃除機が、たとえその吸い込んだ熱を異次元に飛ばしてしまうとしても、その掃除機自体の運転のために熱を発することは自己矛盾か、という問題は一旦横におく。


 アーヴァの酸素玉に入って宇宙から落下なう。


 落下によっておこる空気の収縮で『断熱圧縮』が起こり、玉の中の温度が上がっているなう。



「これ、熱を遮断することはできないのかしら。この玉って何重かに結界を張っているのよね? 」


「いくつかの結界のうち1つでも『真空』にできるなら熱は中まで伝わりにくくなるけど、僕のスキルはあくまで『酸素濃度を変える』ことなんだよね。酸素以外の空気の分子はなんともできない。窒素とか二酸化炭素とか」


「そういえば、このゲームの世界って『痛さ』は感じないけど、『熱さ』は感じるのね」


「『痛み』って曖昧なところあるよね」


「『くすぐったさ』とかマッサージの心地よい『痛み』とかも遮断されているのかしらねえ」


 というと、依里亜は自分で自分をくすぐった。


「自分でやっても、くすぐったさを感じる小脳は予測できちゃうから、くすぐったくないよ」


 とギヤースッディーンが手を伸ばしくすぐろうとしてきたので、顔の前に手のひらを向ける。


「それ以上近づいたら【ファイア】を撃つ」


「こんな狭いところでそんなことすんな。それよりまずやるべきことがあるだろ」


 イワンが呆れ顔でたしなめる。半笑いではあるが。



 これからどんどん落下速度はあがり、それとともにさらに温度もあがるだろう。そしてそれはわりとあっという間の話だ。


「しょうがない。やるか。迷ってる暇はない。シン、針を1本だして。リーナは熱いのを吸ってね」


「ここで針を出すってことはまさか……」


「まあ、それしかないでしょ。私が()()()()()()()()わ」


『空気』は『無生物』で『依里亜より小さい』たしかにテイムの条件としては合致する。しかもテイムの範囲は無限だ。


「手はどうするんだい? 外は超高温だぞ。隕石だと()()12km以上で大気に突っ込んで、数千度から1万度くらいまであがるとか聞いた事がある。で、燃え尽きる」


 イワンが言うと、全員が不安そうな顔をした。


「【ファイア】は結界の中からでも出せたのは、たまたまだと思う。でも【テイム】は直接『大気』に触れないとだめ」


「そんなのやってみないとわからないじゃないか」


「もうやってるのよ。さっきから何度も……」



 全員にギヤースッディーンがバフをかけてステータスアップし、できるだけ長く熱に耐えられるようにした。何かする係の人はそれをできるだけ素早くできるようにする。


 シンが出した針を「えいや」とイワンが結界を中から刺す。シャボン玉のように弾け飛ぶということはないそうだ。だから、壁に穴を開けるイメージ。ゆっくりと抜いてそこに依里亜の手を当てて【テイム】をする。


 漏れていく酸素はアーヴァが玉の中の酸素を頑張って増やす。入ってきた熱はリーナが吸う。


 穴を開けるのは落下の方向に対し真上。大してかわらないだろうけど。


 という作戦にした。


 バフ。『×66』今までの最大値。全員に触れステアップ。針をイワンが刺した。結界からはみ出た部分が瞬時に蒸発した。しかし、ここで止めてもいずれは全滅だ。


 ゆっくりと針を抜くとすごい勢いで空気が漏れていき、酸素玉がみるみる小さくなる。負けじとアーヴァが踏ん張る。『スキル』に関わる部分は物理法則は関係ない。わずかでも酸素が残っていればそれを増やす。気圧が高くなければ一定時間内であれば純酸素でも酸素中毒にはならない。


 同時に玉の中の温度もぐんと上がった。リーナはフル稼動し熱を吸い取る。しかし、温度の上昇に能力がついていっていない。時間がかかれば燃え尽きるだろう。


 依里亜が穴に手を近づける。


「あつっ」


 思わず手を引っ込めてしまった。しかし、すぐに思い直し手を伸ばす。決意した表情に変わった。


 ジリジリと焼けていく手のひら。大気には触れているようだが。


「ああ、だめ!」


「どうした? 」


()()()()()()()()て『隣の分子と一緒に仲良くテイムされてね』ってやっても、分子同士がなかなか出会ってくれない」


「え、じゃどうなる? 」


「できなくはないけど時間がかかる、かも。うん、熱いけど、ほんとにほんとに熱いけど、私が空気たちに触れる範囲を少しでも広げるしかない」


 依里亜はそういうと少しずつ、結界の外に手を出す。出したところから手は蒸発していく。


「うおおおおおおおお!!!!」


 依里亜の声は熱を我慢するのではなく、気合いを入れるものであった。


 右手が肘の下まで燃え尽きる。


「まだ足りないのか!!じゃあ、もう1本くれてやるよ!!!」


 依里亜は、迷いなく左手も突き出した。


「おおおおおおおおおおおおおおお!!!これでも足りないか!!」



 その瞬間、落下速度ががくんと落ちた。


 テイム発動。


 テイムされた空気の分子たちが、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()


 その動きは倍倍ゲームだ。


「ドン!」というソニックブームのような音がすると、見渡す限りの空に光が広がっていった。


 ふわっとした空気に包まれた気がした。落下速度が桜の花びらより遅くなる。


 熱が一気に下がる。湧き上がる歓声。抱き合って喜ぶ。


 急いで依里亜は自分に【リヒール】を掛けまくる。HPは全回復したが、重症の両手が治るまでには時間がかかりそうだ。


 できるだけゆっくりと降りることにした。酸素玉は『足場』でもあるのでそのままだが、空いた穴から依里亜が空気たちに指示をし、落下地点を定める。


 富士山レベルにでかいロボットは探さずともかなりの上空からも見えた。もちろんそこに降りるつもりだ。


「ぜってえぶち壊す」


 依里亜が呟く。


【リヒール】も66倍。ステータスも66倍になっていた依里亜は、ロボットにたどり着くまでの小一時間で両腕を回復させた。


 ロボットはただ立っていた。お腹の部分に穴が空いていた。その部分だけを宇宙に発射したのだろう。


 まだ地面まではたどり着いていないが、その分ロボットの頭も見えた。シンが66倍の威力となった針を無数に飛ばした。満遍なく全身に刺さり、周りのあらゆる部品を弾き飛ばす。デバフをかけるまでもなく圧倒的に攻撃力で勝っていた。


 その攻撃がきっかけとなった。


 イワンが66倍のスピードとパワーで体のパーツを飛ばす。素手で殴りつけ、キックを食らわす。ボコボコとロボットのボディが凹み穴が開く。ロボットの腕が飛ぶ。何百mもある腕がもげて落ちていく。でかすぎて落下速度はゆっくりとしか見えない。


 アーヴァが、66倍になったステータスでロボットの全身を酸素に包む、そこに依里亜が【66倍ファイア】を食らわせる。大爆発と大炎上。


「まだ、こんなものじゃ済ませないわよ」


「あ、ちょっと待って、依里亜さん『×99』でたわ。ほい」


 酸素玉から飛び降りる依里亜。燃えさかるロボットを頭の上からレイピアで切り裂いていく。


「おいおい、熱くないのかよ」と飛んでいるイワンの頭が声を掛ける。


「さっきのに比べたらこんなのは熱いうちに入らない! 」


 といって3km以上を垂直落下しながらロボットを真一文字に切り裂く。真っ二つ裂け両側に倒れていく。


 着地した依里亜が、懐かしそうに地面を見つめ踏みしめる。


「じゃあ、トドメはこれしかないわね」


 依里亜は手のひらを広げ、両手を大きく空に向けた。大気が嬉しそうにザワつき揺れる。テイムされた大気が大地までも震わせる。


「みんな、ありがとね。助けてくれて」


 依里亜が腕を振り下ろすと、超超超気圧でロボットを囲い、一気に押しつぶした。


 ベキベキ、メキメキという大音量が鳴り響き、富士山の大きさだったロボットは、あっという間に数十mのただの金属の塊に成り果てた。


 リーナがそれを吸い込み、どこか違う次元に送り飛ばした。


 稼動する掃除機が仄かに熱を持つ。それは安堵を感じさせる温度だった。





皆様ご覧いただきましてありがとうございました。


昨日の「活動報告」にも書きましたが。ここで一旦終わりとさせていただきます。



―――――――――


と書いてましたが。「活動報告」の通り。最後まで終わらせましたので、残り数話お楽しみくださいませ。

伏線もできるだけ回収はしました。


(2020/06/18 19:15:57)

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